2 9月21日・水曜日
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9月21日・水曜日
ここ2日間というもの、まったく勉強が手につかず、もっぱら暗号文とにらめっこしてばかりの佑介だったが、きょう槙田庄司の家にいけばきっとなにか暗号解読のヒントが手に入る――そんな気持のままペダルを勢いよく踏んで学校に向かった。
きょうも、誰いうこともなく佑介の机に集まり、ランチを3人で食べたが、3人ともランチボックスに目を落としたまま黙々と箸を使うばかりだった。お互いに誰かの喋るきっかけを待っているみたいだった。
耐えられなくなった佑介がやっとのように口を開く。
「なあ、ふたりともそんなに重くならないでくれよ。それでなくても君たちふたりを巻き込んだことに後悔してるんだから……」
佑介は悲鳴にも似た言い方でふたりに訴える。
「ごめん。私、暗号解読なんてはじめてのことだから、正直なところどう取り組んだらいいものかちょっと悩んでる」
やっとのように、茜はいまの気持を隠さずに話した。
「おう、おう。オレもそうなんだ。茜のいうとおりだ」
弘務は水を得た魚のように茜の言葉に調子を合わせる。
「いいんだよ。オレだってそうなんだ。きのうも、その前も用紙とにらめっこしてるだけでまったく進展がない。自分自身の不甲斐なさに頭を割りたくなるくらいだ」
佑介はふたりを慰めるようにいった。そして佑介は続ける。「とにかく、授業がすんでから槙田の家に行って来るし、弘務は入江先輩のところに行くことになっているし、茜は図書室で調べ物をしてくれることになってるから、本格的に話し合うのは明日からしよう」
「でも、あと4日しか猶予がないのに、えらくのんびり構えてるな、佑介は」
弘務は自分のことのように真摯な顔つきになっていう。
「だってがむしゃらに辞書を引いたり、インターネットで調べたり、3人が同じことを調べたりしてもそれこそいたずらに時間が過ぎてくだけだろ。せっかくみんながこうしてオレのために協力してくれてるんだから、時間を有効に使ったほうがいいと思って……」
「私も佑介の意見に賛成。だって、無責任かもしれないけど、暗号を解読するのに協力はするけど、もし解読できなかったらどうする? その場合は潔く審判を仰ぐよりないんじゃないの? でも、私としては、誰がなんの目的でやってるのか知らないけど、人の命を弄ぶようなことを決して許すことはできない。だから残りが4日だろうが3日だろうがそんなこと関係ない。与えられた時間で絶対に暗号を解いて見せるわ」
「サンキュ、茜」と佑介。
「そういう意味でいったんじゃないんだ。オレだって少しでも佑介の力になりたいと考えてる。なんかこう頭の中がまとまらなくて、自分自身に対するジレンマがそういわせたんだ。ごめん」
弘務はこくりと頭を下げた。
「わかってるわよ。そういう気持は弘務だけじゃないよ。私だって同じ心境だし、佑介だってきっと同じよ」
茜は、ばらばらになりかけた3人の気持を束ねようとしている。
「ああ、茜のいうとおりだよ。気になんてしてないから、もっと元気出してくれよ」
佑介はそういうより他なかった。
「うん。ところでひとつ佑介に聞いておきたいことがあるんだ」
「なに?」
「いまでも暗号メールのこと知ってるのは、オレたち3人だけ?」
「ああ、オレはふたりにしか話してないから」
佑介は、なぜ弘務がそこのところを気にしてるのか理解できなかった。
「私だって秘密にしてるわ」
「で、佑介は本当にこの3人で解決しようとしてるのか、それとももっと協力者を欲しいと思っているのかどっち?」
佑介は弘務の言葉に一瞬逡巡した。なぜならば、知恵を寄せ合うならば頭脳の数が多いほうがいいに決まっている。だが、もしここで頼るとしたら……と突然いわれても心あたりなどない。クラスでそんな話を持ちかけたら、あっという間に学校中に広まり、知恵を借りるどころか笑い者にされるのが落ちだ。
「――本当をいうと、ひとりでも多くの協力者が欲しいと思ってる。いや、けしてふたりが心もとないというわけじゃないから、誤解しないで欲しい」
「そんなふうに気を廻さなくても大丈夫。ね、弘務?」
「まあな。でもオレはいまのところあまり力になってないから、えらそうなことはいえない」
「そんな言い方するなよ。オレには弘務の気持が充分伝わってるからさ」
お互いに重い気持を胸にしたまま、朝からほとんど口を利かなかった3人だったが、佑介の言葉がきっかけでそれぞれが持っている胸の内を吐露したことによって絆がより深まった気がした。
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