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 数日間校内に不穏な空気が地面を這うように流れていたが、夏休みに入ったことで事故のことについてはほとんど耳にしなくなった。

 ところが、夏休みが終わって新学期がはじまり、やっとあの忌まわしい出来事を忘れかけた頃になって、今度は自分に思いがけない『死のメール』が届いたのだ。

(とうとう自分のところに巡ってきた。なぜオレが択ばなければならないのだ……)

 胸中は穏やかでなくなった。

 一方的にメールを送りつけるという、あまりにも理不尽で傍若無人なやり方に内臓が熱くなるほどの憤りを感じるのだが、届いてしまった以上どうすることもできない。

 前例もあることなので、結果はどうであれとにかくこの暗号(サイファー)を解読するのが先決である。解読さえすれば問題はないはずだ、と佑介は自分に言い聞かせた。

 それにしてもあと7日間――『死神』との戦いの火蓋はいま切られた。


 佑介は胸のうちを固めると、まずパソコンを立ち上げてインターネットで検索をはじめた。もちろんメールにあった他の12人の高校生に関してである。

 どのように検索したら目的の記事に辿り着くかはわからなかったが、思いつくままにキーボードを叩いた。そうしているうちにいくつか高校生の死にまつわる記事が目に止まった。だが、原因に死のメールが関わっているということはどれにも書かれてなかった。

(やはり悪戯メールなのだろうか――)

 佑介は釈然としない胸のまま、一字一句間違えないように届いたメールと同じ文字をパソコンに打ち込み、それをA4の用紙にプリントアウトした。

 打ち出した暗号文にあらためて目をとおす。一度ばかり目をとおしたところで理解できる代物でないことはすぐにわかった。頭が細い紐で締めつけられたみたいに痛くなった。

 とりあえず佑介はすべての熟語の意味を調べはじめることにした。

 本箱から国語辞典を取り出して暗号にある文字を引いてみる。

 時間をかけて調べた辞書に書いてあった言葉を繋ぎ合わせると、


「黄金の光りの跡は闘おうとする心。魂を盗んだ責任を問うことを長く恨む」

 

 辞書を引きながら新しい言葉の出会いに感心はするものの、いまの佑介にはそれらをひとつひとつ噛み締めている余裕はなかった。

 こんなに必死になって辞書を引いたことはこれまで一度もなかった。先人に解ける者がいなかったというのが本当だとしたら、想像以上の難門に違いない。その反面、どこかに挑もうとする気持がなくもなかった。

 佑介は、どこから手をつけたらいいのかを考えながら用紙を手にしてベッドに倒れ込んだ。いまはただ暗号とされる部分を眺めるばかりだ。しばらくして暗号から目を離し、ゆっくりと目を瞑ってこれからどうしたらいいのか思慮する。しばらくすると、今度は突然のように目を開いてメモを読み直す。それの繰り返しを何度もするうちに、気がつくと窓の外が白みはじめていた。

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