第十四話   穆炎!?

第十四話


雲知雲燦の家の応接間の真ん中で空気が急激に震え、両手で雲知を抱いて、肩に雲燦を背負っている千守は、急に現れた。


千守:「ほほ。人生は面白いものだね。今日はあなたとあなたのお兄ちゃんを背負って、お宅には来られるとは思わなかった。。。」こう言いながら、千守は雲知をゆっくりおろして、また背中の雲燦をソファーの傍の床に下ろした。


この時、雲燦はぐうぐうと鼾をかいていた。この様子を見ると、穆炎はただ彼達に寝かせているだけだった。だけど、目が覚めたら、さっきのことをすべて思い出すか?


千守は苦笑いした。雲燦の顔を見ると、思わず雲知の夢の中で見た情景を思い出さずにはいられなかった。


部屋に入ってまず目に入ったのは、真ん中にある四角い茶卓、その左右にある二つの太師椅(注釈:

         )、またそれぞれ一方側に並べられた2列の椅子。ここが応接間に違いない。

頭を左に向けると、木の透かし彫りのアーチはとても美しい。

千守はぼんやり歩け続けた。部屋の中は灯かりが揺らめいていた。千守は一歩一歩深くまで歩いていったら、その部屋はまるで別世界のようだ。壁いっぱいの本棚には書簡が置かれている。


千守は驚きながら全体の部屋を眺めていた。

こう考えているうちに、何かを踏んだような気がして、思わず頭をさげて見た。

見たとたん、冷やし汗が出るほどどきっとした。

この時、千守の足もとの床に血だらけだった。古代の長い服を着ている少年は血の中に倒れていた。

その少年は、正にいまの李雲燦だった!!


千守:「だけど、前世はなぜあなたを殺さなければならないのか?」雲燦のぐっすり寝ていた顔を見て、千守はため息をついた。しばらくぼうっとしていた。「むしろ。。。彼の夢の中に入って見るか?」千守は周りを見回して、穆炎は来なかった。先ほどどこに行ったかなあ。


千守:「じゃ。。。」彼は雲燦を見て、また、雲知を見た。どっちの夢を先に見たらいいか?

しばらくためらってから、目を閉じ呪文を唱えた。瞬く間に、彼は消えてしまった。


千守はやっぱり雲知の夢の中に入った。煙が消えた後、千守は自分が古代の服装を着ているのがわかった。雲知は古代の夢を見ていた。きょろきょろ見たら、自分が竹林の中にある馬を走らせる道の空に浮かんでいるのに気付いた。


地上から馬の蹄の音が遠くから近くまで伝わってきて、千守は頭を下げ見たら、「やばい」と思った。その馬に乗っている人は正に雲知だ。いいえ、違う、正確に言うと、诺雲だった。彼女は相変わらず前回の夢の中の血の汚れだらけの服装を着て、馬に乗ってこっちに駆けてきた。


千守:「あら!大変だ!。。。!?」千守はばたばた隠そうとしたが、ふと前回趙永安が話したことを思い出した。


趙永安:「ばかな子。あなたは、穆炎はあなたたちが先方と話せる能力を持っていると思っているか?」


千守:「違うのか?!だけど、当時雲知の夢は古代の夢だし、わたしは現代の姿で現れたから、確かに雲知を混乱させる。だから、彼女を邪魔しなかったの。」


趙永安はしばらく考えてから、「穆炎は自分が作り出した夢の中でのみ、人間と話せる能力を持っているが、人間の自分の夢の中で、先方と話せない、ということは、ひょっとすると穆炎自分も知らないかもしれない。」と言った。


千守:「どうして!!?」


趙永安:「それは。。。」趙永安はにっこり笑った、「人間自分の夢の中にいる時、人間はあなたたちが見えない。あなたたちが彼らの夢の中にいる時、。。。」趙永安はちょっと間をおいて、千守を見ながら悠々と言い続けた。「ただ空気なのだ。透明なもの。」



千守はここまで思うと、隠そうとせずそのまま空に浮かで、恒诺雲が来るのを待つことにした。

この時の诺雲は、狂気のように馬の鞭を持って馬の体の両側を打ちながら、「蔡允、畜生、しねえ!!」と罵りながら、千守のそばを速やかに通していった。


千守:「この様子だと、まさか、あの刺客を追いかけているか?つまり、書斎から走り出たわたし?は。。。。元々蔡允と呼ばれている?。。」


千守は急いで追いかけていった。


間もなく、兵営の正門が目の前に現れた。正門の前の兵士がとっくに诺雲だとわかり、慌てて前に行って御礼をした。


诺雲は馬から下りず、声を高くして怒った。「蔡司馬はどこだ?!」


守衛:「お嬢様、司馬は出てまだ帰ってきていないです。」


诺雲:「まだ帰ってきてない?。。。。いつ出た?お供は何人?」


守衛:「お供はついていないです。昼間出かけました。」诺雲はこれ以上聞かず、馬の腹をひどく蹴って、「ジャ」と言って、鞭を打ちながら、まっすぐ中に入ろうとした。


守衛:「あら、お嬢様、それはいけないのよ。まず中に通報させていただきますから。」二人はあたふたと馬の綱を懸命に引っ張ろうとした。


诺雲:「でたらめをいうな!あなた達に通報させるもんか?!恩知らずのもの、よくわたしを阻止したいか!诺雲は真正面から勢いよく二人に鞭を打った。「お父さんに報告するから、軍事の懲罰をさせよう!」

二人の兵士はすぐ手を外し、地面に跪いていた。「小官は中々そうやる勇気がありません。」


诺雲は振り向きせず、まっすぐ蔡允の兵営のテントの前駆けてきて、大きな声で「蔡允!蔡允!!出てこい!」と叫んだ。

蔡允の兵営のテントの前に立っている守衛は诺雲を知っているので、诺雲が夜中にかんかんとなって馬に乗ってきたのを見て、何か大変なことでもあったのかと思い、慌てて腰を曲げお礼をした。

「司馬は兵営の中にいません。昼間出ておりまだ帰ってきていないです。」


诺雲はこのまま諦めず、馬の頭をあげ二人を地面に蹴っ飛ばして、テントの中に入ってはっきり見ようとした。

「诺雲!」突然、テントの中から、叫び声が伝わってきた。


この叫び声が、テントの外にいる人たちをびっくりさせた。

地面に倒れた二人も驚いて顔を見合わせた。この時、もっと驚いたのは、诺雲と空にいる千守の二人だった。その声は別人ではなく、正に穆炎からだったからだ。


守衛:「穆隊長!?」


诺雲:「穆炎!?」


この一瞬、永遠と思えるほどの時が流れたような気がした。兵営のテントから、ゆっくりと人が出てきた。その人は穆炎だった。

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