第十五話 天機漏らすべからず

第十五話


诺雲は振り向きせず、まっすぐ蔡允の兵営のテントの前駆けてきて、大きな声で「蔡允!蔡允!!出てこい!」と叫んだ。

蔡允の兵営のテントの前に立っている守衛は诺雲を知っているので、诺雲が夜中にかんかんとなって馬に乗ってきたのを見て、何か大変なことでもあったのかと思い、慌てて腰を曲げお礼をした。

「司馬は兵営の中にいません。昼間出ておりまだ帰ってきていないです。」

诺雲はこのまま諦めず、馬の頭をあげ二人を地面に蹴っ飛ばして、テントの中に入ってはっきり見ようとした。

「诺雲!」突然、テントの中から、叫び声が伝わってきた。


この叫び声が、テントの外にいる人たちをびっくりさせた。

地面に倒れた二人も驚いて顔を見合わせた。この時、もっと驚いたのは、诺雲と空にいる千守の二人だった。その声は別人ではなく、正に穆炎からだったからだ。


守衛:「穆隊長!?」


诺雲:「穆炎!?」


この一瞬、永遠と思えるほどの時が流れたような気がした。兵営のテントから、ゆっくりと人が出てきた。その人は穆炎だった。


诺雲:「あなた様、あなた様は。。。なぜここにいるのか!?」

诺雲は口では、“あなた様”と呼んで、まるでここに来た目的を忘れたように、先ほどの居丈高な振る舞いも煙のように消えてしまった。彼女は地面にいる守衛を見て、先ほど穆炎が自分の名前を呼んだのを思い出して、思わず頬が赤くなった。「あなた様は、なぜわたしの名前を呼び捨てしているの?」


穆炎は黙ってにっこり笑って、瞬きをした。瞳が褐色から金色に変わった。そうすると、诺雲と地面にいる二人の可哀そうな守衛は、すぐ昏倒した。

この時、空にいる千守は、この場面に完全に驚かされてしまい、頭もまったく考えられなくなった。「これ、いったいどういうことだ!!???」


煙が再び目の前に浮かび、疑問と驚嘆を抱きながら、千守は現実に戻った。


千守:「そのおやじによると、雲知の夢の中にあることは、2200年前の前世のことだ。そうしたら、その中になぜ穆炎がいたの!!?彼は妖怪だけど、どうして人間の世界に入って、正々堂々と人間と一緒に生活できるのか?!まさか、穆炎とそっくりしたもう一人の人か?」


しかし、先ほど階段のところで穆炎が雲知を抱いた瞬間、彼の目つきが嘘をつかないものだ。


千守:「あの二人は知り合っているのは間違いない!穆炎は雲知を知っているだけではなく、雲知も穆炎を知っているのだ!!!」


千守は頭をさげ、穆炎が雲知を抱いた時の目つき及び彼が自分を見上げた時の異常な冷たさをゆっくり考えだした。そうだ、一種の冷たさだ。これらのことから、穆炎が雲知を知っているだけではなく、彼女に重い感情を抱いていることがわかったようだ。


千守:「だけど、初めて穆炎を連れて上海に戻った時、二人はベランダに立って雲知が放課後、住宅団地に入るのを待った情景から見ると、穆炎は雲知を知らないようだった。これはいったいどういうことだ!!?まさか、穆炎は知らないふりをしていたか?」と千守は心の中で思った。


千守はいくら考えてもわからなかった。周りの空気が急に震えて、彼女は雲知の家から消えた。


趙永安の三素草本屋ロビー


本屋のロビーの空気が微かに震えて、千守は現れた。

千守:「趙お爺さん!趙お爺さん!!趙お爺さん!!!」千守は大声で叫んだ。


趙永安:「もういいもういい。。。。どうしたの?」趙永安はいつかわからないが、千守の後ろに現れた。


千守:「穆炎だ!わたしは雲知の夢の中で、だれを見たか、当てて見て??穆炎だ!」千守は、言うことがしどろもどろだった。「朝、あなたと分かれた後、わたしは穆炎を見つけて、彼と一緒に木の上に座って話した。彼は何も言わず突然消えるとは思わなかった。彼はどこに行ったか、知っているか?。。。わたしが追いついたら、彼が階段から転落しようとする雲知を抱いたのをこの目で見た。彼達が見合わせる目つきを、知っているか?彼たちが絶対知り合っているのだ!!彼たちは知り合っているのだ!また、今日雲知の夢の中で、つまり、恒诺雲は、兵営の中に、蔡允と呼ばれる人の兵営のテントの前に、穆炎を見た!!別人ではなく、穆炎だ!!彼は同時に、三人に催眠を施した。」


趙永安:「はい。。。」趙永安はにこにこしながら聞いていた。


千守は、自分がだらだら話してから、趙永安が反応とも言えないほど微かな反応を見せたのを見て、狂気のようになってきた。「ねえ、これはいったいどういうことだ??あなたはとっくにこのことを知っているか!?」


趙永安は瞬きをした。「なにを知っているか?」


千守:「。。。」千守は急にどこから話せばよいかわからなくなり、趙永安をぼんやりと眺め、ため息をついた。「穆炎は。。。わたしと雲知の前世に、一緒に生活したことがあるか?彼はわが蔡家族を守る神様じゃないか?どうして人間の世界には現れることができるか?その他の人間の目の前にどうして現れることができるか!?いったいどういうことだ?」


趙永安:「天機漏らすべからず」趙永安は眉をつりあげた。「わたしは確かにとっくに知っているけど、このことはわたしからではなく、穆炎から自らあなたに教えるべきだと思う。あなたは雲知の夢の中にいて、つまり彼女の前世が穆炎を見た以上、そろそろあなたにはあるものを見せなくてはいけないのだ。」


千守:「なに?」


趙永安はにっこりと笑って、手まねをしながら、「わたしについてきて」と言った。千守は反応しないうちに、既に趙永安と一緒に本屋から消えてしまった。


南京夫子寺 大成宮殿の前


空気が震えて、趙永安と千守は現れた。


千守は見上げた。「大 成 宮殿。。。ここは?」


趙永安:「ここは、南京夫子寺のメイン宮殿だ。」


千守:「南京夫子寺!!!?わたしたちはなんでここに来た?」


趙永安:「ここは、穆炎の家だ。」千守からの返事を待たず、趙永安は言い続けた。「まだ覚えているか?あなた達は、春のピクニックのその日、最初に行くところは本来この夫子寺だったはずだ。」

千守は頷いた。


千守:「つまり、その日、車の事故がなくて、あなたが生きていれば、同じ日に穆炎と会えるのだ。彼は、そのベンダントのため、あなたを知るわけだ。」


千守は何も言わなかった。


趙永安は、軽くため息をついた。「穆炎はここで、千年近く蔡家族を待ったが、あなたが来るとは思わなかった。来て、入ろう。あなたに見せるものは、中にあるから。」そうすると、彼は千守を連れて宮殿の中に入った。


宮殿の真ん中には、大きな孔子の肖像画がかけられている。趙永安は肖像画の前にゆっくり歩き、足で測量し、肖像画の前約数メートルのところに立ち留まった。「来て。わたしのそばに立て。」


この時、千守はめずらしそうに、きょろきょろ見ようとしたが、やむを得ず諦めて、趙永安のそばに戻らざるを得なかった。


趙永安は両手が地面に向けて手まねをして呪文を唱えた。そうすると、瞬く間に地面から色とりどりの明かりが趙永安と千守を包んだ。


千守:「これはなに?」千守は明かりを指差して聞いた。


趙永安:「穆炎が自分で作った扉だ。」趙永安はずるく笑った。


千守:「なに!!?」千守が言い終わらないうちに、二人は明かりの中で一緒に地下に滑り落ちた。

千守の目の前にあるすべてが、瞬く間にがらりと変わった。この地下は、まったく現代的な簡素風の住まいだ。


千守はしばらく呆気に取られ、何も言えなくなった。


趙永安:「ほほほ、これは、2800年生きている、蛇の妖怪の家だと誰が思いつくか?」趙永安は眉をつり上げて言った。


千守:「だけど、この扉をどのように知っているのか?また、さきほど入った時のテレポーテーションは普通と違うみたい。」


趙永安:「それか、それは呪文が違うだけ。穆炎がセットした入門パスワードと見ればよい。」


千守:「あなたはどうやってわかったの?穆炎は自らあなたに教えようとは思えない。」


趙永安:「しいっ。。。。。」趙永安は人差し指を唇にあて妙に笑った。「天機漏らすべからず」


千守は額に手をあて目を閉じた。


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