第Q話「揺籠結界世界についての授業」
三十人ほどが一緒に勉強している教室の中で、後ろの方の席の
「かつてこの星の上を様々な色が彩っていました。それぞれがそれぞれの色を誇りに思い、お互いの色を尊びました。ですが、ある人間が自分の色こそが最も優れた色であると思い、全ての色は自分と同じ色であるべきだと考えるようになりました。そして、いつしかその人間は様々な色があることを憎む様になり、世界を一色に塗りつぶすのだと決心します。その為に、その精霊が最初に行ったのは、自分の邪魔をするであろう八柱の精霊神様たちを騙して閉じ込めることでした。それから精霊神様たちの力を欲した人間は、他の精霊神様たちを人質にして脅迫することで、愛の精霊神様から、その力の秘密を聞き出して奪い取ったのです」
「アキミツ、そこまででいいですよ。次はゲルタ、いまの続きを読んで」
「はい」
少年が座ると、かわりに一番前の席に座っている背の低い
「そうして、精霊神様たちの大いなる力を手に入れた人間は、自らを
「はい。次はヒサキね」
言われて、
「増長していた
「はい。じゃあ、次は……ジアンね」
「え、俺!?」
男、女、男と男女交互に当たっていたので、次は自分は無いだろうと思っていた
「ちゃんと聞いてなさいよ」
と、薄桃色の金髪の少女に言われてバツの悪そうな顔をしてから、教えて貰った箇所を読み始める。
「ですが、そこは精霊神様たちが様々な色を匿っていた地でした。もちろん、一色の中から生まれた違う色たちも、精霊神様たちの手により秘密裏に助け出されていました。
「はい。モイラの言うとおり、次はちゃんと聞いててね。じゃあ、次はそのモイラにお願いしようかな。続きをお願い」
先ほど、読む場所を教えていた少女が立ち上がって読み始める。甘いがよく通る声をしている。
「争いを終わらせた八龍たちは我が子である八の精霊神たちに尋ねます。これで人類は十度もこの星を憎悪で塗りつぶしたことになる。お前たちはこれでもまだ人類を護るのか?と。八龍たちは何度も裏切られて苦しむ我が子を救いたいと思っていたのです。精霊神様たちは、それでも人類を信じたいのだと訴えました。そんな我が子の訴えに、八龍たちは再び世界が憎悪に塗れたら、今度こそ人類をこの星から完全に消去すると言って飛び去りました。こうして、人類は世界の端に生きることを許されたのです。それから精霊神様たちは、世界の端を巨大な結界で包み、なんとか人が住める大地として蘇らせました。その大地には、
「はい、ありがとう。モニカさんは読むのが上手だから安心して聞いてられるわ」
少し照れたような顔をして席に着く
「今読んで貰ったのが、皆さんもよく知ってる
全員が一斉に手を上げる。
「じゃあ、マサイチ」
「はい。人種です」
当てられた大柄な
「そうですね。他には?」
「早かったので、エステル」
「文化です」
「それも正解。他に何か思い付くことはありますか?」
それ以上は出てこないのか、今度は手が上がらない……のかと思っていると、最後に読んだ
「モニカ。教えてくれる?」
自信がないのか少しもじもじしながら立ち上がる
「わたしのお母さんは、カルダリアで生まれて、この国に来ました。他の
先生は少し驚いたような納得したような顔をしてから、話し始める。
「そうですね。はっきり言ってしまうと先生とあなた達は違う人間です。当たり前のことですね。でも、その当たり前こそが、精霊神様たちが守ろうとされたものなんじゃないかと先生も思うわ。だって、誰かと遊ぶときにも自分と全く同じことをする人間と遊ぶより、違う人間と遊ぶ方が何が起こるかわからないからワクワクするでしょう? だから、違うことって素敵なことだと思うの」
生徒が自分の言葉を噛み締めているのを確認してから、話を続ける先生。
「自分と違う人間の中に、自分と同じなにかを見つけるのも楽しいですしね。それに、自分が困ったときには、自分と同じ人間も困っていると思うのよ。それじゃあ、助けて貰うのも無理よね」
「
「そうね。これは先生の想像でしか無いけど、
「「「「ええ~!?」」」」
「
「強いのに怖いんですか?」
生徒たちは先生の意外な言葉に、納得いかずに口々に声を上げる。
「最初から強かったわけではないと思うけど、きっと、強くなってからも怖かったのね。だから、他の色の存在を認めなかった」
先生の言葉に
「何がそんなに怖かったんですか?」
教室が静かになる。皆が知りたいことだからだ。
「違うことが……だと思います」
「「「「えええ~~!!」」」」
「さっきは、違うから楽しいって言ったのにぃ」
「逆のこと言ってるぅ~」
今度も納得がいかない声が教室に響く。それが静まるのを待ってから話し始める先生。
「自分と違うと言うことは、相手が何を考えているのかわからないということ。例えば、相手が自分のこと好きだと嬉しいけど、嫌いだと悲しいでしょ? 考えていることがわからないということは、好かれているかもしれないけれど、嫌われているのかもしれないのよ」
教室内をゆっくりと歩きながら自分の考えを述べる先生。
「わたし、ちょっとだけわかる気がする」
先ほどモイラと呼ばれた
「どうして?」
目の前に立ち止まった先生に尋ねられて言いにくそうにする
「わたしも、はじめは怖かったから」
「転校してきたとき?」
隣の席の
「みんなに嫌われたらどうしようって」
皆が彼女が転校してきたときのことを思い出す。確かに、いまとは違って言葉少なに座っている用な印象がある。いまは男子にも負けずに活発だが……。
「いまは?」
違う少女の言葉に
「怖くないよ」
「どうやって、怖くなくなったの?」
先生の問いに顔を上げる少女。
「思い切ってみんなに話し掛けたら、みんなも普通に話してくれて、いつのまにか大丈夫だって思えるようになりました」
優しく頷く先生。他の生徒たちの顔も安心したような顔になる。
「そう。あなた達にはお互いがはじめの一歩を踏み出す勇気があったのね。でも、
先生の言葉を飲み込むように聞き入る生徒たち。
「ちょっと先生が話しすぎましたね。ここからは、班ごとに話し合って、どうやったら再び世界を憎悪に沈めないで済むのか? を考えてみてね。難しいことを考えなくても、みんななりの考えでいいのよ。来週、班ごとに発表して貰います」
そう言われて、一気に生徒たちは五人の班に分かれて、話し合いを始めた。
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