「最後の晩餐」ーそんなバカな!事件ー

詳しい事情はここでは割愛しますが、ある日、私とM夫くんは、修復を終えて公開された名画「最後の晩餐」を見ていた。

教会の薄暗い食堂の壁の高いところ、その晩餐に描かれた人々の何人かは、驚いたり戸惑ったりしているのに、情景全体としては静謐さをたたえている。


みんな、近寄ったり離れたり、あちこち歩き回ったり、感動しながら懸命に写真を撮り、何度フラッシュ焚くなと注意されても、ちらほら焚く人が絶えず、係の人も大変そうだった。


私とM夫くんもそれぞれ思い思いに歩き回り、15分の見学時間が終わった。


私はカメラの撮影はズブの素人、ヘタクソの極みなのだけど、さすがにここでは気合いが入っていた。入り過ぎて、いつものスマホカメラではなくてデジカメで撮っていた。


思えば、これが大失敗だった。


食堂を出て写真を確認すると、すべてがボッケボケ。

そうだった。久しぶりに引っ張り出したので忘れていたけど、私のデジカメは古過ぎて性能がよくないうえ、薄暗い、フラッシュなし、上方を見上げて撮るなど、素人には難度の高い条件のもと、家宝になるような写真が撮れるはずもなかった。


せめて、ちゃんと絵柄が見えて、ちゃんと現地に行って撮ったという「記念」になるような写真がほしい。

私はM夫くんに「帰ってからでいいから、私のパソコンに写真送ってね。私、全部失敗しちゃったから」と半ベソで言った。


するとM夫くんは「えっ? 写真なんか撮ってないよ」と、こともなげに言ったのだ。


ちょっと待ってちょっと待って。んな、バカな。。。

さっき、感動してウルウルしたとか言ってたよね!?

なのに、写真、撮らなかったの!?!?


するとM夫くんは戸惑って、「なんか、おかしい?」と言ったのだ。


いやいやいやいや。

別のところでは撮ってたよね?

あのね、これ、「」だったんだよ!?


M夫くんはだんだん不機嫌になった。

「感動したら、写真撮るのがふつうなの?」


これ以上はムダだった。

はい、私はM夫くんを、まだわかっていませんでした。


後にM夫くんが語ったところによると、時々写真を撮ってるのはSNS用で、「写真なんて、さらしてドヤ顔したいから撮るようなもんでしょ?」だそうで。

だったら、最後の晩餐の本物なんて、究極のドヤ顔できるじゃん! と、私。

でも、その時は「あまりに感動して、写真撮ることを思いつかなかった」そうです。


実は、M夫くんは「心のアルバム」重視な人だった。

私は貧乏だったのでカメラを持ったのが遅くて、持った時はうれしくて加減がわからず撮りまくり、「残したい」「せっかく来たのだから、後からもこの景色を見たい」という貧乏性も相まって、そのまま現在に至る、です。


そんなんだから、いつも旅の途中でメモリが足りなくなり、M夫くんのカメラ頼みになって呆れられる。

しかも、「撮っても、あとで見ることほとんどないよね」ってM夫くんにバレている(笑)から、バツも悪い。

私の場合、「写真の枚数は、その景色にどれくらい感動したかっていうバロメーターなの。いっぱいある時は、それだけ感動したってことなの!」とワケのわからない言い訳をしつつ、実は写真が下手なせいで、あとで見てもリアルタイムの感動にはかなわないって、わかっちゃいるけどやめられないってヤツなんだけど。


それでも、今でも若干、いや大いに、私はナットクがいってない。


最後の晩餐の本物を目の前にして写真を撮らないことに驚愕した私の方がおかしいのでしょうか!?


M夫くんメモ:

M夫くんは自称「情が薄い」人間で、同居を始めて引っ越してきた時に、整理が面倒くさい、別に思い出に浸る気もないし、二度と見ないだろうからと、古い写真を捨てようとした。私が慌てて待ったをかけて、整理が面倒ならと全部スキャンしてあげて、デジタル保存した。

私もそうだけど、それに輪をかけて自分が写るのを嫌がるので、むしろ私の方が「二人で撮ろうよ」とねだる始末。じゃないと、本当に二人の思い出の写真が1枚もないという事態になるので。

ねだってねだって、最近やっと、自分が写ることをたまには許してくれるようになった。

これからも、二人で写った思い出の写真を、忘れずに1枚は撮るようにしたい。

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