第5話 合意
「……なあ、渡。渡はこのゲームで生き残り、生き返ろうとしているんだよな?」
「ああ、そうだ。殺されれば現世で生きたという証すら消えて無くなるからな」
俺はダガーの柄から手を離し、元の位置に戻した。そして、渡の目をジッと見つめ言葉を続ける。
「でもさ、今渡は何のために生き返ろうかわかってないんだろ? 確かに、あのケープの男は俺たち十人はそれぞれ現世でやり残したことがあるとは言っていた。それは俺も例外じゃないし、渡にも何か強く願ったことがあるんだと思う」
「その何かがわからなくとも、俺は生き残るためにこのゲームの勝者となる。例えその理由が不明のままであってもだ」
「じゃあこうしないか? 記憶を取り戻すまで時間限定ってことで」
「くどい。仮にお前と協力したとしても、俺にメリットはほとんど……」
渡がそう言ったとほぼ同時に、俺は瞬きをする暇すらないほど俊敏な動きで腰に吊るした鞘からダガーを右手で引き抜き、渡が立つ方へと剣先を向けた。
自分でもなぜこの動きができたのかはわらかない。だが、自然と体が動き、手慣れた動きでダガーを構えれてしまっている。これは俺がただ感情の赴くままに動いた結果というだけ。
咄嗟の出来事に渡も身構えてしまっていた。
「その動き……」
「メリットならあるさ。俺たちを除いて残り八人。この都市に潜伏する彼らの正体を暴いた後でも俺たちが争うのは遅くはない。渡だって思っているだろう、さっきも言ったけど俺たちにはまるで情報がないんだ。一人で行動する方が不意打ちされる危険性が低くなる。それに、このゲームのことだって全てがわかっているわけじゃない。もしかしたら、まだ俺たちが気付いていない要素があるのかもしれないだろ」
「む……」
「別に強制はしないよ。でも、お前が何と言おうが俺は一緒に行くって決めた。せっかくこうやって同じ状況を共有できる奴が近くにいるんだからな。お前だって俺を利用してもいい。なんなら、囮にだってできる。まぁ、俺はしないけど」
「はぁ……まったく。呑気なのか策士なのかわからんな」
頭を抱える渡。どうやら俺の意見が通ったようで、いつの間にか俺に向けられていた敵意は無くなっていた。
今ここで俺たちが争うよりも、もっと情報を集め他の転生者を攻略した後改めて決着を着ける方が有益だと思われる。
それに、俺は流されるように参加させられたこのゲームに何か裏があるのではないかと睨んでいた。あのケープの男、とてもじゃないが信用することなどできない。何か掴むことができるまで仲間が欲しいというのが本音だ。
渡にしたら自らの手の内を晒してしまうというデメリットはあるが、それは俺とて同じ事。そもそも、自分が何の能力を有しているかさえわかっていない。
俺の提案は一見馴れ合いのようで理に敵った作戦でもある。渡もそれに気付いてくれたらしい。
「いいだろう。お前を殺すのは後回しにしてやる」
向けていた剣を背中の鞘に仕舞う渡。それを見て俺もダガーを鞘に収めた。
「やっぱ話がわかるな。よし、改めてよろしくな渡」
「お前、いきなり馬鹿になったりするがどっちが本当のお前なんだ?」
「ん? え、そうか?」
「やっぱりただの馬鹿か」
「馬鹿とはなんだよ馬鹿とは!」
「さて、じゃあこれからどうする。どうやらこの世界でも時という概念はあるようで、時間の単位も現世と同じだぞ。夜に備えてまずは宿でも探すか?」
俺たちは武器屋を出て、空を見上げた。雲一つない青空が広がり、太陽と思わしき光源が都市を明るく照り付ける。
結局、武器屋での買い物はキャッシュレスによる自動決算だったこともあり、中にいると思わしき店員や店主の姿を見ることはなかった。
「宿もだけど、防具とかって買わなくていいのかな。武器は買ったけど、流石に物理的に身を守る物って必要だったりしない?」
「もっともな意見だが、一旦落ち着いて状況を考えてみろ」
「え? 落ち着いて……」
「そして辺りをよく見まわせ。ここの住人は誰もが普通の服装をしている。さらに、パッと見この都市は外壁によって外敵の侵入を阻んでいるのだろう。だが、お前も俺と同様この都市の外で目が覚めたとは思うが、世間一般で言われるようなモンスターなんてのを見かけたか?」
「いや、そういやモンスターどころか人すら見かけなかったな……」
「だろうな、俺の睨んだところではおそらくここはこのゲームのためだけに作られた世界なんだろう。だからあの外壁は敵から身を守るためのものじゃなく、ただのフィールドを囲う柵の役割でしかないはずだ」
渡の考察を聞き、俺は左手で皿を作り右手をポンッと叩いた。
「ああ、なるほど。ってことはここはよくある異世界ものみたいに魔王も勇者もモンスターもいない、完全に俺たちの殺し合いのみを目的とした世界ってことか」
「おそらくそういうことだろう。だから、防具なんて身に付けていたら逆に怪しまれるし、自らを転生者と名乗ってしまうことに他ならん。だからない方が合理的のはずだ」
「でもよ、それだったら武器を身に付けているのもおかしくないか。ほら、渡は背中に斜め掛けしている鞘に剣を納めて明らかな武装しちゃってるし」
「…………」
思わず渡の動きが止まった。視線は泳ぎ、俺と目を合わせようとしない。
「おい、まさかそんな考察しておいてミスったとか言うんじゃないだろうな……」
明らかな誤魔化しの意味を含んだ咳払いをする渡を見て、俺は思った。クールなつもりなのだろうが、案外こいつは抜けているところがある、と。
「ま、まだここは都市の一部分に過ぎん。もっと違う場所に向かえば浮くこともないかもしれないだろ」
「あ、誤魔化したな」
「うるさい! ……ん?」
会話の途中、何か音が迫って来ることに気付いた渡が視線を右に流した。それにつられるように俺も視線をそちらに移す。
「誰か来る」
どうやらこちらに走ってきているのは二人と同じ、二十歳付近と思われる少女だった。
次第に近づいていくに連れてその少女の声と思わしき何かが聞こえてくる。
「あいつの目、完全にこっちを見てないか?」
「まさか……彼女も俺たちと同じ!?」
大きなレンガの上に腰を下ろしていた二人はそれに気付くやすぐに立ち上がり、それぞれ武器の柄に手を置いた。
そして、彼女の声の内容がはっきりと聞こえるほど近づいていき……。
「見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました見つけました」
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