第4話 武器屋を探して
俺と渡の二人は都市の入口である門を通り、都市の内部へと出た。
二人が通ってすぐに都市と外部を繋ぐ門は閉じられ、それに続く橋も警備の人間が立っていた岸から離れていく。
門を出た先に広がっているのは中世風の街並みだった。その奥にはまた雰囲気の違う別のエリアも見えている。
「ここがあいつの言っていた俺たちが全員集まるっていう都市って奴か。なんかすげー広いし、色々あるんだな」
「あながちお前が質問した内容も無駄ではなかったかもしれんな。この辺りは中世の街並みといえるが、奥の方に見えるのは近代的なそれこそ都市と呼ぶにふさわしい外観をしている。ファンタジーと現世を足して二で割ったというのはあながち悪い例えじゃない」
無駄じゃなかったと言われ、どこかいい気持ちになってしまった俺は、顔をほころばせながら無意識に渡の肩に手を置いた。
渡はすぐにそれを振りほどく。
「へっへっ、ほらみろ。俺が質問したことにも意味が合ったんだよ」
「えいい、くっつくな。いいからとっとと行くぞ」
「行くってお前、武器屋の場所わかるのかよ」
「知らん。だからその辺にいる人間に聞いて回る。お前も聞かなかったか? この都市内には俺たちだけじゃなく、住人たちもいる。使えるモノは利用していかなければならん」
「あ~……そう言われてみればそうだな。よし、じゃあ聞いて回るか。すいませ~ん!」
「あっ。……ったく、人の話を最後まで聞かない奴だ」
俺と渡がまず訪れていたのは都市内部の一部を占める中世の雰囲気を残した街並みだ。
建造物は基本的にレンガによって建てられており、まるでファンタジーの世界に入り込んでしまったかのような印象を受ける。近代的なテクノロジーはあまり感じられず、だからこそこのエリアの奥に見える場所と対照的だと感じ取れた。
俺は道を歩く一人の貴婦人に声をかけ、目的地である武器屋の所在地を聞き出した。
とりあえず俺が突っ走って行動してみると、共に行動する渡は頭を抱えながら後を追ってくる。
案外早く武器を扱っている商店を見つけ出し、俺たちはその建物の入口となるドアを恐る恐る開けた。
「えっと、すいませ~ん……失礼します……」
「何してる。早く入れ」
「おまっ、ここ来てから初めて建物の中に入るんだぞ。ちょっと緊張しちゃうじゃん」
「くだらん。ほら、とっとと入れ」
ゆっくりドアを開ける望に痺れを切らし、渡は俺の背中をドンッと押して強引に中に押し込んだ。
「おわっ! って、危ないだろ渡! 目の前に貴重品でもあったらどうするつもりだったんだよ」
「その時はお前が弁償でもすればいいだろう。現に何もなかったんだ、とやかく言われる筋合いはない」
「ったく……」
ずっこけた俺に目もくれず、渡は店内へと入っていく。
店内には四方八方に武器の類が展示されており、その種類は剣、銃、弓、ハンマーといった有名どころから様々な需要に応えるように、長さ形まで幅広く取り揃えられている。
例えるならそこは武器庫そのもの。店内に人の姿はなく、今はどうやら中の工房にいるようだ。
「これはすごいな。実に様々な武器が飾られている」
「シンプルな剣から大型や、それこそ小型のダガーみたいなのも揃ってるぞ。ここに来たら全部解決しちゃいそうだな」
展示されている武器は実際に手に持って確認してもよいようで、一つ一つ手に取ってその感触を確かめていく。
渡は片手で扱える直剣系を眺めているのに対し、俺は刀身が小さめなダガーのコーナーに目を移させていった。
「おっ、これとか使いやすそうだな」
俺が手に取ったのは独特な形をしたダガーだった。刀身がサバイバルナイフのようになっており、小さくともその攻撃力の高さが窺える。
少し距離を取り、周囲に人と物がないか充分に確認した後、ひゅんひゅんっとダガーを振り回して空を切った。
「なんだ、お前はそんな物でいいのか」
「いやいや、こいつを舐めちゃダメだろ。これでも人を殺すには充分。的確に急所を突き、内蔵を抉れさえすれば刀身の長さなんて関係ない」
自分でも無意識の内に口から言葉が出てしまっていた。
このダガーを持った瞬間、俺は脳のどこから出てきたかわからない知識を饒舌に話してしまい、言った自分自身でさえも困惑してしまう。
なんでそんな言葉が急に飛び出して来たのだろうか。得体の知れない恐怖に似た感情が俺を支配していく。
「…………?」
「……って、何言ってるんだろうな俺。そんな物騒なこと口に出しちゃいけないよな。はは……よし、俺はこれにする」
俺の唐突な過激発言に訝しむ渡をよそに、俺はそれを誤魔化すように自分の通行証となっていたカードを取り出してダガーに翳した。
すると、カードから光を浮かび上がり、その光がダガーを包み込む。光が消えると共にカードに記されている所持金残高は減少した。
購入したのはダガー本体だけじゃないらしく、腰にダガーを収納する鞘の取り付けられたベルトが出現、自動的に装着されていく。
「うおっ、勝手になんか出たぞ。すっげ……どうなってるんだこれ」
「どうやらこの世界は現世と違う不可解なシステムがあるらしいな。あれこれ考えても理屈なんてわかるはずもない。ここは素直に従っておくに限る」
渡も武器の購入を済ませたようで、背中の鞘を革のベルトで吊るし、その中に一丁の剣を収めていた。
「渡は普通の剣にしたのか。背中に剣を収める、それもかっこいいな……」
「何呑気なことを言っている。言っておくが、俺とお前は友達でもなければ仲間でもない。武器を手にした今、いつここで殺し合いが始まってもおかしくないんだぞ」
「……!」
そう言って渡は背中の鞘から片手系の直剣を一瞬で引き抜き、俺が立つ方へと剣先を向けた。
「さぁ、お前も剣を抜け。やはり俺たち転生者はいずれ殺し合う運命。こんなお仲間ごっこなどやってられん」
俺は左腰に吊るされたダガーの入った鞘に右手をかけた。そして、柄を握り……。
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