第3話 一時休戦
「ってことは、お前もそうなのか?」
「……やはりそうか!」
どういう偶然かこの男は俺と同じゲームに参加している転生者だった。
すぐに戦闘態勢を取ろうとするコートの男。俺はそれを見てすぐに制止させた。
「わー待て待て! 落ち着けって! 俺は争う気なんてさらさらないから!」
「お前に無くても俺にはある。このゲームで生き残るのはただ一人だけ。お前と俺は争い合う存在に他ならない」
「だから落ち着けって! 確かにそうかもしれないけど、お前も俺と同じように記憶を失っているんだろ? 今右も左もわからないこの状況で争ったところで互いにメリットはないはずだ」
男は俺の必死の説得にひとまず耳を傾けてくれたようで、今にも殴りかからんとしていた拳を制止させた。
「……何が言いたい?」
「多分、お前もあの白ケープの男に説明を受けてこの世界に来たんだろ? ってことはあの事も聞いているよな、俺たちは死んだ時に何か現世でやり残したことがあって、その強い願いがあったから今ここに連れて来られているんだって」
「ああ、そう聞いている。とはいえ、お前の言う通りその内容は一切覚えてはいないがな」
「後こうも言っていたよ。何かきっかけがあればその記憶も思い出すかもしれないって。自分がどんな人間だったのか、生前何をしていたのかっていうも」
俺の話を聞き、コートの男は次第に戦闘の構えを解いて、握った拳を下ろした。
「ってことは今の俺たちって本当に何もかもわからない状態なわけじゃないか。だからさ、ひとまず一時休戦して、一緒に行動してみないか?」
「……何?」
「お互いこの世界にやって来たばかりでまだ知識が何もないだろう? だから、ある程度までは一緒に行動してみないかって言っているんだ。な? これにチュートリアルなんてないんだし、まずは手を組むのも悪くないだろ」
呆れた、と言わんばかりにコートの男は溜め息を吐き、蔑んだ目で俺を見やる。
「お前はこの状況を理解しているのか? どういう背景かはわからんが、俺とお前は命を奪い合わなければならない敵同士。仮にお前が背中を見せれば、俺は後ろから刺すことだってできるんだぞ」
「その時はその時で構わない。でも、逆はないよ。俺はそんなことはしないから」
「どうだろうか、信用ならん」
「別に信用されなくてもいいさ。でも、俺はお前のこと信用するよ」
「なぜだ?」
「今のやり取りで、お前がそんなに悪いやつじゃなさそうってなんとなくわかったからかな」
コートは馬鹿を見るような目で俺を見つめた。
もはや何を言っても聞かなさそうだ。男は自然とそう理解したのだろう。
それでも、なんとなく俺にはわかっていた。言動こそあまり印象の良くない彼だが、そんなに悪い奴でもなさそうだと。本当になんとなくだが、そんな気がしているのだ。
「……まぁ、いい。お前の言うことが理にかなっていないわけでもないからな。お前の様子を見ていると、片付けるのは後回しにしても何の問題もなさそうだ」
「おぉ、本当か? 良かったー、やっぱいい奴だなお前。俺の名前は天海望。お前は?」
「
「渡か。へへっ、よろしく」
「……ふんっ」
俺は握手を求めるも、渡はそっぽを向いてしまう。
やっぱり印象は悪いな。
「んだよぉ~、ノリが悪いなぁ。生きてた時友達いたのか?」
「知るか。第一、それも覚えていないんだ」
「あ、そっか。それもそうだな」
「一緒に来るんだろ? さっさと行くぞ」
渡はそそくさと一人で門の方へと向かってしまい、俺はその後を急いで追った。
「おい! 置いてくなって! 待てよ渡!」
「気安く名前を呼ぶな。付いて来ると言ったのはお前だろう。さっさと中に入るぞ」
「いちいち偉そうな奴。で、入るのはいいけど、最初に行くところとかもう考えていたりするのか?」
「お前も少しは自分で考えろ。いいか、このゲームは殺し合いのバトルロイヤルだ。つまり、まず必要になってくるのは自分の身を守るための武器」
「武器、か」
「そう。だからまずは武器の類を売っている店を見つけてそれを調達する。どうやら通行証となっているこのカードには所持金を管理する機能も付いているようで、これを使って買い物をすることができそうだ。現世でいうクレジットカードのような物なのだろう」
記憶を失っているといっても、一般常識の類の記憶は残っている。
忘れてしまっているのは自分自身と人生そのもの。行為や物の名前は覚えていても、それを生前自分が行っていたかまでは覚えていない。
渡の言う通り、通行証には所持金の残高のような数字が表示されており、どうやらこれで買い物をすることができそうである。
「キャッシュレスってわけか。よくこの僅かな時間で気付いたな。なんかファンタジーっぽくないけど、そういえば現世とファンタジーを足して二で割った世界とかあの男が言ってたっけ」
「お前、そんなくだらないこと質問してたのか?」
「くだらなくないだろ。こういう認識を予め知っておくのは重要なんだよ重要」
「まったく、おちゃらけた奴だ。こんな奴と共同戦線を張ったところでメリットなどないかもしれん。武器を買ったらとっとと始末してしまうか」
「んだとぉ!? お前、それはないだろ!!」
あれこれと話している内に俺たちは橋を渡り切り、都市内部へと続く門を開いてその中へと入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます