第2話 都市へ

「う~ん……、ここは?」


 再び目を覚ますと、そこは緑豊かな草むらの上だった。土手のように傾斜になっているこの場所は、下を向けば澄んだ水が流れる川が広がっている。

 俺は体を起こし、辺りを見渡した。周りにあるのは静かに水の流れる川と綺麗な黄緑色に広がる草原のみだ。


「結局、よくわからないままあの男に流れちゃったな。ここがあいつの言っていた異世界ってやつなんだろうけど……。なんかやけに落ち着きそうな場所だな、人の気配が全くしない」


 試しに土手の上まで上がってみると、その道はどこかへと続いているようだった。すぐに左右を確認してみると、大きな集落が左手に見える。

 あの男はある一つの都市にこのゲームの参加者十名を集めると言っていた。おそらく、今見えるあの場所がその都市なのだろう。


 見渡してみる限り俺以外に人の姿はない。それどころか生物と思わしき姿も確認できなかった。

 静かに草むらを揺らす風の吹き抜ける音のみが俺の耳に入ってくる。他に聞こえるものといったら川の水が流れる音くらいだ。

 まるで俺以外が存在しなような、寂しささえ感じてしまうような静けさである。


「能力を与えるとかも言ってた気がするけど、特に何か変わった様子もないよな……? 空を飛べる! とかそういうやつなのか? まあ、今はそれはいいか。他に何もわからないし、あそこに行けば何かわかるかもしれない」


 覚えているのは名前、死んだこと、そして男から聞いたゲームの説明のみ。他の記憶は全て無くなっている。

 とりあえず、このままここに居続けても何も始まらない。

 俺は道に沿って歩いていき、次第にその大きさを目の当たりにしていく巨大な都市へと向かった。


「やっぱり、生物がいない。なんでだ……?」


 その間でもやはり自分以外の生物とは遭遇することはなかった。

 異世界というのだからモンスターの一匹や二匹存在してもよいと思ったのだが、それどころか虫や鳥なんかも見当たらない。

 徐々に不気味に感じつつも、一歩一歩足を進め、目的地である集落を目指していく。


「うわ、でっかいな~。俺が生きていた時ってこんな大きな街に住んでいたのかな。うーん……やっぱり、思い出せないか」


 しばらく歩いていると、その都市の入口に当たるであろう城門のような場所へと辿り着いた。

 都市は円状の形をしているようで、その側面全てが大きな壁に覆われており、その真下からでは中の様子を確認することができない。

 どうやら門を潜るしか中に入る方法はないようで、その門の付近には警備の者が二名武器である槍を持って立っていた。この世界に来て初めて自分以外の生物との対面である。


「あの人たちに話かければいいのかな。あ~もう、そういう説明もしておいてくれよなあいつ~……」


 右も左もわからない俺はただ突き進むしか選択肢がなく、正面突破で警備の人間に近づいていく。


「あの~、すいません」

「失礼、ちょっといいか」


「え?」

「ん?」


 俺が警備の人間に声をかけたのと同時に、もう一人の人間が声をかけた。

 紺のロングコートを羽織ったその男。ピッタリ同タイミングで声を発したせいか、俺と彼は互いに顔を見合わせてしまう。


「なんだお前は。俺が先に声をかけたぞ」

「ちょっ、なんだお前はこっちの台詞だよ! 別に順番とかどうでもいいけどさ……なんか印象悪いな~」

「ふん、どうでもいいならお前は後でいいな。失礼、この中に入るにはどうしたらいい」

「あっ、く~……ムカツクやつだな~……!」


 俺を軽くをあしらい、コートの男は警備の人間に質問をしていく。


「通行証は持っているか? それが無ければここを通すわけにはいかない」

「通行証? なんだそれは」


 俺もその存在は知らなかった。しかし、ここに来る前ケープの男から聞いた必要最低限の物を用意しておくという言葉を思い出し、試しに自分の懐をまさぐってみる。

 すると、ズボンのポケットに何かが入っており、取り出してみるとそれは何か記されているカードのような物だった。


「もしかしてこれだったりします?」

 

 警備員は俺の掲示したカードを見るやすぐに頷き、槍によって道を塞いでいたところを開け、通してくれた。


「まさしくそれが通行証だ。よろしい、確かに確認したぞ」

「本当ですか? よっしゃ~! ありがとうございます」

「……カード、カードか……」


 俺が掲示したカードを見てか、コートの男もすぐに自身の体中を調べていく。すると、俺と同じようなカードを胸元の内ポケットで発見したようだ。


「これでどうだ?」

「ん、確かに。では、通るといい」

「すまない、感謝する」


 俺に続いてコートの男も警備を通り、門へと続く橋を後から渡っていく。

 その足音に気付いた俺は後ろを振り向き、思わず足を止めて声をかけてしまった。


「なんだよ、お前も通れたのか」

「さっきからなんだお前は。俺にずっと引っかかって来て、暇なのか?」

「誰が暇だよ。通行証もわからなかったくせに」

「それはお前だって同じだろう。いいとこ、偶然カードが入っていたのを見つけたってどころじゃないのか」

「んっ……、結構痛いとこ突くなこいつ」


 ここで俺は一つのことに気付いた。

 それはこの世界の住人ならば通行証の存在は当たり前なのではないかということ。

 このコートの男は自分と同じように通行証で戸惑い、恐らく知らず知らずの内に持っていた自身の通行証を使って通って来たに違いない。

 すると、この男は自分と同じ――。


「……お前、ゲームの参加者か」


 先に口を開いたのはコートの男だった。


 

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