Revive or Delete~10人の異世界転生者のバトルロイヤル~

遊希 類

第1話 ゲームスタート

「ここは、どこだ……?」


 気が付くとそこは自分の他に何も存在しない真っ白な空間だった。

 自分がなぜその場所にいるのか、今まで何をしていたかの記憶はない。

 覚えているのは、自分の名前が天海望てんかいのぞむということと――。


「目覚めたか。中心となる者よ」

 

 俺の目の前の空間が一部揺らめき、どこからともなく一人の人間が姿を現した。その人間は白いケープを羽織り、それを口元まで隠れるよう深く被っていて、どんな顔かまでは確認することができない。


「な、なんだお前。ここはどこだ。俺は……どうしちまったんだ?」

「落ち着け、というほうが無理な話か。そのままでいい、俺の話を聞け」


 なんだか強引に話を進められている気がするが、かと言って今自分が置かれている状況は不明のまま。

 今はこの人間の話を聞くしかないと自然に悟り、俺はこの人間の言葉に耳を傾けた。


「わかったよ。聞くよ」

「それでいい。単刀直入に言おう。お前も自分ではわかっていると思うが、お前は死んだ」

「……ッ!」


 白ケープの人間……いや、男の言う通りだった。

 俺が覚えていることは自分の名前と自分が現世で絶命したという事実のみ。

 他は何も覚えていない。なぜ自分が死んだのか。生前、自分がどんな人間だったのかさえ全く頭に残っていないのだ。

 思い出そうとすると途端に記憶の中に霞がかかり、その情景を一切思い出すことができない。まるで鍵をかけられて封印されてしまったような、そんな感覚だ。

 なんだか自分で自分がわからないというのは気持ちが悪い。頭の中から自分のことだけがすっぽりと抜けてしまっている。

 

「お前の中で残っているのは自分の名前と死したという認識のみ。ここで一つ問うが、絶命した人間の魂はあの世に逝く、つまりは天に還る。そうだよな?」

「ああ、そうだって言われているよな……。でも、俺が死んだっていうのならなんであの世に逝っていないんだ? それとも、ここがそのあの世ってやつなのか?」


 ケープの男は首を横に振り、それを否定した。


「いや、それは違う。ここは現世、天国や地獄といったあの世、そのどちらでもない。時間の狭間……とでも言える空間だ」

「時間の狭間……?」

「そうだ、ここは時が止まった世界。天海望、お前がここに来たのは他でもない理由がある。それは、お前が現世で絶命する瞬間、何か強い願い……現世でやり残した何かを果たしたいと強く願ったからだ」

「それ俺は全く覚えてないんだけど」

「生前の記憶は忘れてしまっているのだからそうだろうな。話を戻そう。お前にはこれからとあるゲームに参加してもらう」

「ゲーム?」


 ケープの男は頭上に大型パネルのようなオブジェクトを創造し、説明を開始した。

 液晶画面のように映し出されたそこには俺の姿、それにシルエットになっていて詳細はわからないが、他に九人の人間の姿がある。


「お前にはこれからある場所に行ってもらい他の参加者である九人、つまりお前を含めて十人で殺し合いのバトルロイヤルゲームをしてもらう」

「こ、殺し合いぃ!?」


 驚きの余り声を上ずってしまった。


「ど、どういうことだよ殺し合いって! というか俺はもう死んでるんだろ。なんで殺し合いなんてしなきゃいけないんだ」


 俺の質問を無視し、ケープの人間は説明を続けていく。


「他の九人もお前と同様、現世で一度死んだ人間だ。お前たちにはとある世界で殺し合いを行ってもらい、最後の一人を決めてもらう」

「む、無視かよ……」

「こちらもあまり時間がないのでな。その勝ち残った最後の人間、その者には新たな命を与え現世に生き返る権利を与えようと思う」


「じゃあ、逆にその世界とやらでまた死んだ人間はどうなるんだ」

「お前たちは既に死人。死人が更に死を迎えた時、現世で生きたという存在そのものが抹消され、魂は無に還る。つまり、完全なる消滅だ」


 それを聞かされて俺は身を震わせた。

 この男が嘘をついているとは思えない。自分が一度死んだということは自分が一番理解しているからだ。

 何の意図があるのかわからないこの物騒なゲームも本当にこれから始めさせられることなのだろう。だからこそ、恐怖に似た何かを本能的に察知している。


「何もそのまま生身で殺し合いをしろと言っているのではない。特別に計十種類の特殊な能力をそれぞれ一人一種類ずつ与えよう。これは完全にランダムだが、その能力に何か縁がある場合は必然的にその能力が選ばれるはずだ」

「何かよくわかないけど、今から俺にそのゲームに参加しろって言いたいんだよな?」

「話が早くて助かる。なあに、世界といえどお前たちは一つの都市に集められ生活することになる。過ごしていればいずれ転生者同士出会い、衝突することになっていくだろう。それに、記憶喪失も永遠ではない。何かきっかえさえあれば少しずつ生前のことを思い出していくことだろうな」


 頭の理解が追いつかないので、とりあえずこの男の語る言葉を頭を空っぽにして聞くことにした。

 要は俺と同じような死人が十人いて、とある都市に集められ、殺し合いをさせられる。十人それぞれに一つずつ特殊な力が与えられるということらしい。

 

「時間制限はない。すぐに動くも、じっくり時期を見極めるのも自由だ。結局は最後の一人になればそれでいい」

「で、その異世界ってやつはどんなところなんだ? よくあるファンタジーの世界とかそういうやつ?」

「お前の想像しているような世界と現世を足して二で割ったようなところだな。転生者であることが服装でバレないよう、住人の服装は現代のものと同じにしてある。勿論、住人たちもれっきとした命を持つ生物だ。それだけは覚えておくといい」


 そこまで語ると、ケープの男は俺の方へ右手をかざした。

 すると、すぐに空間内に強く風が吹き、次第に竜巻のようになって男の姿が見えなくなっていく。


「お、おい! まだ質問は終わってないぞ!」

「暮らしていくのに必要な最低限の物は予め揃えてある。安心してゲームに参加するといい」

「うっ! うわああああああああああっ!!」


 より一層風は強く吹き、意識を保つ限界値を超えた俺はそこで気を失ってしまった。


 最後に、始まりを告げる鐘のように男がパチンッと指を鳴らす。


「さぁ、ゲームスタートだ」

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