銀河鉄道
がたがたと車窓が鳴く。夜行列車で地元を飛び出し、電車を乗り継いで、ひたすら東京を目指した。
夜の闇を見ながらぼんやりしていると、足下に何かが転がってくるのを、視界の端が捉えた。足下に視線を向けると、リボンを着けた熊のぬいぐるみが寝転んでいた。一瞬迷った後に、とりあえず拾ってみる。それとほぼ同時に、まだ十歳に届かない様な女の子が駆け寄ってきた。僕を見て、女の子が怖気付くのが分かった。拾った事を後悔しているうちに、女の子は僕から熊をひったくるように奪って逃げていった。小さく溜息を吐く。
もう寝よう、そう思って椅子を倒した。後ろから舌打ちが聞こえてくる。手に汗が滲んだ。気付かない振りをして、目を閉じた。
いつもこうだ。役にも立たない。それどころか邪魔ばかりだ。僕に居場所なんて無い。
どうにも眠れず、僕は目を開けた。目の前に、赤い包装紙に包まれた飴が差し出されていた。驚いた僕に、さっきの熊の女の子が笑いかけた。素直に飴を受け取れば、女の子は笑いながら去っていった。不意に涙が頬を伝う。誰にも知られずに、僕は泣いた。
ふと我に帰った。電車はホームに着いており、数人の乗降者が入れ替わっていた。窓の外を見れば、東の空は既に明るくなっていた。もう夜明けなのか。そう思っている間にも、徐々に明るさが増していき、朝日が顔を出す。金色の光が、まだ夢見心地の街を照らし出していく。
停まっていた電車は動き出し、次の駅へと向かい出す。車窓に流れていく景色をぼんやりと眺めた。不意に視線がある一点に釘付けになる。線路沿いの坂道を、猛スピードで走る自転車が居た。風よりも早く駆け下りて、必死で電車に追いつこうとする。疾走する自転車に乗ったその人は、電車に向けて大きく手を振っていた。見送りたい相手が居るのだろう。ちょっと恥ずかし過ぎる。相手を思うなら、止めてあげた方が良い。電車は徐々に自転車を引き離し、後方の景色と共に取り残されていった。本当はあの自転車も、見送られる人も、羨ましかった。僕は独りで、止まったままだった。
気付けば、見送る人も誰一人居なかった街から、だいぶ遠い所まで来た。電車は少しずつ、僕が向かう街を近付ける。出迎える人も居ない街を近付ける。ポケットに手を入れると、女の子から貰った飴に触れた。
人は歳を取る度、終わりに近付いていく。始まりから遠ざかっていく。きっと僕も、止まっている様で進んでいるのだろう。
早朝の線路の上を、電車は次の駅へと走っていった。
***
参照楽曲
銀河鉄道/BUMP OF CHICKEN
小話 藤原琉堵 @reedteller
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