独白

カーテンを開けると、そこには一面の銀世界が広がっていた。昨夜降り出した今年初めての雪は、どうやら夜間にその勢を増したらしい。夕方に路上ライブを予定していた僕は、思わず窓越しに溜息を吐いた。カーテンを閉めると、再び毛布の中に戻る。

此処に居たい、何処かに行きたい。最近、そんな事をよく思う。矛盾してるようで、きっと違いなんてないんだろう。

降り積もる雪は、逃げ出す僕の足をもつれさせる。ギターを担いで飛び出したあの日の片道切符は、未だに空白のまま、行き場所を無くしてしまった。戻れないと呟きながら、何の期待も出来ない未来に絶望した。それでも、絶望出来るのならまだましだ。絶望は、暗闇の中で必死に光を探して手を伸ばさなければやってこない。掴みたいものが無いのなら、そもそも僕が絶望する事も無かっただろう。未来に夢を見なければ、絶望なんてやってこない。

吹き曝された感傷を家賃代わりにして、僕はこの部屋で一日を過ごす。

舞い落ちる雪の中、駅に向かう会社員も、バイト先でコーヒーを飲んだ初老の男も、電車の中の知らない誰かも、今まさにすれ違った、名も無き人も、きっと自分の行くべき場所を知っている。

部屋の隅に放置された、埃を被った希望。ベランダで半分凍えている思い出。未開封の段ボールの中で、半ば腐敗している、少年時代の純真。

何処へ向かうにせよ、此処から逃げ出したいのなら、このドアを開けて、銀世界へと向かうべきだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る