第44話 腐ったドラゴン
ヴァルディラントは口を大きく開けて、俺達に向けて氷の混じった息を吐き出した。
「なんだよ! 火を吐くんじゃねぇのかよ」
「氷属性かぁ、属性が同じだと魔法効果薄いのよね。後はよろしくね! お兄ちゃんの方が相性いいでしょ?」
笑ってごまかすシーブルをよそに、俺は瞬時に神炎の加護に切り替えて火炎障壁を張る。
「シーブル、お前属性変えられるんじゃなかったのか?」
シーブルはもじもじしていて、妙にバツの悪い態度だ。
「魔法薬を使わないと加護変換は出来ないの。あの薬は貴重なので、いざとなったらと言う事で……」
どうやらシーブルは魔法薬をケチっているようだったが、リリアの事もあるし龍神の加護の反動も出始めている。
俺はシーブルに魔法薬を使うよう、目で合図を送ると頬を膨らませた。
「わかったわよ、もう。ちょっと待ってて!」
巻き起こる吹雪を剣で切り裂き、吹雪を潜り抜けヴァルディラントを斬りつける。
不気味なうめき声を上げ、鋭い爪を振り上げ正確に俺を狙って振り下ろす。
躱した爪は地面を抉り取る。神炎の加護じゃ一撃でもまともに食らったら致命傷になりかねない。
ヴァルディラントは翼をはばたかせて、強風を巻き起こした。
風圧で俺は後方に吹き飛ばされ、再度吹雪を吐き出す。
くそ、やっぱり神炎の加護じゃ厳しいかもな。龍神の加護だと身体が勝手に動くんだけど、もう既にあちこち痛いしな。
「さぁ、行くわよ」
【加護変換】【炎属性】
火炎魔法【
炎の竜巻がヴァルディラントの巨体を包み込む。激しく燃え上がり、苦しみ悶えて焦げた異臭を放つ。
「お兄ちゃん、今よ!」
フレイムスキル・炎斬撃【
ヴァルディラントの腹部に、炎を帯びた刃が深く入り込む。傷口から大量のドス黒い血が溢れ出るが、熱気で蒸発して焦げ付いた。
焼け焦げた身体でさらに暴れ出す。鋭い爪を上体を反らして躱すが俺の頭をかすめると、冷や汗がたれる。次は足元を狙って爪が迫ってくる、そのまま地面に手をついてバク転して躱しヴァルディラントを見据えると、口を開けて吹雪を吐こうとしていた。
「ちっ」
火炎魔法【
炎障壁でガードしようとしたその時、上空からシーブルが魔法を放つ。炎で出来た槍が無数に降り注ぎ、杭のように突き刺さり動きを封じる。
フレイムスキル・炎斬撃【
剣を振りかぶると、刀身を包んでいた炎が一瞬で伸びて三メートルほどの刃と形を変えた。それを思い切り振り下ろし、ヴァルディラントを一刀両断した。
「やったね、お疲れ様。さすがお兄ちゃん!」
シーブルが降りてきて、満面の笑顔で抱きついてくる。
少し身体が痛いが、我慢出来ない程じゃない。龍神の加護を発動していた時間が短かったからだろう。
「ったく……本当調子いいなお前は。まぁ助かったよ、それよりリリアはどうなってんだ?」
「大丈夫だよ、キュイールが回復魔法かけてくれてるから」
目をやると、倒れているリリアにキュイールが治療している。
俺は駆け寄ってキュイールに声をかける。
「こっちはもう大丈夫だ、リリアはもう平気なのか?」
「リリア様は意識を失っていますが、もう大丈夫です。左手も修復しましたし、もう安定しています」
「そうか、そんならどこか休める場所に連れていこうぜ。それと、この剣返す。ありがとな、大切な剣を貸してくれてよ」
キュイールは剣を受け取ると笑顔で頷いた。
俺達はリリアをガレニア教会に連れて行く事にした。教会に着くと司教達が大慌てでリリアをベッドに寝かせて休ませる。
俺達は司教が用意してくれた客室で、リリアの意識が回復するのを待っていた。
「なぁキュイール、お前何で決闘裁判受けたんだ? お前らしくねぇ」
「あの時総主教様が耳打ちして言ったんですよ。普通に裁判してもレイユに証拠を
キュイールは少しバツが悪そうに頬を掻く。
「まぁ、リリアが代理人になっちまったけどな。それは計算外なんだろ?」
「そうですね、それは計算外でしたけど……それでもリリア様が危なくなれば、全部ひっくり返してユウシさんが何とかしてくれると思ってました。
シーブルが頬を膨らましてキュイールの頭を叩き、腕を組んだ。
「あたしだって、そのつもりだったんだからね!」
「もちろんシーブルさんの事も信じていましたよ」
俺はキュイールの顔を両手で掴んで視線を合わせた。
「キュイール、他人任せなんて言うな。
顔からを離すと、キュイールは俯いて涙を流した。
「そうですね、私にもユウシさんの言う仁義ってものが、少しだけわかったような気がします」
シーブルが微笑んでキュイールの頭を撫でる。
「聖女様の意識が戻りました! こちらへ」
俺達は司教に案内されリリアの元に向かった。部屋に入るとリリアは上半身を起こし、笑顔を見せる。
「みんな! 無事だったのね。キュイールも本当によかった。それと……ありがとう」
「リリア……ありがとな。剣が砕けた時助けてくれて。リリアが助けてくれなかったら、やばかった。感謝してる」
俺が礼を言うとリリアは顔を赤くして、少し
「ち、ちょっと、やめてよ。ユ、ユウシがかしこまってそんな事言うなんて、何か変な感じ」
俺はあたふたしているリリアの頭に手を置いて、真っ直ぐリリアの目を見つめた。
「バレフォールとの勝負はリリアの勝ちだ。よく頑張ったな、カッコよかったぜ」
リリアは優しく微笑んで目を瞑る。
「――ありがとう、ユウシ。私……もっと強くなりたい……自分で決めたの、逃げないって」
俺が少しはにかんで頷くと同時に、シーブルが大声でリリアに声をかける。
「すごかったよ! お姉ちゃん、ちょっとヒヤヒヤしたけどね」
シーブルがリリアに抱きつくと、リリアは笑いながらシーブルにハグをする。
「それにしてもキュイール、癒しの加護を宿していたなんて本当に驚いた。これからも私の事助けてくれるんでしょ?」
リリアはしたり顔でキュイールに上目遣いをした。
「もちろんです――でも、これからはリリア様だけじゃなく、ユウシさんもシーブルさんも……みんなの力になりたい、私の加護はその為のものだと思うんです」
キュイールは少し顔を赤くして、リリアに視線を合わせた。
「キュイール、随分と成長したな」
「総主教様」
総主教がやって来て、キュイールの肩に手を置いた。リリアは総主教の顔を見て背筋を伸ばす。
「ユウシ殿、シーブル殿、本当にありがとうございます。この街を救って頂き、ガレニア教会を代表して感謝を申し上げます」
総主教が深々と頭を下げた。
「いや、そんな頭下げなくていいよ。俺はリリアとキュイールをどうにかしようと思っただけだし」
「そうよ! お兄ちゃんなんて、いざとなったらキュイールをさらって逃げようとしてたんだからね」
「それはお前の案だろ」
俺はシーブルの頭をコツンと叩くと、総主教はその様子を見て笑っている。
「それはそうとレイユの件なんだが、改めて大聖堂で判決を言い渡すのでリリアとキュイールに来て貰いたい、あの男もそろそろ着く頃だ。リリアはもう動けるかな?」
「はい、もう大丈夫です」
リリアが返事をすると、キュイールも頷いた。
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