第43話 勝敗の行方
リリアはもう一度斬りつけるが、バレフォールに剣で止められてしまった。ここで勝負を決めてしまいたい所だったが、そう甘くはない。
「フォール!!」
バレフォールの負けを予想したレイユは叫んだ。
「お前みたいな役立たずの貧乏貴族が従者だって!? 笑わせんな、ムカつくんだよ! お前さえ死ねば――」
「――キュイール!!」
ガレットとフラリネが息子の名前を叫ぶ。
キュイールはレイユに斬りつけられると、身体から緑色の光が放出される。
「レイユ……貴様はどこまで卑怯なんだ!」
キュイールが怒りをあらわにすると、加護を発動する。緑色の光に包まれたキュイールの傷口は、みるみるうちに塞がっていく。
「すごい、これが……加護の力なのか」
キュイールは自分の加護の力に驚き思わず呟いた。そして自信に満ちた表情を浮かべる。
ガレットに託された剣で、レイユの剣を弾き飛ばした。
キュイールの身体能力は加護の力で跳ね上がっている。
火炎魔法【火炎弾】
レイユが
キュイールが距離を詰めてレイユの喉元に剣を当てると、レイユの表情は恐怖に染まり膝から崩れ落ちる。
「わ、悪かった! 助けてくれ、殺さないでくれ! 死にたくない」
レイユはみっともなく土下座して命乞いをした。
「勝負あったな……レイユ・ビスクイの反則負けとする! よってキュイール・ペストレアは無罪!」
総主教が宣言すると、不気味な笑い声が聞こえて来る。
「クックック……これは困りましたね。まさかリリア・メイデクスにしてやられるとは」
バレフォールが
「おい! ここにいたら邪魔だ、あんた達はすぐに避難しろ。キュイールは大丈夫だ、保証してやる。宿に戻って待っててくれ」
「しかし――」
「――いいから行け!」
俺はキュイールの両親に語気を強めて言い放つと、
その様子を見て、バレフォールの正体に気付いた観客はパニックになった。
司教達は動揺しながらも観客の避難を誘導する。
総主教がレイユを拘束して騎士を呼ぶと、半ベソのレイユは連れ出された。
「総主教様も避難して下さい! それからガレニア騎士団は呼ばないで下さい、犠牲者が増えるだけです。ユウシさんがきっと何とかしますから……彼は信頼出来る男です」
キュイールが総主教に告げると、総主教はキュイールの目を真っ直ぐ見て頷き演習場から避難する。
「こうなったら仕方ありませんね。レイユがここまで馬鹿だとは……私の見解が甘かったようです。ビスクイ家はいい金づるになると思ったんですがね」
「シーブル、行くぞ!」
俺とシーブルは全開で加護を発動させて飛び出した。
闇魔法【影千矢】
黒い矢が大量に生成され、逃げ惑う観客に向けて雨のように射出される。
「させないわよ!」
氷結魔法【水晶大防御壁】
シーブルは巨大な氷の壁で、バレフォールの魔法から観客を守る。
氷結魔法【絶対零度】
バレフォールの放った黒い矢は一瞬で凍りつき粉砕された。
シーブルはしたり顔で髪の毛をかき上げる。
「氷の魔女をナメないでよね!」
「おや、短期間でなかなか成長しましたね、シーブル。私の魔法を防ぐとは――」
「――よそ見してんじゃねぇよ」
俺は飛び上がりバレフォールに斬りかかる。しかしバレフォールは咄嗟に剣で受け止めると、その衝撃で俺の剣は砕け散った。
バレフォールはニヤリと笑う。
「お兄ちゃん!!」
ダークスキル・闇斬撃【黒絶斬】
しまった! 障壁が間に合わな――
「――――」
テクニカルスキル【超加速】
ブレイブスキル【聖障壁】
リリアが咄嗟に俺の盾になって障壁を張る。聖障壁が闇属性のスキルを無効化したが、剣の衝撃で吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
リリアを抱きかかえ、俺がクッションになってリリアのダメージを最小限に抑えた。
俺は加護のおかげで殆どダメージはないが、リリアは既に加護を発動出来てない。
「リリア! 大丈夫か?」
「だ、大丈夫……でもごめん、もう戦えそうにないかも」
リリアはそう言って微笑んだが、左手の失血で今にも意識を失いそうだ。
「いや、よくやったな……」
バレフォールは苛立ちを抑えきれない様子で、顔が引きつっている。
「ちっ、リリア・メイデクス……邪魔くさいですね」
バレフォールが呟くと同時にキュイールが俺の名を叫んだ。
「ユウシさん! 使って下さい――」
キュイールは大切にしていた剣を、俺に向かって投げてよこした。
「サンキュー! 借りるぜ。キュイールはリリアの回復を頼む」
俺は剣を受け取り、地面を蹴って飛び上がる。瞬時にバレフォールとの距離を詰めた。
ドレイクスキル・龍神斬撃【爪覇一閃】
ダークスキル【漆黒の盾】
黒い盾を貫き斬りつけると、バレフォールは衝撃で吹き飛び、リリアのつけた傷口から血が噴き出す。
「聖なる力はすこぶる私と相性が悪いみたいですね。思ったより傷が深い……さすがに分が悪いですか。仕方ありません」
召喚魔法【ヴァルディラント】
上空に巨大な魔法陣が出現して、中央から黒いドラゴンが召喚される。
「また必ずお会いしましょう」
バレフォールはそう言い残して姿を消した。
「くそ! またこのパターンかよ。やっぱり昨日のアンデッドはバレフォールが召喚してたんだろうな」
「あの、お兄ちゃん? ……今度は腐ったドラゴンだよ」
シーブルはあからさまに嫌な顔をする。よほどアンデッドが嫌いなんだろう。しかし気持ちは痛い程わかる。
お馴染みの強烈な腐臭を放ち、腐った肉と鱗に覆われた巨大なドラゴンが降りて来た。
「ヴォォォォォォ!!」
おぞましい咆哮が俺達の耳に絡みつく。
シーブルは鼻をつまむか耳を塞ぐか迷っていた。
「仕方ねぇ、俺がやる。シーブルは援護頼む」
呆れた顔でシーブルに告げると、シーブルは舌を出して笑ってごまかした。
「おい従者様! 聖女様を守ってやれよ!」
俺は目で合図をしてキュイールにそう告げると、目に涙を溜めて強く返事をした。
「はい! 任せて下さい!」
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