第38話 執事の正体

「なかなか鋭い洞察力どうさつりょくですね? 顔はお見せしてないですし、今日も魔力を消していたんですが……」


「剣の構え方や動きでな、昼間会った時からもしかしたらと思ってたんだよ……バレフォール」


 俺の言葉を聞いた瞬間に、リリアとシーブルは驚きの表情を見せる。しかしすぐに加護を発動させて戦闘態勢をとる。


「魔族がこの街に……! どうやって結界を突破したの!?」


 リリアは剣をバレフォールに向けて問いただす。


「ビスクイ家ともなれば、結界師を買収するなんて造作もない事ですからね」


 本当にろくでもねぇ野郎だな、自分の名声の為ならどんな汚い事もやる政治家みたいだ。でもバレフォールは何でレイユに手を貸すんだ? 何企んでやがる……。


「レイユ……なんてヤツなの!」


 感情的になるリリアを無視して、バレフォールはシーブルに向けて挨拶をする。


「シーブルさんお元気そうで何よりです。ローセルさん、死んでよかったですね」


 ニッコリと笑顔を見せるバレフォールを、シーブルは睨みつけ黙って怒りを堪えている。

 こいつもシーブルからすると、かたきみたいなものだ。


「黒幕はお前なんだろ? 目的は何なんだ。もうローセルの部下って訳じゃねぇんだろ。ベルゼの命令か?」


 バレフォールは剣を構構えたまま、少し考えて俺の質問に答えた。


「ローセルさんの件は、アスタロス様を通してベルゼ様に監視役を頼まれていましてね。今回のこれは……簡単に言うとビジネスですよ。ビスクイ家は大貴族ですから、いいビジネスパートナーになるんです」


 それを聞いて、リリアは激昂する。


「悪魔と仕事!? ふざけないで! 全て告発して、お前はここで殺す!」


「女性がそんな汚い言葉遣いをするものではありませんねぇ」


 バレフォールは不敵な笑みを浮かべる。


「さぁ、どちらの言い分を信じますかね? キュイールさんは、この街であまり評判がよくありません。かたやレイユさんはガレニア騎士団団長で大貴族、今回はガレニア騎士団の活躍でモンスターを街から排除した英雄――」


「――黙れ!! お前らは……絶対許さない!」


【身体能力制限解除】【継続回復】【魔力増幅】【属性限界突破】【俊敏制限解除】【フォースシールド展開】


 シーブルはついに激昂して上級加護を発動させると、身体の周りに吹雪が巻き起こり、大気が震えて急激に温度が下がる。


 やばいな、シーブルのヤツ完全に我を忘れてやがる。こんな街中で思い切り戦ったら、それこそキュイールは不利になるな……は俺達だ。


 氷結魔法【氷刃陣風アイスブランド


「おいよせ、シーブル! こんな街中で思い切り魔法をぶっ放したら被害が――」


 ――シーブルは俺の言葉を聞いて我に返り、咄嗟に魔法を上空に逸らす。

 大量の氷の刃が強風とともに空に舞い上がり、遠くへ飛んで行く。


 連戦で限界に近かったシーブルは魔力を使い果たし、膝から崩れ倒れ込んだ。


「シーブルをお願い……私がやる」


 リリアはバレフォールを見据えて呟いた。俺はシーブルの元に駆け寄り、抱き抱えて少し離れた所に連れて行く。


 ブレイブスキル・聖斬撃【覇王一刀両断カイザードライブ


 闇魔法【漆黒しっこくたて


 光をまとったリリアの剣撃は、バレフォールの黒い盾を軽々と突き破る。バレフォールは咄嗟に何とか剣で受け止める。


「漆黒の盾がこんなにあっさり破られるとは。聖なる力……ブレイブですか。聖女様のお相手は光栄ですが、やはり私の能力とは少々相性がよろしくありませんな」


「はぁーっ、はぁーっ……ごめんねお兄ちゃん、街の人巻き込んじゃうトコだった」


 シーブルは申し訳なさそうにしているが、心情を考えると仕方ないのかも知れない。


「バレフォールは闇属性だから、お姉ちゃんの方が有利に戦えるかも……でも」


 バレフォールとリリアの激しい攻防戦が繰り広げられ、鋭い金属音が耳に響く。一見してリリアが優勢に見えるが、どうも様子がおかしい。いくら能力的に有利でも、バレフォールはそんなに甘い相手じゃない筈だ。


「よく鍛錬なさっていますね、素晴らしい。まるでお手本のような太刀筋です――」


 ――バレフォールは地面スレスレまで身体を倒し、リリアに足払いをする。リリアは体勢を崩し倒れ込む。


 ブレイブスキル【聖障壁セイントウォール


 咄嗟にリリアは障壁を張ったが、バレフォールの剣が障壁を突き破り切っ先をリリアの喉元に当てる。


「でもお上品な太刀筋は読みやすいんですよ? 聖女様。スキルを使わなくても、私ならあなたの障壁くらい破れますよ。剣には少々自信がありますのでね」


 バレフォールは丁寧な口調とは裏腹に、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

 リリアは呆然としていて、まるで声の出し方を忘れてしまっているようだ。


「リリア!」


 俺は助けに入ろうと駆け出すと、キュイールを連れてレイユが戻ってくる。


「もういいよ、フォール。キュイールはこの通り捕まえた。その剣を下ろせ」


 両手を縛られたキュイールは肩を落とし、俯いたまま黙っている。

 キュイールはレイユに連れられて、リリアの横を通り過ぎる。


「すみません……」


 キュイールは掠れるような声で呟いた。


「リリア様、大変失礼致しました。この役立たずに尋問して、口を割らせれば全てうまくいきますのでご安心下さい。フォール、行くぞ」


 ニヤニヤしながら、レイユは命ずるとバレフォールはリリアから剣を離し、レイユに付いて立ち去ろうとした。


「おい、今すぐキュイールを離せ。じゃないと俺ももう我慢出来ねぇ」


 俺はレイユを睨み、剣の柄に手をかけ抜こうとした。

 それを見てキュイールは大きく息を吐いて、鼻で笑う。


「私を助ける? やめて下さい、迷惑です。あなたには関係ないでしょ。従者なんて馬鹿らしい、もうやめたいと思ってた所なんです。何が聖女様だ、加護だの悪魔だの……世界を救うだの。くだらない」


「キュイール……お前」

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