第37話 マッチポンプ

「ユウシ、シーブル! 状況はどう!?」


 リリアが走ってやってきた。


「とりあえず、住民には建物の中に入って避難ひなんしてもらった。俺達は片っ端からモンスターを倒して回ってたけど……キリがねぇな。お前は何してたんだよ?」


「教会で結界を張り直してたの。結界師だけだと時間がかかるからね。これ以上モンスターが増えたら、街は全滅しちゃうもの。それから、ガレニア騎士団にも呼び掛けて動いてもらってる」


「そうか、ならこれ以上はモンスターは増えない訳だな」


「でも何か腑に落ちないのよね、この辺りにアンデッドモンスターの目撃情報はないんだけど……」


 リリアは合点がいかない様子で首をかしげているが、それとは別にシーブルは不満そうにしている。


「えー、ガレニア騎士団ってあのレイユってヤツがいる所でしょ……何か嫌な予感がする」


 リリアは苦笑いをしながら、シーブルをたしなめる。


「そう言わないでシーブル、今は人手が必要なのよ。レイユは確かに問題あるけどね」


「まぁとりあえず少し休んだら、また街に入り込んでるモンスターを片付けて回ろうぜ。じゃなきゃ落ち着いて寝れねぇだろ?」


 俺はそう言ってシーブルの背中を軽く叩いたが、嫌な予感がするのは俺も一緒だった。あの性格の悪い男と連携が取れるとも思わなかった。


 すると、そこへ鎧を着込んだ騎士の団体が現れた。


「これはこれはリリア様、お久しぶりです。相変わらずお美しい、この僕が来たからにはもう安心ですよ」


 騎士達の先頭にいたレイユが、リリアの前まで歩いて来てにっこりと笑った。




「げっ……」




 リリアがそう呟いたのを俺は聞き逃さなかった。そしてリリアは少し引きつった笑顔を作る。


 やっぱりリリアも嫌いなんだろうな、態度に思いっきり出てる。レイユは鈍いのか、誰からも嫌われてて慣れているのか、気にするそぶりがない。鉄の心だな……。


「お久しぶりです、レイユさん。早急に騎士団を動かして下さって、感謝致します」


 レイユは得意げな顔をして、リリアの手を取ろうとした。


「いえいえ、これは僕達ガレニア騎士団の――」





「――やめて、お姉ちゃんに触るな」





 シーブルはリリアとレイユの間に割り込んで、レイユを睨みつける。


「貴様……昼間のガキか。リリア様、こんな無礼な平民と一緒にいると品位が疑われますよ?」


「――――」


 リリアが何も言わずに怒りを堪えていると、レイユは他の騎士達にモンスターの討伐を命じた。レイユと執事を残し、他の騎士はいなくなった。


 あの執事……あいつもいやがったのか。


「さて、リリア様、少しお話がございます。今回の騒動についてですが……僕達はキュイールが、モンスターを街の中に手引きした主犯と考えています。彼はあの噂のせいでこの街を憎んでいたでしょうしね」


 聞いた瞬間、リリアは顔色を変えた。


「レイユ……あなたは何を言っているの? キュイールがそんな事する筈ないでしょ!」


 レイユはニヤニヤしながら、俺達を一瞥した。


「確かにキュイールが一人で結界を破り、モンスターの群れを呼び寄せたとは僕も考えていません。街に張られている結界は、魔王でさえ簡単には破れませんからねぇ」




「……何が言いたいの」




 リリアもシーブルも握り拳を作って怒りを堪えている。


「キュイールが戻って来た、この街はモンスターに襲われた。そして、リリア様の加護であれば……簡単に結界は破れるでしょうねぇ。でも僕は、そんな事を聖女様がやったとは思えないのです」


「当たり前でしょう!!」


「くくっ……そうですよね? それでいいんです。聖女様がそんな事をお認めにならない方が――」


「――要するに街にモンスターを招き入れた罪をキュイールになすり付けて、モンスターはお前達が退治して英雄になる。それがお前の筋書きなんだろ? ふざけたマッチポンプだな」


 俺がそう言うと、レイユが俺の事を舐めるように見る。


「マッチポンプだと? 平民風情ふぜいがふざけた言いがかりだな。勘違いするなよ? これは僕の温情おんじょうなんだよ。リリア様がこんな事に協力したとなると問題だからな……だからこれからキュイールを捕まえに行く」


「ちょっと! 何を言って――」


「――それではリリア様、失礼致します」


 反論しようとしたリリアの言葉をさえぎって、レイユと執事が歩き出す。


「それを俺達が黙って見てるとでも思ってんのかよ?」


 俺はレイユと執事の前に立ち睨みつけると、レイユは不敵な笑みを浮かべ執事に命令した。


「おい、こいつの相手をしてやれ。聖女は殺すなよ」


 そう吐き捨てて歩き出すレイユを引き止めようとすると、執事が斬りかかって来た。

 俺は咄嗟に剣を抜いて、執事の剣撃を受け止める。


「ユウシ!」

「お兄ちゃん!」


「俺は大丈夫だから、キュイールを頼む」


 俺は執事を睨みつけながらそう言うと、リリアとシーブルは無言で頷きレイユを追いかけようとする。しかし執事は地面を蹴り、空中で華麗に回転してリリア達の前に着地すると剣を構えた。


「こいつ……やっぱりそうか。お前のご主人様は一体誰なんだ?」


 それを聞いて、リリアもシーブルも怪訝な顔をしている。




「しらばっくれても無駄だ。もうわかってんだよ」




 そう言い放つと、執事はニヤっと笑った。

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