第25話 偽物と卑怯者

「――くそ! キュイール下がれ!」


 龍神の加護発動【身体能力上昇】【自然治癒力上昇】【俊敏上昇】【属性解放】【オートプロテクトフィールド展開】


 全身が痛む、出来れば龍神の加護は使いたくなかったが、もう選択肢がない。


 ベルゼは一瞬で巨大な鎌を取り出し襲いかかって来た。




「ちっ、やるしかねぇのかよ!」




 猛スピードで距離を詰め、俺の首をめがけて巨大な鎌の刃が弧を描くと鈍い金属音が鳴り響く。




「そんな簡単に首は斬り落とせないかぁ」




 俺は咄嗟にローセルの氷の剣で何とかベルゼの大鎌を防いでいた。


「あ……当たり前だ、簡単に首を落とされてたまるかよ!」




 ドレイクスキル・龍神斬撃【爪覇一閃クリムゾンクロウ


 無属性むぞくせい魔法【金剛の盾アダマスシールド




 俺の斬撃をベルゼは盾で受け止めと、自らの剣の衝撃で全身に痛みが走る。一瞬怯んだ俺の隙を捉え、ベルゼは不気味な笑みを浮かべる。




「つーかまえた!」




 ベルゼは俺の左肩を掴み、親指を傷口にねじ込む。


「ぐぁぁぁぁ……い、痛ぇじゃねぇか。何すんだ、そんな汚い手で触ったら、ば……ばい菌が入っちまうだろ?」


 痛みを必死でこらえて、無理やり笑顔を作り冗談を言って余裕を見せる。


「ふふふ、痛いのに無理しちゃって。せ我慢はよくないよ? 龍神の力を味わってみたいんだけど疲れてるのかな、ユウシ――」




 ふざけんなよ、こいつ……殺してやる――殺す――殺す――




 俺の中に殺意が湧き上がってくる、痛みがだんだん薄れていく。もう全てを加護の力に委ねてしまおうか、そう思った時。





 ブレイブスキル・聖斬撃【覇王一刀両断カイザードライブ





 リリアの斬撃がベルゼの背中を抉り血が滲み出ると、リリアは怪訝な顔をする。

 ベルゼは驚いて俺の肩を掴む手を離した。


「ユウシ! 大丈夫?」


「ああ、助かったぜ」


 ベルゼはリリアを睨みつけて呟いた。


「あと少しだったのに、リリア・メイデクスか……後ろからなんて卑怯者ひきょうものだなぁ、引っ込んでなよ」





 爆発ばくはつ魔法【爆裂連弾ボムズバレット





 ベルゼの手から光の球体が飛び出し、リリアに向けて発射される。



「まさか爆発魔法だなんて――」




「――リリア様!!」




 呆然として呟くリリアの声を搔き消すように、キュイールがリリアの名前を叫ぶ。


 リリアが咄嗟に張った障壁に、光の球体が当たった瞬間に爆発を起こす。爆音と衝撃波が建物全体を揺らし、爆風が巻き起こった。まるで台風だ。


 リリアはすさまじい爆風で吹きとばされ、壁に叩きつけられてめり込んだ。間髪入れずに、ベルゼの手から発生した二発目の球体が襲いかかる。


 まだ来んのか!? あれをまともに食らったらヤバイ!




「リリア!!」




 ドレイクスキル【龍神障壁ドレイクウォール




 俺はリリアをかばい球体が当たる前に障壁を張る。障壁に触れた瞬間、爆発が起こり爆音が耳を突き刺す。爆風で身体ごと吹き飛ばされそうだが、何とか耐えた。


 しかしこれだけで終わる筈もない、次の瞬間、ベルゼが巨大な鎌を振りかぶっているのが見えた。





 間に合わねぇ――





 ベルゼが鎌を振り下ろそうしたが一瞬動きが鈍くなった。




「――これは氷結魔法……氷の魔女か? いいタイミングだね」




 ベルゼは感心したようにシーブルに顔を向ける。その隙に氷の剣で鎌を弾き飛ばしベルゼを斬りつけるが、ベルゼは片手で氷の剣の刀身を掴む。

 ベルゼは握力だけで氷の剣を粉々に粉砕し、またいつもの不気味な笑顔を見せる。




「ユウシ、その氷の剣はローセルが死んだら、ただのガラクタなんだ――」




「――うるせぇ!!」




 俺はベルゼが得意げに話してる所を思いっきりぶん殴ってやった。

 顔面を殴られたベルゼは後ろにる。






「――やれ! リリア!」






 リリアは渾身の力を込めてベルゼの喉元めがけて剣を突き刺し、一気に貫いた。


「おっと……これは一本取られちゃったなぁ。痛いよぉー死んじゃうよぉー助けてよぉー死にたくないよぉ」


 ベルゼはわざとらしく泣いたフリをする。


「下手な芝居はやめなさい……ベルゼ」


「えへ、バレてた? と違って随分と冷静だね、なかなか鋭い観察力だ。いつから気付いてたの?」


 リリアは一つため息をついて、ベルゼの喉に剣を突き刺したまま床に磔にした。


「最初に斬りつけた時、血が殆ど出なかったからすぐに死体だとわかったわ」


 マジか……俺は全然気がつかなかったんですけど。


「まぁ怒んないで、ほんのお遊びだよ。それより氷の魔女さんに感謝した方がいいんじゃない? あの娘が氷結魔法を使わなかったら二人とも死んでたかもよぉ」


「かもな、後で礼を言っとくよ」


 リリアは無言でベルゼを睨みつける。


「あ、それと僕にも感謝してね、元々ローセルは公爵の中じゃ一・二を争う実力者なんだ。あいつの言う通り、僕の呪いにかかってなかったら君達は確実に全滅してたよ。それじゃあね、今度はちゃんと殺し合おう! またねユウシ」


 ベルゼの死体からボンッと小さい爆発音とともに煙が発生すると、見覚えのある顔の遺体に変化した。


「恩着せがましいガキだな。って、あれ……こいつ、確かバラクってヤツじゃなかったか?」


 リリアは剣を引き抜き血を振り払い鞘に収めた。


「確かに見覚えあるわね……」


「リリア様! お怪我はありませんか!? ベルゼは死んだんですか!」


 キュイールが顔を真っ赤にして走ってやってくる。こうして、こいつがリリアの心配しながら走ってくると、安心する。戦いが終わったという合図のようなものだ。


「大丈夫よ、それにベルゼは死んでないわ。死体を操ってただけで本物じゃなかったの」


 キュイールはリリアの無事を確認して胸を撫で下ろす。俺もほっとした、ベルゼとの戦いで自分が自分でなくなるんじゃないかと思った。全てを委ねてしまおうと思った時、リリアが助けに来なかったら……正直どうなっていたかわからない。


「でもみんな無事で何よりです」


「まぁベルゼは始めから本気じゃなかったみたいだけどな。それより肩貸してくれ、シーブルの所に行こうぜ。ついでに肩の傷も頼む」


「はぁ……」


 キュイールは俺に対する罪悪感からか、ほっとしたからなのか深いため息をついた。

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