第22話 罪と罰

 シーブルは吹雪をまとい、ローセルの足を払いのけてゆっくり宙に浮かび上がる。

 相変わらずニヤニヤ笑っているローセルを睨みつけ、不敵な笑みを浮かべる。


「いいねぇ、シーブル。ようやくで話してくれんのか?」


「そうね……お前を殺してあげる」


 シーブルはまた小瓶を取り出し、それを飲み干して空瓶を投げ捨てる。


「キャハハハ、いくら上級加護でも氷の加護で私をやれると思ってんのかぁ? バカが」


加護変換かごへんかん】【炎属性】


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 さっきまでシーブルの身体を包んでいた吹雪が炎に変わっていく。部屋全体の温度がグングン上昇し、シーブルは炎の竜巻に覆われる。


「何よあれ……加護の属性が変わった!?」


 リリアはシーブルの様子を見て、目を見開いて驚いた。




 火炎魔法【火炎鳳凰アルファステイク




 シーブルの両手から魔法陣がいくつも重なって展開する。放たれた炎の魔法は、巨大な火の鳥に形を変えてローセルに襲いかかった。周囲の壁や柱、大理石の床が高温のあまり溶け出す。

 驚いたローセルは咄嗟に魔法で氷の壁を作り出した。


 氷結魔法【水晶防御壁クリスタルウォール


 ローセルの作り出した氷の壁を、巨大な火の鳥が飲み込んでいく。なすすべなくローセルは炎に包まれた。


「グァアア! よくもぉぉ、焼け死ぬ!!」


 炎の中でローセル苦しみ悶え、叫び声を上げた。その様子をシーブルは黙って見つめ、安堵の表情を浮かべる。


「何だよ、随分あっけなかったじゃ――」


 俺がそう言いかけたが、なんかおかしい。苦しむ様やセリフが妙に芝居がかってる……「焼け死ぬ!」なんて言うだろうか? と疑問に思った、その時。





「――なーんちゃって」





 氷結魔法【絶対零アブソリュート・ゼロ


 ローセルは魔法で周囲の温度を強制的に下げた。炎は掻き消されてしまい、シーブルは舌打ちをして唇を噛む。



「ちっ」



「まだ足りないね。いくら弱点ついても、お前と私の魔力の差は埋められないんだよ」


「……ま……れ」


 シーブルはローセルを睨みつけて呟く。


「でも、褒めてやるよシーブル……まさか属性を一時的に変換出来るとはねぇ。そんな魔法薬を作れるなんて、婆さん超えたんじゃない?」





「黙れ!! お前がブリーズお祖母様を語るな!」





「キャハハハハ!!」


 ローセルは氷の剣を抜き、翼を広げて飛び上がりシーブルに斬りかかった。


 火炎魔法【紅蓮の盾ファイアシールド


 シーブルは魔法で作り出した炎の盾でローセルの剣を弾いた。


 火炎魔法【炎絶刃フレイムソード


 シーブルが両手を合わせて頭上に上げると、手から巨大な炎の剣が現れ、そのままローセルに振り下ろした。

 ローセルは剣で受け止めきれず、吹き飛び壁を粉砕ふんさいして瓦礫がれきに埋もれる。




「キャハハ……シーブル。やってくれんじゃんよ? 殺されないと思って調子にのってんじゃねぇの?」



 起き上がったローセルは左腕を失っていた。余裕がなくなっているのか、表情から笑みが消えている。目つきは鋭くなり、軽く息を吸い込んだ。



 ローセルの身体を冷気が包み込み、氷の剣を構えると雰囲気が変わり緊張感が走る。





「遊びは終わりだよ」





 テクニカルスキル【超加速スーパーアクセル

 アイススキル・氷結斬撃【覇王滅雪斬カイザーレヴィル





「――――」





 ローセルは一瞬で間合いを詰める、シーブルが気付いた時には目の前にいた。





「――速い!」





 その圧倒的な速さに、障壁を使う暇もなく斬りつけられた。切り口が凍りつき凍傷になる。炎属性の上級加護のおかげで致命傷は免れたが、ダメージは深い。しかし、それだけでは終わらない。


 ローセルはシーブルに回し蹴りを食らわし、床に叩きつけた。倒れたシーブルは血を吐き出す、その苦悶に満ちた顔をローセルは踏みつけた。


「ゴホッゴホッ、ぐぁああ……」



「おいシーブル、誰がお前を支配してるか思い出させてやるよ!? お前の婆さんを殺したのは誰だ? お前の父親を殺したのは? お前の故郷を壊滅させたのは誰だった? あの日からお前はなんだよぉ……立場わきまえろ!!」




 ローセルはシーブルの顔を足でグリグリと更に踏みつける。シーブルは涙を流しながら、悲痛な表情を浮かべ必死で足をどけようとする。





「くそぉ!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!! 絶対お前を……こ、殺して……やる……う、うぅ」





 ローセルはニヤリと笑い一つ告白をした。


「何だぁ、また泣くのかよ。ついでに一ついい事教えといてやる……お前の母親はなぁ、氷の中でとっくに死んでるよ! 本当にまだ生きてると思ってたのか? おめでたいな。生きてるなんてのは、お前に言う事聞かせる為の嘘だ!! ほらっ、みたいに土下座しろよ? キャハハハハハ!」


 ローセルの言葉を聞いたシーブルは、泣き叫びながら自分を踏みつけているローセルの足を、両手で何度も叩く。


「惨めだなぁシーブル……誰も助からない、誰も助けられない。大切な物も自分の命すらお前は救い上げる事は出来ない……どうしてかわかるか?」





「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」





 喉が張り裂けんばかりの叫び声が響き渡る。


「前にも教えてやったろぉ……力がないと何も守れないんだよ! 強者が弱者を食らう、それが自然の摂理せつりだ! 無力ってのは罪なんだよぉ! その馬鹿みたいに大切にしてる頭に巻いてるスカーフ、お前の母ちゃんの形見なんだろ? こんなちっぽけな物すら守れないんだよ、お前は」


 ローセルはシーブルの頭に手を伸ばす。


「汚い手でスカーフに触るな!! うわぁぁぁぁ!! 死ね、このクソ野郎! 消滅しろ!」


「キャハハハハハ!!! おいおい口が悪いなぁ!」





「――――」





 次の瞬間、ローセルは吹き飛んだ。残った手で頭を抱えながらローセルは起き上がり、氷の剣を拾いこっちを睨んだ。


「あら、龍神のおにーさん……力づくで結界破っちゃったの? すごいわね。でも今は罰を与えてるんだよ、邪魔したらダメだろ」


「悪いなぁ、うっかり足が滑って結界を破っちまった。勢いあまって蹴りまで入れちゃったよ」


 俺は冗談を言うように笑いながら言い訳すると、ローセルは怒りで身体を震わせている。


 正直ここまで胸糞悪い気分になったのは、初めてだった。ローセルの事は話で聞いてはいたが、想像以上だ。シーブルの為だけじゃない、この世界の為にも、こいつは生きてちゃいけないとすら思った。

 頭の中で誰かがささやく。





 ――殺さなきゃいけない。





「俺はてめーみたいな、くされ外道げどうは初めて見たぜ。俺がこの手でてめーに罰を下してやるよ」



「罰だと? キャハハ! 神にでもなったつもりかよ!?」



「神? そんななヤツと一緒にすんなよ。どう見ても人間だろ、馬鹿なの? お前」




「ナメた口を……人間ごときに私がれるかよぉ」




「何を勘違いしてんだ? そんな次元じげんじゃねぇ……てめーの罪は生まれてきた事だ。これからするのは害虫駆除がいちゅうくじょなんだよ。んで、てめーはもう生まれ変わってくるなバカヤロウ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る