第17話 魔女の謀
森の中にローセルの古城は建っている。この辺りはもう雪が積もり始めていた。周辺にはモンスターが多く
シーブルは何食わぬ顔で、魔法薬を製造する為自分に与えられた自室に戻った。すると突然ドアをノックする音が聞こえた。
「シーブルさん、ちょっとよろしいですか?」
シーブルは
「何か用ですか? バレフォール様」
「シーブルさん、バラクさんが戻ってないみたいですけど……何か知りませんか?」
バレフォールはフードを深くかぶって顔は見えないが、シーブルの表情を覗き込むように観察している。
シーブルの心臓の鼓動が少し早くなる。バレフォールは勘が鋭く賢い、既に何かを知っていてカマをかけているかも知れないと思った。しかし、何とか誤魔化す以外に道はない、裏切りがバレたら拷問が待っている。
「いえ、それがどうかしたんですか?」
「そうですか……それならいいんです。それからローセル様がお戻りになられまして、シーブルさんにお話があるとの事です。後で玉座の間に来るように」
「わかりました」
シーブルはドアを閉めてから、一つため息をついてから呟いた。
「まずい、ローセルはもう何か気付いているかも知れない――いや、でも……ふふふ」
しかしシーブルは内心期待していた……バラクを倒した、白い炎をまとったユウシという男の圧倒的な強さに。このイレギュラーを上手く利用すれば、ローセルの息の根を止める事が出来るかも知れない。そう考えると自然と笑いがこみ上げてくる。
しばらくしてから、シーブルはローセルのいる玉座の間に向かった。そしてローセルの座る玉座の前で跪く。
「お呼びでしょうか? ローセル様」
ローセルはうんざりしたように頭を掻いて足を組む。
「なぁシーブル……いつになったら不死の魔法薬が完成するんだよ? 老化を防ぐだけじゃ足りねぇんだよ」
「すみませんローセル様……まだ時間はかかるかと――」
ローセルはシーブルの胸ぐらを掴み、持ち上げる。そして怒りに満ちた表情で大声を上げた。
「それじゃ、いつまであいつの言いなりになってなきゃなんねぇんだよ! 不老薬の材料にどれだけ金がかかると思ってんだ? この呪いのせいで、この私が奴隷も同然だ!」
そう言ってシーブルを投げ飛ばした。倒れ込んだシーブルはすぐにまた跪く。シーブルは悔しさで拳を握り締めた、爪が食い込み血が流れる。
最近ローセルは老化の進みが早い、呪いをかけられているのが原因だ。シーブルの村を襲ったのも、元を辿るとその呪いが元凶なのだ。本気で取り組めば、不老の薬の効果をもっと高める事は出来るかも知れない。しかしそれはシーブルにとって復讐の
不死の薬などもってのほかだ、それにそんな薬は作れない。しかし作れないと知れば、ローセルがどういう行動に出るかわからない。だからシーブルはローセルに多少の希望を見せつつ、老化の薬の効果をコントロールする。少しずつローセルの力を弱めると同時に、自分の身の安全を確保しているのだ。
「申し訳ございません、ローセル様」
「ちっ……とにかく早くしろ! お前の母親の為にもな。それとバラクはどうしてる?」
「いえ、今日は見ておりません」
「ニヴルに『リリア・メイデクス』と『ユウシ』とか言う加護持ちの人間が来ているらしい。バラクを見つけたら対処するように伝えておけ」
「かしこまりました、失礼します」
シーブルは何とかやり過ごし、玉座の間を後にした。
「シーブル……町で加護持ちと接触した事を隠してるな。バラクをやったのか……そろそろ動き出すか。ふふ、さぁて何を
ローセルは呟き、ニヤリと笑った。
自室に戻ったシーブルは、ローセルに不審に思われなかったと思い込み胸を撫で下ろす。
緊張の糸が解けベッドに倒れ込み、枕に顔をうずめた。
――もう少し、あと少し……きっとうまくやれる、ブリーズ様あたしに力を貸してください――
――――――――――――――――七年前――――――――――――――――
ローセルの城に連れてこられて半年程経ったある日、シーブルは玉座の間に呼び出された。
玉座に座るローセルに跪き頭を下げる。
「お呼びでしょうか……ローセル様」
「よぉシーブル、不老薬の効果を高める研究は進んでんのか?」
研究の成果はあまり芳しくなかったが、正直に言ったら何をされるかわからない。
シーブルは何て答えればいいのかわからず黙り込んだ。
ローセルは立ち上がりシーブルの脇腹を蹴り飛ばす。
シーブルは悶絶してお腹を抱えて呻き声を上げた。
「がぁはっ……ゴホッゴホッ……うっう……ごめんなさい」
「黙ってたらわかんないだろ、シーブル? まぁその様子だとあまり成果は出てないようだねぇ」
ローセルはニヤニヤしながら、シーブルの髪の毛を掴み持ち上げて話を続けた。
「
「は、はい……ローセル様」
「バラク! こいつを連れて近くの町を回って来な。出来れば定期的に金を
「かしこまりました、僕にお任せ下さいローセル様」
バラクはニヤリと笑ってシーブルの襟を掴み、そのまま引きずって玉座の間を後にした。
「いつまで僕に引きずらせる気なんだよ、このグズ!」
バラクは怒鳴りシーブルを投げ飛ばして壁に叩きつけ、さっさと歩き出した。
シーブルは頭から血をダラダラと流しうずくまる。
「早くしろよ」
「うっ……ご、ごめんなさい、バラク様」
シーブルは涙を
「ふんっ、何でこんなグズをこの僕が……」
ブツブツと文句をたれながら前を歩くバラクをシーブルは睨みつけた。
バラクは翼を広げて空に飛び上がる。
シーブルは覚えたての飛行魔法を使い、バラクの後についてしばらく飛んで行くと町が見えてきた。
住民がごく普通に送っている当たり前の生活は、シーブルにはとても眩しく懐かしく感じた。
町の上空でバラクはキョロキョロと何かを探している。
「不用心だなぁ結界もなしか。住民は……大体三百人くらい、まぁ小さな町だったら仕方ないね」
バラクの両手が光り出しバチバチと電気が発生し、どんどん激しさを増していく。
雷魔法【
巨大な雷が町の広場に向けて放たれると、次の瞬間には広場の中心が跡形もなく吹き飛ばされた。
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