第15話 自殺
一週間後、俺と健二は斎藤の家に向かった、築四十年くらいのアパートの一階だ。インターフォンは壊れていて鳴らない。いつものようにドアを叩いて斎藤の名前を呼ぶ。
「斎藤さん! いるんでしょ。約束の日ですよ、開けて下さい」
返事はなく、部屋の中に人気はなかった。
「アニキ……逃げられたんじゃないですかね?」
俺はドアノブに手をかけて、試しにノブを回してみると鍵はかかっていなかった。
ドアを開けて部屋に入ると、
匂いの元を辿りふすまを開けると、人形みたいなものが天井からぶら下がっていた。
嫌な予感は的中した、首を吊って自殺した斎藤の足元からは汚物が垂れ流されている。
「くそ……ふざけんじゃねぇぞ」
後から付いてきた健二が呟く。
「うわっ! くっせぇ……こいつ
真っ先に金の心配をする健二もなかなかのものだ。
「こいつが入ってる訳ねぇだろ。それより、この死体をどうにかしなきゃな」
健二は慣れてないせいか、慌てた様子だ。
「ア、アニキ、警察呼びますか?」
「ああ、仕方ねぇ、斎藤は身寄りがいねぇ筈だ。いても借金だけなんて誰も相続しねぇだろ。そうなったら債務は
「は、はい。わかりました」
あからさまに嫌そうな顔をする健二を残し、アパートを出て若頭に電話をかける。電話のコール音が流れる度に緊張が走る。斎藤が自殺するなんて予想外だったが、俺のミスだ。
「お疲れ様です、勇史です。斎藤が首吊って自殺してました、すみません」
緊張していたせいか、電話が繋がった瞬間、一方的に用件を伝えてしまった。
「ちっ、お前は何やってんだ! ……まぁ今はそれどころじゃねぇ、説教は後だ。恐らく相続は放棄されるから、お前は急いで連帯保証人のとこ行ってこい。自殺する前に斎藤が連絡入れてたら逃げちまうぞ」
「わかりました、すぐに向かいます」
若頭は
「ちょっと待ってろ。今住所をそっちに送る。保証人の名前は
「はい、申し訳ありません。失礼します」
低い声で脅すようにゆっくりと話す、大声を出して喚き散らすよりよっぽど迫力がある。
電話を切ってしばらくすると、メールで借用書の画像が送られて来た。連帯保証人の欄に神沼の住所が記載されている。車に乗り込み住所をナビにインプットする。
「くそ! ナメた真似しやがって……」
自分と斎藤に対して苛立ちが収まらず、両手でハンドルを思い切り叩いた。
俺は途中でコンビニに寄り、神沼に見せる為に借用書の画像をプリントアウトする。
しばらく車を走らせると、やがて神沼の住所付近に到着した。
神沼宗一郎か。住所からしてこいつが払えるとは思えねぇけど……でももう失敗は許されねぇ。もしこいつが夜逃げでもしてたら、地の果てまで追いかけてやる。
神沼の自宅はやはり古いアパートだった。住所によると一階の一番奥の部屋だ。
インターフォンを鳴らすと、神沼がドアからニョキっと顔を出した。とりあえず、ここにいた事で少し安心した。しかしまだ油断は出来ない。一般的に借金をする側は大変な印象だが、借金を取り立てる側も同じか、下手したらそれ以上にしんどいものだ。
「どなたかな? 新聞はもういらないぞ」
「初めまして、神沼さん。あなた、斎藤……斎藤
突然の借金の取り立てにビックリしているのか、息子が死んでパニックになっているのか、神沼は目を丸くして口をパクパクさせている。少し間を置いて二、三回小さく頷く。
「これは……何とも珍しい、お前さん
何言ってんだ、このジジイ。普通息子が死んだら、もっと動揺する筈なんだけどな。まぁ俺には関係ねぇが……それより住まいはボロいけど、金はあるのか?
そんな事を考えながら、ドアノブに手をかける。
「お言葉に甘えてお邪魔しますよ」
一応そう言って部屋に入った。中は生活感のある一般的な一人暮らしの部屋だ。
小さなテーブルに座布団が敷いてある。神沼は座布団にあぐらをかいて座った。神沼は俺に座るように手で合図をする。
俺はポケットに両手を入れたまま、首を振って断ると神沼は肩をすくめた。
「あなたの名前を聞いておらんかったな。何とお呼びすれば?」
「ああ、そいつはすまねえな、俺は龍神会の瀬川勇史ってもんだ。面倒くせぇから単刀直入に言うぞ」
俺は斎藤の財産は借金だけで、身寄りがいても恐らく相続放棄される事、その場合は連帯保証人に債務が移る
「――と言う訳で神沼さんには斎藤の借金を肩代わりしてもらう事になる。総額で大体五百万円だ」
「突然そんな事言われても……斎藤さん? 誰じゃったかな」
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