第5話 二つの加護
雪原地帯ねぇ……寒いのはあんまり好きじゃねぇんだけどな。色々と思う所はあるが、今はリリアの考えを
翌日俺達は、雪原地帯に入る為の装備を整える事になった。身体の方はと言うと一晩寝たら嘘みたいに調子はよくなっていて一安心だ。
これからの事を考えると、やはり丸腰は不安なので安物の剣を一振り買ってもらう約束をした。
その他にテントや防寒具、
しかし途中でリリアは俺が昨日空けた結界の穴の修復作業に出掛けて行ったので、キュイールと二人きりになり少し気まずい雰囲気で街を歩いていた。
「なぁ、タバコとか売ってねぇのかな?」
「タバコ? 何ですそれ」
キュイールは怪訝な表情で聞き返す。
やっぱり売ってねぇか……仕方ない、いい機会だし禁煙するか。まぁそれしかないんだが。
「じゃあ整髪料とかって売ってねぇの? 今の髪型だと一般人って言うか……気合い入らねぇって言うかさ」
「せいはつりょう? そんなもん知りませんね。それよりあなたと二人で買い物など不本意以外何物でもないですね。しかもいい歳して無一文とは情けない」
「仕方ねぇだろ? 俺はこの世界に来たばかりで、この世界の金なんかねぇんだからよ。お前さ、何でそんな突っかかってくんの? 今はもう一応仲間なんだから仲良くしようぜ」
こいつはいちいち突っかかってくるんだよなぁ。これでもかなり我慢してる『昔と違ってだいぶ丸くなった』なんて、飲み屋のオヤジが言いそうなセリフを口にしたくなる程だ。
俺の言葉を飲み込めない様子で、ジロリとこちらを睨む。
「私はあなたを仲間だとは認めていませんよ? リリア様はあなたを認めているみたいですが……私は絶対に認めません! せっかくリリア様と二人きりだったのに――」
なるほど……こいつが何で俺を気に入らないのか、今何となくわかった気がした。そいつをぶつけてみる事にしよう。
「キュイール、お前さぁ……リリアの事好きなのか?」
修学旅行の夜中にするような会話だが、まぁまぁ嫌いじゃない話題だ。そして案の定キュイールは顔を赤くして、思った通りの反応をした。
「な、な、な、何を言ってるんですか!? 私がリリア様の事を――」
キュイールは言葉がどもり、明らかに図星のようだった。わかりやすすぎるヤツだ。
「その反応だけで充分だよ。だからキュイールはリリアにくっ付いてんのか」
「違います! ……とも言い切れないですが――コホン。リリア様は『
ただの小間使いじゃねぇかと、思わず言い返したくなるが、その言葉を言えばまたややこしくなる。それにキュイールの気持ちもわからないでもない、リリアは容姿に関しては確かにいい女だ、キャバクラで働いてたらナンバーワンに……と、ここで俺は自分の思考回路に嫌気がさした。
「ふーん、聖女だかなんだか知らねぇけどさ……好きなんだろ?」
その言葉で、またキュイールは顔を赤くして騒ぎ出す。でも、交流を深めるならこういう俗っぽい話は有効だ、こいつともしばらく一緒に行動するんだから、友好的な方がストレスも少なくて済む。俺なりの世渡りってヤツだ。
俺達はくだらない会話をしながら、必要な物を購入して宿に戻って来ると、リリアは結界の修復を終えて先に宿に戻っていた。
「ごめんね、買い出しを頼んじゃって。キュイールだけに任せてもよかったんだけど――ちょっと頼りない所があるから」
キュイールはリリアの言葉を受けて、愕然としている。落ち込みながら重い足取りで荷物を部屋に運びだした。
何だか
「あれ? キュイールどうかしたの。何か悪い事でもあったのかな」
「そうだな、たった今あった……そんな落ち込むような事でもねぇと思うけどな」
俺の話を聞いても腑に落ちない様子で、リリアは首を傾げている。この女はこの女で何もわかってないようだ、自分に向けられた好意は気付きにくいものだが、鈍感過ぎる。キュイールはわかりやす過ぎるんだけどな。
とにかく、氷の魔女に会いに行く為の準備は整った。俺達は食事を取り、早めに就寝した。
翌日は早朝から出発した。雪原地帯から一番近い街まで馬車に乗せてもらったが、目的地はまだまだ先だ。だいぶ歩いたが、まだ五日はかかるらしい。
これが旅ってヤツか、すげぇだるいな。馬車とか初めてだったけど本当乗り心地最悪だったし、歩いて五日って意味わかんねぇよ。文明って偉大なんだな、産業革命って心から尊敬するわ。誰だエンジン開発したの? そいつこそ神だろ。皇帝倒すより、エンジン開発した方が儲かるんじゃねぇか……エンジンの仕組みちゃんと勉強しておくんだったな。
天気もいいし空気もうまい、最初こそ『だるい』だけだったが、暑さと疲労でだんだん不満が増してくる。歩き始めてしばらく経った頃、俺はいい加減イライラしてキュイールに八つ当たりしてしまった。
「おいキュイール、何でお前の方が俺よりずっと荷物が少ねぇんだよ? 従者って事は小間使いなんだろ。もっと持てよ」
キュイールはジロリとこっちを見てからため息をついた。
「いいですか? 勘違いされてるようですが、従者と言っても聖
この野郎……やっぱ一回痛い目に遭わせねぇとわかんないんだな。そう思ったが皆同じだ、イラついてるのは俺だけじゃない。キュイールはいつにも増して言葉に
俺の眉毛が自然とピクピク動いている。
「キュイール! そんな事関係ないでしょ? 私達は仲間なのよ。助け合うものでしょう、ユウシがキツイなら私が――」
「いえ! リリア様に荷物を持たせる事など出来ません。私が持ちます!」
リリアは三等分して荷物を持つ事を提案したが、女に荷物を持たせるというのは俺も気が引ける。それ以上に今回の
最初からやれよこいつ、メンドくせぇな――思わずまた悪態をついてしまいそうになった自分がイヤになる。
すると突然キュイールが、体長二メートル程の犬のようなモンスターに襲われた。
「ひぁあああ! リリア様!」
モンスターはキュイールに覆いかぶさり、よだれをたらし鋭いキバを見せる。
リリアは素早く剣を抜き、モンスターを斬りつけた。ダメージは浅かったが、キュイールからモンスターは離れ、距離を取ってこちらを
「グォオオオオ!」
願ったりかなったりだった、イライラしてたからちょうどいい。暴れたい気分ってだけでモンスター相手に暴れられるのは悪くない。元の世界じゃ簡単には暴れられないからな。
俺の身体の周りを炎が覆う。剣を抜いた俺は、猛スピードで突進した。するとモンスターも走り出し、真正面から飛びかかってきた。
不意を突かれ、モンスターに噛みつかれるかと思った瞬間、目の前に炎の壁が現れた。
――あの森の時と一緒だ。でもドラゴンと戦った時みたいに、身体は自然と動かなかった……どういうことだ?
今考えてる場合じゃない。炎で怯んだ隙をついて、モンスターを両断した。
俺の姿を見て、リリアが驚いて目を丸くしている。
「ユウシ……それって神炎の加護じゃないの!? どういう事なの。確かに私が見たのは白い炎だった筈……あ、でもベルゼは最初に神炎の加護を持ってるって言ってたわね」
よく見ると確かに今まとっている炎は赤い色をしている。リリアは混乱している様子だ。
「まさかユウシは加護を二つ持っているの!?」
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