第25話 少年5
その生徒はカトウがどこかに消えたタイミングを見計らったかのようにやって来た。
マルクトは驚いた。
その生徒は何故か制服ではなく白いワンピースという私服でやって来ていたのだった。
だが、その生徒の顔は目深に被った帽子のせいでよく見えなかった。
しかし、マルクトの驚く理由は他にもあった。
(あれってユウキなんだよな? なんであんな格好しているんだ?)
先ほど、魔力感知でここら一帯を探索した結果、カトウの他にもうひとつ反応があったのだ。
それが自分の生徒であるユウキの反応と一致していた。
そのため、校舎の影にユウキが隠れていたのは知っていたが、まさか、女装して現れるとは思っていなかった。
「……先生、私と今度の魔導フェスタ、一緒にまわってはいただけませんか?」
なんというか、気まずい。
そりゃ、別に魔導フェスタをユウキとまわるのはやぶさかではないが、何故、その格好で、こんなまわりくどいことをするのだろうか?
魔導フェスタを一緒にまわりたいなら、普通に学校で話す時にでも誘ってくれたら良かったのに。
「……それは別に構わないんだが、その、……なんでユウキはそんな格好しているんだ?」
俺の言葉に目の前のユウキは驚いた様子で、
「………なんで、認識阻害が効いてないの?」
「いや、なんというか、すまなかった。確かに、俺だって、何も知らずに会っていたら解らなかっただろうが、カトウを探す際に、ユウキがそこに隠れていたのは知っていたからな。つまり、全部カトウが悪いな。あいつは明日にでも、ぼこぼこにするから、それで許してくれ」
「……そんな、まずいよ」
マルクトの話をまったく聞いていないかのように、ユウキは何かに怯えた様子を見せ、その発言を残し、その場から走り去っていった。
あれ? もしかして正体ばらすのは不味かったかな?
俺の冗談も華麗にスルーされてしまった。
暴力教師って噂されたらどうしよう。
暫しの間、その場に置き去りにされて、そんなことを考えていたマルクトは、
「まあ、明日も学校で会えるだろうし、明日にでもユウキに謝っておくか」
という言葉を残してその場から立ち去った。
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ユウキは怯えていた。
ユウキは必死に何かから、逃げるように走っていた。
ユウキはマルクトから逃げるように学校を立ち去ったあと、近くの路地裏に逃げ込んでいた。
まさかすぐに、自分の正体がばれるなんて、先生の力を甘く見すぎていた。
どうしよう、彼らにばれたら、殺されちゃう。
「ユ・ウ・キ・ちゃ~ん」
前にある脇道から聞きたくない声がした後、10人の男たちが現れた。
ユウキは走る足を止めた。
「どうだった? 先生のことちゃんと誘惑して来た?」
「だ、ダメだったよ」
「あぁん?」
「あの人ヤバいよ。一瞬で僕の正体見抜いて、あの人の前で何かすること事態が間違ってるんだよ。やっぱりもうやめるべきなんだよ!」
そう言った直後ユウキは男の一人に鳩尾の辺りを蹴られていた。
男の不意討ちを避けられなかったユウキは、その場にうずくまる。
「使えねぇ! 使えねぇ! 使えねぇ! このグズが! その気持ち悪い趣味だけで吐き気がするってのに、そのうえ使えないんじゃただの役立たずじゃねぇかよ! この気持ち悪いオカマ野郎!!」
その男は罵倒しながら、最初の一撃でうずくまるユウキの背中を踏みつける。
何度も、何度も。
その男の仲間たちは、踏みつけられるユウキのことを嘲笑していた。
(痛い、痛い、痛い、助けて。誰か助けて!)
ユウキは声にならない言葉で必死に助けを求める。だがそんな声が、周りに聴こえるはずがない。
たとえ、声に出てたとしても助けてはもらえない。
そんなことは、わかっている。この場にユウキのことを庇う人間がいないことは中等部の頃からわかっていた。
こいつらが満足するまで、蹴られたり、罵倒されるのは終わらないだろう。終わったとしても、今回の失敗の責任をユウキ自身に擦り付けて、何事もなかったかのように生活を続けていくのだろう。
それが、ユウキの中等部の頃に思い知ったこの世の理不尽というものであった。
立場とは生まれながらにして違う。
貴族と平民とでは、同じ年であっても、立場や信用が全く違う。
こいつらが、女装してたぶらかせと笑って言ってきた時の絶望はこいつらでは計り知れないものであり、それでも逆らうことの出来ない理不尽、そんなことを思いながらも、必死に頑張った女装は、先生に一瞬で見破られて、失敗した。
どうせ、なんとか無事であっても、学校で女装したことを周りに言いふらされ、高等部での生活は中等部の二の舞になるんだろうな。
ユウキがそんなことを考えている時だった。
「おいおい。それは言い過ぎなんじゃないのかい?」
「あん?誰だよ」
ユウキを踏みつけている男は声の聞こえた方向に顔を向けて、その言葉を口にした瞬間、その方角から走ってくる男から飛び蹴りをくらい、そのまま勢いよく壁に激突した。
ユウキは顔をあげてさっきまで自分を踏みつけていた男を、蹴り飛ばした人物を見上げた。
ユウキは自分の見たものが信じられなかった。
青い髪で金色の眼に整った顔立ちをしている男、自分が利用しようとしていた担任教師がそこには立っていた。
「はーい。皆さんちゅ~も~く! 俺はこちらにいるユウキくんの担任教師をやっている、マルクト・リーパーって言いま~す。
てめぇらを牢獄に入れる奴の名前しっかり覚えとけよ。」
その口調は軽いものではあったが、白衣に身を包むマルクトの眼差しは恐ろしく鋭いものだった。
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