第24話 少年4

 職員室についてお茶を飲んでから、マルクトは仕事に取りかかろうとしたのだが、


「そういえば、結局ラブレターにはなんて書いてあったんだ?」


 とカトウが言ってきた。

 実際のところ自分でも気にはなっていたのだが、


「何故それをお前の前で開かにゃならんのだ」


「え、だって気になるじゃん」


「ラブレターですか?」


 隣に座っていたメルラン先生が先ほどの言い争いの原因に反応した。


「そうなんですよ。マルクトの奴がさっき下駄箱開いたら、中に手紙が入っていたんですよ。メルラン先生も気になりますよね?」


「それは確かに興味がありますね」


「メルラン先生!?」


 メルランの意外な発言にマルクトは持っていた湯飲みを落としそうになった。


「生徒と先生の禁断の恋。……いいですよね」


 メルランはうっとりとした表情で言うと


「よくないと俺は思いますね!!」


 何故かカトウが反応した。

 その時にカトウが机を叩いて発言するもんだから周りの先生方が何事かと反応する。


「カトウ先生には聞いてませんよ?」


「だって、羨ましすぎるじゃないですか!! 俺は六年間この学園で教師やってますけど、そんなラブレター貰ったことなんて、一度もないんですよ!!」


「いや、そもそもラブレターだとは決まった訳じゃないだろ?」


「じゃあ、なんだって言うんだよ」


 マルクトはカトウの問いに少し考えて


「……論文提出とか?」


「そんなもん下駄箱に入れてんじゃねぇよ!! 直接渡せや!!」


 カトウがさっきから喚くもんだから、周りの視線が痛い。

 もういいから一旦落ち着けよ。


「とりあえず見てみればよいのではないですか?」


 メルラン先生の発言に、それもそうだと思い、かわいい柄の封筒の封を開いて中に入った手紙を取り出してみた。


『先生へ

 放課後の5時に学部棟A棟の大きな木の下で待っています。』


 カトウとメルラン先生は俺の後ろから手紙を覗きこんでいた。

 振り返って後ろを見てみると、そこには、般若のような顔をしたカトウと、目を輝かせながら興奮しているメルラン先生が俺を見ていた。

 いや、カトウお前どうやったらそんな顔になるんだよ。

 

「やっぱりこれって?」 


「ラブレターですよ、マルクト先生! 良かったじゃないですか!!」


 果たして良かったと言われると微妙なところではある。

 確かに、この手紙は俺を慕ってくれている証だととると、素直にありがたい。

 だがしかし、これが、カトウやメルラン先生の言っているラブレターの場合、断れば、その生徒との関係は悪化してしまうかもしれない。

 実に悩ましい。

 もういっそ、


「見なかったことにするか?」


 その時、服の襟を掴まれてカトウに頬を殴られ……そうになったので、防御結界の魔法で顔を守った。


「イダッ!! なんで防ぐんだよ。ここは普通一発殴られるところだろ」


 涙目になりながら、うずくまって防がれて痛めた右手を抑えながら訴えてきた。

 いや普通防ぐだろ。


「……おいカトウ、何すんだ急に?」


「お前がふざけたことぬかすから、目をさまさせようとしたんじゃないか!!」


「はあ? いや、まあお前の意見もわからなくもないが、じゃあどうすればいいんだよ」


 実は学生時代に、一度もラブレターなんてもらったことのないマルクトは、いろんな理由をつけてはいるが、正直なところどうすることが正解なのか、わかっていなかったのだった。


「いいか? マルクト。お前はラブレター出すのに、どんだけ勇気いるか分かってんのか? 頑張って書いた手紙を無視するなんて、それこそ教師としてどうなんだよ!」


「そうですよ。その子も駄目かもしれないと分かっていても、それでも出した手紙なんですよ。行くべきです絶対」

 

 とメルラン先生もカトウに同意して俺に行くべきだと主張する。

 二人がそう言うなら行くべきなんだろう。

 というわけで、意を決した俺はラブレターをくれた子に、返事をするため放課後に学部棟のA棟にいくことになった。




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 現在午後五時五分前。

 午後の授業も終わり、例の約束の場所まで来たのだが、誰もいなかった。

 

「まだ誰も来ていないのか? ……と言うとでも思っていたのか? この野郎!!」


 そう言いながら、近くの茂みに潜んでいた者のもとまで早歩きで向かい茂みに潜むそいつの首ねっこを掴んだ。

 突然の出来事により、そこにいた者は回避が出来ず捕まってしまった。

 そこにいた人物、誰であろう?

 カトウである。

 

 先程、授業終了後に職員室にむかうと、職員室そこにカトウの姿はなく、他の教師に聞いたところ、とっくに帰ったと言われた。

 その時点でこいつが絶対、今回のラブレターの現場を覗いているのだろうと予想できていたし、覗かない訳がないと思っていた。

 それなら、この場所でカトウを探せばいい。

 そう思った俺は魔力感知の魔法を発動した。

 魔力感知の魔法は鍛えれば、自分の中の魔力だけではなく、周りの人や動物等の魔力量を視ることができるようになる。

 指紋と同じように魔力も人それぞれ違う。

 俺は、一度覚えた魔力の波を忘れることはない。

 だから、カトウがこの場所に潜伏しているのが分かったというわけだった。


 あとは簡単だった。

 カトウの首ねっこを掴みあげて投げると同時に、この馬鹿を転移魔法で海の上に転移させて落とす。

 これで邪魔者の排除は完了だな。

 皆も今度機会があったらやってみるといい。

 めちゃくちゃスッキリすると思うよ。


 そんな誰に向けて言っているのかわからない考えをマルクトがしている一方で、動きを見せる影があった。

 マルクトとカトウの茶番を校舎の陰から見ていた一人の生徒

は、カトウが消えたのを確認し、決心したようにマルクトの元に歩みよろうとしていた。


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