第23話 少年3
エリナの言葉にこれ以上この話を続けるのは危険だと判断したマルクトは、話を変えるために、何かないかと店内を見渡したところで気付いた。
客が全くいないのである。
珍しいな常連さんすら居ないとは、さっきまでは、ユウキに関しての話であまり気にしてはいなかったのだが、この時間帯にこの店がここまで客がいないのは、珍しいな。
と、この一ヶ月毎日のようにここに来ているマルクトは思った。
その時、注文した品を持ってエリカがやってきた。
「はい、麦酒二杯おまちどおさま」
「ありがとうございます。ところで、今日は珍しく常連さんすら居ないんですね。もしかして、早く店仕舞いするとかだったんですか? 邪魔なら俺、帰りますけど」
エリカはマルクトの言葉に笑って、いいえと手を振りながら
「そんなことないんですよ。ただ、ここの常連さんは、商店街の役員が多いんですけど、もうすぐ魔導フェスタがあるでしょう? それの準備に勤しんでいて、食事に来る余裕がないんですよ」
「そういえばもうすぐでしたね」
マルクトはその言葉を聞いて納得した。
この国では年に一度五月十五日に魔導フェスタという祭りが開かれる。
その日は一日中祭りが開かれていて、そのなかでも、魔導学園高等部の五年生が毎年、これまでの研究の成果を発表する発表会も開かれる。
ちなみに今は五月五日で、魔導学園エスカトーレの五年生は明日から魔導フェスタまで授業は休みである。
なぜなら、魔導学園の五年生にとっては、これまでの研究成果を幾つもある魔法研究所に認めてもらえるチャンスでもあり、ここでの実績によって将来が決まると言っても過言ではないからだ。
俺も去年の魔導フェスタで評価をくだす審査を任されたし、学生時代には、状態異常完全回復魔法を発表したら当時の魔導開発研究所にスカウトされたんだよな。
あの時は、世界中からその魔法の使い方を教えて欲しいって言われたね。
だって、毒や火傷なんかは一瞬で治る訳だし、当時不治の病で有名な病気ですら治すことができたし。
一応術式は教えておいたけど、結局使える人間が限られた魔法になったけど。
それでも、他国の機関が御礼金を、いらないって言ったのに、大量にくれたんだよな。
まぁ、金はいくらあってもいいし、素直に貰っといたけど。
マルクトが思い出に浸っていると、エリスがマルクトの腕を握り、上目遣いで見ながら、言ってきた。
「先生一緒に回りましょ。できればなんかおごってください」
にこやかな笑顔でマルクトを見つめ続けるエリス。
現金な奴め。……そうだ。
「よし、わかった。俺がおごりたくなるくらい可愛い格好してくるんならいいぞ。エリナもな」
「先生ほんと!? やったー!」
エリスは目を輝かせながら、喜んでおり、
「私もいいんですか?」
「ああ、もちろんいいぞ」
「ありがとうございます!」
「あらあら二人とも、早速明日にでも服を買いにいかないとね」
エリナも喜んでいる様子だった。
魔導フェスタが今から楽しみになってくるねー。
横のカトウが羨ましそうにこちらを見ながら赤い涙を流していた。
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次の日、下駄箱を開くと中から一枚の手紙が落ちてきた。
「マルクトてめぇ! 昨日二人をデートに誘っただけでは飽きたらず、まだそういう相手がいるのか!? ぶっちゃけ羨ましいぞ。この野郎!!」
「だー、もう、うるさいぞカトウ! 昨日麦酒飲みすぎたせいでお前の喚き声が頭に響くんだよ!!」
「そりゃそうだろうよ! お前昨日、俺の奢りだからって、遠慮無しに酒飲みまくってたじゃねえか! そりゃ二日酔いにもなるわボケェ!!」
「そんなこと言ったってしょうがないだろ。あそこの麦酒が本当にうまいんだよ。あんだけうまくて奢りなら、つぶれる直前まで飲むに決まってるじゃねえか。お前を許すためにしょ~~がなく、飲みまくってやったんだ。ありがたく思え」
「思えるわけねぇだろ。ちったぁ、お財布に優しい飲み方ができねぇのか? お前のせいで今月ピンチになったじゃねえか。生徒の前でくらい、大人しく飲め!」
「いつもはもっとおしとやかに飲んでるんだよ。あそこまで飲んだのは、本当に久しぶりだったよ。でも実際、酔ってはいたが、誰にもからんでねぇだろ? 生徒の前だからな。酔って暴れるギリギリ手前でやめたんだよ」
「それだけは、本当に助かった。お前あまり酔わないから、前に一度、酔いつぶれるまで飲ませようと思って飲ませた結果、酔った客に絡まれた瞬間、暴れ始めて手がつけられなくなったからな。あの時は、ユリウスと共に、マルクトには二度と酔いつぶれるまで、酒は飲ませないと固く誓ったよ」
「あの時は確かに、暴れまくってた記憶があるが、あれは向こうが原因だろ?」
「そうだな。だからと言ってからんできただけの相手を半殺しにする程痛めつける必要はあったのかね?」
「お二人とも、ここは、下駄箱ですよ。靴を履き替える場所であって、喧嘩する場所ではありません。やるなら、職員室でお願いします。ここでは生徒たちの目もありますので」
冷ややかな眼差しで二人を見つめ、二人に注意を促したのは、同僚のメルラン先生であった。
メルラン先生が止めに入ってくれたことによって二人は多少冷静になる。
「「すいませんでした」」
ここでは迷惑になるということで、俺たちはとりあえず職員室に向かうことにした。
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