第22話 少年2

 今日も今日とて俺はカトウを連れて、エリスとエリナの母親が経営している酒場『Gemini』にやって来ていた。


「マルクト先生いらっしゃいませ。お席にご案内致しますね」


 店の制服を着たエリスがいつもの席に案内してくれた。

 しかし、マルクトに対して普通に接客するのに、カトウはまるで居ないもののように扱われていた。

 俺の隣では、カトウが不満そうな顔でこっちを見てくる。

 その顔でこっち見んな。


「……エリスちゃん?一応俺もいるんだけど?」


「あら、カトウ先生もいらしてたんですね? 何かご用でしょうか?」


「え!? ひどい!! 最初からいたじゃん!!」


「そうでしたか? 最近いらしてませんでしたから気づきませんでした。そういえば、いつから来てませんでしたっけ? あ! そうだ!! カトウ先生が食い逃げして以来、一度もお見えになっておりませんでしたね。い・ち・ど・も」


 カトウの顔がみるみるうちに青くなっていく。

 いやまぁ自業自得なんだけどね。

 一応弁明するわけではないが、あの事件の次の日、ぼこぼこにされた顔で、店には謝りに行っていた。

 ただ、その時にエリスもエリナも当然学校にいたので会っていなかったのであった。


 カトウは次の瞬間地に頭をすりつけ、土下座の体勢をして、


「あの時は本当にすいませんでしたー!!」


 と言って、俺とエリスに向かって謝った。

 そんなカトウに俺は、

 

「そうだな。

 許してやる代わりに、今日の飲み代全額お前もちな」


「くっ、致し方あるまい。それで許してもらえるならば」


「よし! 言質もとったし、エリス。エリナを呼んでこい。今日はカトウの奢りだ。好きなだけ食べていいぞ」 


「え!? 二人の分も俺が出すの?」


「何言ってんだ? 当たり前だろ。なぁエリス?」


「……奢ってくれなかったら、カトウ先生今日から出禁」


 ボソッと呟いたエリスの発言に、カトウは慌てる。


「え!? まじで!? ……わかった。奢ります」


 長い葛藤の後、カトウは了承の旨を伝えた。

 そう言ったカトウの目には雫がたまっていたが誰も容赦しなかった。


 エリカさんにも、許可をもらい、エリスとエリナを含めた四人で飲んだ。(ちなみにエリナとエリスはジュース)

 今日の件が気になった俺は、ユウキのことをエリスとエリナに聞いてみた。


「ユウキ君ですか?」


「そうなんだよ。俺、なんか最近ユウキに避けられてる気がするんだよな」


「へっ、なんかやったんじゃねぇの?」


 やけ酒を飲んでいたカトウが嫌味ったらしく言ってきた。


「カトウじゃないんだから、そんなドジ踏むわけねぇじゃん」

 

「確かにカトウ先生と違って、マルクト先生は生徒から人気ありますよね。カトウ先生と違って。」


 エリナは何故か〈と違って〉の部分を強調して言った。

 エリナの隣ではエリスがうんうんと何度もうなずいていた。

 カトウに関しては、めちゃめちゃへこんでいた。


「私は中等部時代は別のクラスだったので、ユウキ君のことはよく知らないんですが、確かエリナが同じクラスだったはずです。」


「そうなのか? ……エリナ?」


 エリナの方を向くとエリナは顔を青くしていた。

 大丈夫かと聞いてみると、エリナは一応大丈夫と断って、深呼吸をしてから、


「あまり人に言っていいことではないのですが、ユウキ君はクラスの一部の男子生徒に……その、いじめられていたんです」


「いじめ?」


「はい。ユウキ君にはあまり人に知られたくない趣味があったらしくて、その趣味を知った一部の生徒がユウキ君に、暴力をふるったり、暴言を吐いたりして、ユウキ君をいじめていました」


「初耳なんだけど?」


 エリスは妹の衝撃的な告白に驚いていた。いや驚いていたのは、エリスだけじゃなかった。


「そんな話、俺でも知らなかったぞ? 担任の教師はなにやってたんだ?」


 カトウは不機嫌そうな顔でエリナに聞いていた。


「当時の担任の先生は、いじめていた男子生徒の一人が貴族で、担任の先生がその男子生徒に問い詰めた際に、金で買収されました」


「は? ふざけんな。何考えてんだその教師は!! 生徒がいじめられているのを金で見過ごすなんて、許されねぇ!!」


「落ち着けカトウ」


「でもよ。マルクト、そいつは」


「わかっている。その担任教師と貴族のボンボンがくそ野郎だってのは俺にもよくわかる。だが、ここはいったん落ち着け。自分の今いるところを考えろ。周りの迷惑になることは控えろ」


「すまなかった」


「ところでだが、そのいじめを見逃した教師と貴族のボンボンは今どこにいるんだ?」


「当時いじめを行っていた生徒は、今は学園にはいません。授業の単位が足りずに、留年することになって、退学したそうです」


「つまり、そいつらはもうこの学園にはいないのか?」


「はい。あの時の担任教師の名前はダレンという紫ランクの先生でした」


「え?そいつ誰?ダレン


 ……え?

 何言ってるんですかエリスさん? この大事な時に。

 だがあえて、


「紫? 紫で中等部の教師やってるのか?」


 俺は無視した。


「……そうです。実力はあったんですけど、あまりいい先生ではありませんでした。マルクト先生に比べるとゴミですね。」


 エリナも俺の意思を汲み取ってくれた。

 優秀な生徒で俺は嬉しいよ。


「え? 無視はひどくない?」


「……エリナがそういうなら実力は確かなんだろうな」


「ねぇさすがに少しはかまってくれないと、泣くよ」


「ちょっとお姉ちゃん黙ってて」


「あっはい」


 妹の言葉に姉は黙ってしまった。


「話戻すけど、いじめられていた原因のユウキ君の趣味ってなんだったの?」


 カトウが俺もさっきから気になっていたことを聞いてきた。


「それは、私にもわかりません。…ただ」


「ただ?」


「よくそのいじめている生徒が、お前女っぽいんだよ。もっと男らしく生きろよ。と言っているところを目撃したことはあります」


「なるほどね」


「まぁ確かに、男の俺から見てもかわいらしい見た目してるし、少し気弱そうだもんな」


「え!? ……先生そっちがわの方だったんですね」


 と復活したエリスにドン引きされた。

 その言葉を聞いたカトウが、


「そういえばお前、昔から彼女作ってなかったよな。学年一の美少女から告られてた時も何故か断ってたし。……まさか、お前男が好きなのか!!」


 と言ってきた。

 カトウが悪のりした結果、エリスの俺を見る目がどんどん冷たくなってくる。


「違う!! あの時はたんに彼女を作りたい気分じゃなかっただけだ!! 俺は男を性的な目線で見たことなんかない!!」


「……マルクト。俺、結婚してるから、お前とはそういう関係にはなれないぞ」


「誰がお前なんかと寝るか!! 一人で永遠に寝てろ!!」


 と言った途端エリナが、


「それもなかなか」


 と呟いた。


「「「え!?」」」

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