第4話 魔王少女3

 マルクトは自分の宿泊している宿に二人を連れてきていた。

 一人は金髪碧眼の髪が首のあたりまで伸びている五才くらいの先程魔力を暴走させて現在眠っている少女。

 もう一人は、黒髪のツインテールでどことは言わないが結構大きい見た目十五才の少女である。

 二人をベッドに座らせて(少女は寝かせて)、マルクトは部屋にあった椅子に腰掛け、机に買っておいたリンゴを乗っけた。


「でははじめようか」


 そんな言葉をかける目の前のマルクトと先程名乗っていた男を見て、メグミは理解してしまった。

 先程私達は、街で破落戸に捕まって連れていかれそうになっていたところをこの人に助けてもらったんだ。


(助けてもらったんだから、体を要求されても仕方ないよね。でもベルちゃんは、私が守らないと、私だけで満足してもらわないと)


「あの。はじめてなのでやさしくしていただけると助かります」


 もじもじしながらそう言ってメグミは上着を脱いで下着姿になる。

 メグミは同年代と比べると発育がよく肉つきがしっかりしていていい体をしていると自覚している。


「話がはやくて助かるよ」


 そう言ったマルクトはメグミのほうに、手を伸ばしてくる。

 メグミは目をつむってそれを待つ。

 次の瞬間、体が暖かく包まれたような感じがして、


「はい治療終了。次はこっちの子だね」


「……え?」


 男は同じように、手をベルちゃんの方にかざして、治療を行っているらしくベルの身体がオレンジ色の光に包まれていた。

 自分の体を確認してみると、破落戸につけられた、傷が癒えていた。

 てっきり、手をだしてくるとばかり思っていたので、勘違いだとわかったとたん、顔が熱くなってしまった。


「……あれ? ここどこ?」


 ベルが目を覚まして体をおこす。

 先程殴られた場所ではなく、見知らぬ場所にいるのが不安なのか、しきりに周りを確認していた。

 その姿に胸をなでおろし、メグミは彼女に抱きついて、無事が嬉しくて泣いていた。




 ベルは目の前の状況がよくわからなかった。

 見知らぬ天井、見知らぬ男、メグミは半裸で泣きながら抱きついてくるし、まさか、こいつがあいつらの主で、私達はこいつに引き渡されたのか?


 ベルは泣いているメグミをひきはがして、メグミの前に手を広げて、男から守るように立つ。


「メグミに手を出さないで」

 

 と目の前の椅子に腰掛ける男に向かって言い放つ。

 男が、何かを言おうと口を開いた。

 ベルはその言葉に警戒する。


「……二人とも、まず服着たら?」


 男の言葉に、自分の状態を確認すると、驚くべきことに、下着姿だったのだ。

(マルクトが治療前に脱がせてました)

 二人は羞恥で顔が真っ赤になり、慌てて、上着を着た。

 


「では改めまして、俺はマルクト・リーパーって言います。訳あってこの街に来た旅人です」


 自己紹介しているマルクトの顔には小さい紅葉がついていた。


「私はベルフェゴールって言います。さっきは、助けてくれたうえ、治療までしてもらったのにごめんなさい。あの大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫。勝手に服脱がせた俺の方が悪いよね。ごめんね」


「私はメグミって言います。先程は助けていただき、誠にありがとうございました」


「いや、俺はお礼をされる資格はないんだ」


 その言葉に首を傾げるベルとメグミに対して、マルクトは頭を下げた。


「すまなかった。俺は、君が魔物だと気付いて、助けに入るのを躊躇してしまった。この躊躇のせいで、君たちが傷つくと知りながら。本当にすまなかった」


 マルクトの謝罪を受けてベルフェゴールは、魔物だからと人間たちから差別的な目を向けられていたことを思い出した。


「いいよ。事実なんだし。助ける必要なんか普通ないもんね」


 落ち込んだ表情でこちらを見てくるベルフェゴールにマルクトは心が傷んだ。


「だが、友達を助けようと、抵抗していた姿を見て俺は、君たちを助けるべきだと思ったんだ。二人が今無事なのは、ベルフェゴール。君の行動が俺の心を動かしたからだ」


 マルクトの言葉に照れたように、笑う少女は年相応の可愛さがあった。


「お兄さんありがとう。お兄さんももう友達なんだよ。困った時はベルが助けてあげる」


「ふふっ。ありがとうベルフェゴール」


「ベルでいいよ」


「分かったよベル。これからは助けて欲しい時は俺を呼びな。俺も友達を助けよう」


 そして俺は、二人と別れた。

 送って行くと言うと、


「大丈夫です。すぐ近くですので」


 と顔を真っ赤にしてメグミは断り、


「私は飛んで帰るから大丈夫」


 とベルも言うので、さっき買ったリンゴを二人に一個ずつ与えて宿の前で別れたのだった。

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