第1章 魔王との出会い編

第2話 魔王少女1

 身を焦がすような日照りの下、黒いローブを羽織った男が広い荒野を一人で歩いていた。

 彼が持っているのは長旅用の大荷物だけだった。

 馬等の動物を引き連れている訳でもなく、おそらくたった一人でその荷物を担いでこの荒野を渡っていたことが見てとれた。

 ローブの男は、荒野を抜けた先に一つの村を見つけた。

 男のその目に光が宿り、一週間ぶりの村に気分が高揚し、その村まで走っていく。


 村についた男は羽織っていたローブのフードをとり、その青い髪を日にさらした。


 彼の名前はマルクト・リーパー、魔法使いの中でマルクトの名を知らぬ者はいないといわれる程の実力者である。

 そんな彼がこんなところにいるのは、先日失った己の愛弟子のためを思っての行動であった。




 あの朝から三ヶ月がたった。

 マルクトは今、魔王城から一番近い村スクルドに来ている。


 魔王討伐を掲げて、いざ出発! となるところまでは良かったんだけど、遠すぎだろ魔王城!

 ここまで二ヶ月徒歩だぞ!! ふざけんな。

 馬寄越せ!

 牛寄越せ!

 なんかペガサス的なやつ寄越せ!

 ……ていうかなんで、俺って動物に嫌われてんだろ。

 俺は昔から動物がなついてくれた試しがない。

 正直なところ、まさか嫌われているせいでここまで、大変な思いをするとは思っていなかった。

 まぁいいや。

 そんな過ぎたことより、今は腹ごしらえだ。

 俺は周りを見渡すと果物屋を見つけた。


「おーい、おっちゃんリンゴくれ」


「おうよ。一個銅貨一枚だ」


「十個くれ。ほい。銅貨十枚」


「まいど! ん? あんちゃん見かけない顔だな。旅人か?」


「まぁね」


「そうかい。なら北の方にでかい城があるが、そこには向かわん方がいい。あそこにゃ魔王が住んでやがる。とんでもねぇ場所だよ。」


「忠告どうも。まぁ、気を付けるわ」


 そういって俺は、おっちゃんに手を振った。

(まぁ、俺の行き先はそのとんでもねぇ場所なんだけどな)




 リンゴをかじりながら通りを歩いていると、なんだか道の奥の方が騒がしかった。

 なんだか気になったのでそちらの方に向かうと人だかりができていた。

 その中心では、四人の柄の悪い男たちが、金髪の少女を蹴ったり殴ったりしている。

 その奥には、疼くまって倒れている黒髪の女の子がいた。

 近くのおじさんに何があったのか尋ねてみると


「あの倒れている黒髪の娘が、あの四人に絡まれてな。それに抵抗した黒髪の娘を殴ったりし始めたんだよ。そこにあの金髪の娘が、連中につめよったんだよ。そしたら、その女の子まで殴りだすもんだから」


「助けないのか?」


「正直関わりたくないねぇ。あの殴ってる連中、ここらで有名な破落戸だ。あの娘たちには悪いが関わらない方が身のためだ」 


 なるほど。どうりで誰も助けないわけだ。

 先ほどから黒髪の娘が泣きじゃくる声で

 

「助けて、お願いだからやめて」


と聞こえる。

 だが、俺も、助けるべきか迷うな。

 あの金髪の少女、彼女は結構上位の魔物だな。 

 魔力を上手く抑え込めてはいるが、見る人が見ればわかる。

 本来魔物はこの世界にはあまり存在していなかった。

 しかし、三十年前にやってきた魔王と共に魔界から大量の魔物がわいてきたのだ。

 特に魔人という存在は厄介で、普通の人間よりも多くの魔力を内蔵しており、魔法の威力が強い。

 

 そんな魔人である彼女がなぜやられっぱなしなのだろうか?

 少女が本気を出せば、四人の方が危険だろう。

 どっちにしたって早くやめさせるべきだな。

 そう思い、止めようとしたのだが、四人は満足したのか、金髪の少女に殴るのをやめて、黒髪の娘をつれていこうとする。

 黒髪の娘は抵抗しようとするが、勝てるはずがなかった。黒髪の娘が連れ去られそうになった時だった。


「やめて」


 金髪の少女が傷ついた体で、起き上がり、四人に向かって


「やめてよ。メグミをつれてかないで。

 私のたった一人の大切な友達を連れてかないでよー」


 そう言った彼女の身体からとてつもない量の魔力が溢れだした。

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