弟子は魔王
鉄火市
序章 始まり
第1話 始まりの朝
禍々しい雰囲気を醸し出す部屋の前に、黒いローブを羽織った男が一人立っていた。
男はその部屋の扉の前に立つと顔を隠していたフードをとった。
男の見た目は、透き通るような青い髪で落ち着いた大人の印象をうえつける爽やかな短い髪型だった。そして、その下から覗く金色の眼は鋭く扉を睨み続けている。
数百匹の襲いかかってくる魔族を退け、遂にたどり着いた魔王の部屋。
この場所で間違いない。
この部屋に、この扉の先に彼女を殺したやつがいるんだ。
あの、残忍で狡猾だとうたわれた魔界を統べる魔の王がいるんだ。
例え、刺し違えることになったとしても、彼女の仇は俺がとる。
青年はそう思い、魔王と自分の間に立ち塞がる五メートルは越えているであろう扉に手をかけ開き始める。
扉はゆっくりと開いていく。
そして扉が開ききった時、そこにいたのは、金髪碧眼の美少女だった。
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この世界は天界、人間界、魔界の三つがあり、人々の住んでいる人間界は大きな大陸になっており、大小様々な国がある。
そんな人間界に魔界の軍勢が攻めこんできた。
魔王の率いる軍勢は当時世界最大の軍事国家グルニカを滅ぼした。
人々は魔王軍の恐ろしさに震え、いつ自分たちの国に攻めこんで来るのか不安になっていた。
しかし、魔王軍はグルニカの人間たちを支配している程度で特に人々を滅ぼそうとはしていない。
だが、人間たちにとって魔王というのは放っておけるようなものではない。
その後、幾人もの勇者が魔王討伐に向かうものの魔王に返り討ちになっている。
魔王軍襲来から三十年、未だ魔王を討伐できたものはいない。
これはひょんなことから魔王に魔法を教えることになった偉大な魔法使いマルクト・リーパーの物語である。
『弟子は魔王』
朝の陽の光は、俺の眠気を覚ます素晴らしい自然の力で、一日の始まりに必要不可欠なものであるといっても過言ではない。
といっても、今日のように雨が降っているのも特筆するほどのものではないのだが、まぁ、俺の新しい人生の始まりは大雨の降る朝であった。
朝食をとっている俺のもとに通信魔法による通信が届いた。
相手はどうやら、現在魔王討伐に向かっている弟子のシズカからのようで、今まで連絡を全く寄越さなかった癖に、今さら連絡してきやがって、とりあえず、俺は通信を受けとることにした。
「シズカか? どうした? 何かあったのか?」
「先生久しぶりだね。元気してる?」
「あぁ一応仕事も一段落ついて久しぶりにぐっすり寝たところだ」
「私ね、先生がちゃんとした食事してるか心配だな」
「はあ?なんだよ急に」
先生より有名になるまで連絡しないとか、いっちょまえのことを言ってた癖に、やっと連絡寄越したと思ったら、食事の心配って、もっと他に言うことねぇのかよ。
「あと本の読みすぎで、夜遅くまで起きてるんじゃないかとか、めんどくさいとか言って国からの仕事を断ってないかとか」
「いや、何でシズカにそんな心配されなきゃいけねぇんだよ」
「あと先生、意地張って国王と喧嘩になって、ないかとか」
なんだか、彼女の様子がおかしいな? やけに言葉が中断されるし、息も荒い。明らかに普段の彼女とは違う。まさか、泣いているのか?
「おいどうした。何があった。場所はどこなんだ。教えろ。今すぐ飛んでやるから」
「先生…駄目だよ。先生でもあれは、危険すぎる。だから私がやらなきゃ駄目なんだ。」
その言葉で気付いてしまった。
彼女の決心は揺るがない。
彼女の居場所はおそらく魔王城、きっと魔王と戦って負けそうなのだろう。
今すぐ助太刀に行きたいのだが、俺は魔王城の位置を知らない。
転移魔法を発動するためには、彼女が見ている情報を直接送って貰わねばならない。
なのに、彼女はなぜか送りたがらない。
何故? 俺に連絡したのは、助けを求めるためじゃないのか?
そこで最初の言葉が俺の心配をする発言だったことを思いだし、ふと思ってしまった。
彼女は死ぬ気なのではないかと。
「待て、はやまるな。今すぐ助けにいってやるから、俺がお前を助けてやるから、今すぐその場所を教えてくれ」
「先生……先生はすごい人だよ。私にとって憧れで、自慢の先生で、たった一人の大切な家族のような人」
そう言った彼女の声は震えており、泣いている様子が伝わってくる。
まずい、このままじゃ失ってしまう。駄目だ。そんなのは許されない。俺に出来ることは、何かないのか。
そんな考えに陥っているとき、彼女は最後の言葉を告げた。
「バイバイ。私が世界で一番大好きな人。あなたは偉大な魔法使いマルクト・リーパー。あなたの幸せを天から見守っています」
その言葉を最後にシズカとの通信は切れた。
俺は何度も、シズカに通信を送るが繋がらない。
そして十分後、シズカに完全に通信を送れなくなった。
外の雨は男の涙の音をかきけしていく。
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