初めてのお遣い

 誕生日の2週間後に旅に出ることになった。

 今までの旅といえば、馬車で移動するような公式行事ばかりだったので、今回のような身一つで行くような旅は初めてだった。

 旅には色々なものが必要で、道具の選別から詰め方使い方などを理解して、効率よく快適さを維持する技術があるのだけど、僕の姉妹が収納魔術を高度に使いこなせるもので、その点に関してほどほどの技術で問題なかった。

 とはいえ、姉妹の旅装に関してほとんどを一から搔き集める必要があったので、前もって時間をかけて揃えて良かった。デリラが手袋に妙にこだわっていたのが思い出される。

 旅に関連して、僕も収納魔術の初歩を覚えたので一人の時も安心できる要素が増えました。


 旅の目的地である転生者が決まってから、父上に頼まれた要件がさらに積みあがる。あとは、移動経路にある領主への挨拶や観光などの予定が盛り込まれていく。予定通りといかない可能性もあり、各所で調整日を盛り込んである。

 スケジュールの見込みがつき次第、要件のある領主には手紙を書き事前に送付しておいた。これらの調整がなかなか大変で、父上からも良い経験だから頑張ってこいと言われた。母上にも挨拶して、お土産を約束したので何か考えておこう。


「父上、母上、行ってまいります。」

 初めての旅立ちだから、心配してくれているのだろう。見送りしてくれている両親に手を振ってしばらくの別れの挨拶をした。


 旅の旅程は、ガルドペイグ>ボウンナート>ネイフラルタ>ボウンセイドルと円を描くように移動してブランダールへと帰ってくる。平均の移動は3日程度で、調整日込みで各地で3日、合計でほぼ一ヶ月の予定となっている。移動手段は3人とも愛馬で馬車は使わない。

 転生者がいると考えられているのは、ボウンナートとネイフラルタの2ヵ所だ。父上から依頼された用件は主にボウンナートとボウンセイドルになっている。


 まずは最初の目的地であるガルドペイグ子爵領へと向かう。

 ガルドペイグ子爵領までの街道は王都方面のため、比較的整えられていて快適な旅が予想されている。

 実際去年のお披露目時に王都へ向かった時に乗った馬車は、大きな揺れもなく非常に整備されていた印象だ。街道整備に関する取り決めは現状通りで問題ないため、念押しの確認と基本的なやり取りをするのみで重要な用件はあまりない。

 道すがら領内と隣接領をつなぐ街道の状態を確認することも約束していたので、意識しながらの移動を心掛けていた。時折遅れが出ない程度に気になる場所を見つけては、魔術の訓練代わりに補修を行った。

 足場を整えるのと同じ要領だから、宿場街に着く頃にはだいぶ慣れた。一日目はまだブランダール領内であることもあり、何の問題もない快適な旅だった。

「残念、初日は無事で何事もなかったわね。」

「流石に一日目から何事があるとは思ってないよ。」

「ブランダール領内で何事もなくて良かったです。」

 初日の緊張感もあってほっとした気持ちになった。王都に向かう宿場街なので、そこそこの宿を見つけて泊まることにした。

 転生貴族の噂はあまりなくて、ドラゴンスレイヤーの噂が飛び交っていたので、二人にはティアラを着けないようにお願いした。まさか街中に本人がいるとは思っていないだろう。この日はグッスリ眠ることができた。


 翌日は王都行の街道からは外れてガルドペイグ子爵領へと向かう街道に入った。街道の整備状態が若干悪くなっているように見えるが、それでも十分に整備されているように思う。

 昼食は街道付近で隙だらけの状態で取っていたら、盗賊が現れた。食べる前から襲い掛かりやすい状態にしておこうという打ち合わせをしていたが、上手く引っかけてしまったようだ。若くて身なりの良い三人組は獲物として美味しそうに見えるが、実はとんでもないハズレでしたということになる。

 捕まえて尋問をしたら、どうも宿場町にいる仲間の情報で張っていたみたいなので、近くの宿場街の衛兵に突き出して早々に旅を再開した。初めて戦った盗賊は弱すぎて相手にならなかった。


 他には特に事件もなしに領内の都まで到着したので、ガルドペイグ子爵へと挨拶に行った。交易と街道関係の情報の連絡書類と手紙を渡して、特段の話もなかったので簡単なお茶会のみで終わった。街でそこそこの宿を確保して宿泊した。

「ここの領主とは特に大きなつながりはないしね。」

「去年の誕生日も僕の日だけで代理が来てたよね。」

「王都に向かう時にこの街には立寄りませんから。」

 この領地に余り思い入れのないのは、三人とも一緒だった。


 翌日は一応休養日を入れておいた。隣接領でもあるし、知っておいた方が良いこともあるかもしれないので、街を散策することになった。近いといっても法律も各領地で異なり、商業的にも異なる点が多くある。それだけに知っているようで知らないことも多いだろう。

 直ぐに分かったのは、海産物の流通量が多く日常的に食べられていることだ。これから行く先のボウンナートが海に面している領地だからだろう。特に大きな産物がある領地ではないが、海側と陸側の両方の交易中継地として栄えていることが分かった。

「加工技術があれば良かったんですけどね。」

 とデリラが言っていたのが印象的だった。

 散策自体はまあまあ楽しかった。


 旅は順調にボウンナート公爵領へと向かう街道へと進む。

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