13歳の誕生日
13歳の誕生日はあっという間に来た。身体もそれなりに成長した。領主経営や自己鍛錬とチーム戦術の訓練など、やることを絞らないといけない状態だった。
そんな忙しい日々に穴を空けたのが僕たちの誕生日である。誕生日が近付いてようやく、時間をその為に空けようという話になった。
この半年間でかなり転生者対策の戦術にも慣れてきた。
最初に対転生者の基本戦術がドラゴンと全く異なるのに驚いた。転生者のほとんどは、何らかの形で魔術か魔力を使った技術を扱う。
このため、魔術障壁の展開と破壊の均衡をいかに崩すかが、戦術の要になるという。展開する障壁の属性に応じて攻撃手段は変わるし、その逆もまた同様だった。
ドラゴンとの戦いは巨大な要塞を攻略するようなもので、城壁の突破が最大の障壁であり、敵将を討ち取れば勝利が確定するようなものだった。
しかし、対転生者の個人戦は一手一手を積み上げていく進行で、お互いの意図を読み合う要素が強い。
展開は早く読み違いは致命的な結果へとつながる。幻術を障壁や攻撃手段に使用することに大きな意味が出てくる。アーティファクトでの底上げや行使できる手段のバリエーション強化も重要だ。
転生者と戦わなければならないことは、それほど多くはないと聞いているが、この戦いの技術をいつか使わなければならい日が来るのだろう。
他にも集団戦についても幾らかの講義と訓練を積んでいる。こっちは集団の把握と集団に埋没しないための技術の割合が多い。集団独特の雰囲気や危険性について、話を聞いても実感しにくいのでその内にゴーレムを多数用意して演習をするかというアイデアがある。
領地経営に関しては父上の補佐をしながら、子爵として小規模な領地経営をしている。全く知らない話でもないが、いざ実践となると分からないことだらけで大変だ。
僕の時間が圧迫されすぎないように姉妹が手伝ってくれている。図らずしも父上との会話が増えたのは、嬉しい誤算だったかもしれない。
受けとった剣の銘‐匠 トーマインの作‐を調べて報告したら、思いのほか喜んでくれて匠の話で盛り上がった。
12歳になってから人生が大きく変わってしまった。子供の頃に聞いていた伝承の中だけの存在だった転生貴族が、自分の姉妹だったという衝撃の事実の影響は計り知れない。父上たちと姉妹の会話が一時期おかしくなったけど、今ではだいぶ元のように戻っている。
それにしても伝説のドラゴンスレイヤーに自分がなるとは、しかも12歳という最年少記録とは考えもしなかった。この点に関しては今でも実感はないが、親戚や近隣貴族と会った時の反応で再確認している。ドラゴンの鱗をくれと言われることも多いが、持っているのが姉妹と知ると大抵は黙るので、最初からそう話すことにしている。
そんな激動の12歳もそろそろ終わりを告げる。
13歳の朝、目を覚ますとベッドの中に姉妹がいた。当然のように右手にエルダ姉さんと左手に妹のデリラだ。僕が寝ぼけながら混乱していると左右から頬にキスをされる。その様子を見て二人はまた笑うのだ。
仲良くやっているということは、以前から計画していたのだろう。最初から出鼻を挫かれた僕は、お返しのキスを頬にして、着替えを手伝ってもらう。
宴までに遠乗りすることになっている。たぶん、これからの話もするつもりなんだろう。蛇足だが、姉妹の着替えは、それぞれの自室でやっているのでまだ大丈夫だ。
厩舎に入り愛馬たちに挨拶をする。軽くブラッシングをして鞍を乗せて庭まで引っ張っていく。この子達も随分馴染んできて、僕の乗馬技術も上がってきている。最近は遠乗りができていなかったので楽しみだ。
姉妹が乗馬服に着替えて馬を連れてくると目で合図を送って駆け出していく。エルダ姉さんが僕のプレゼントした手袋を身に着けてくれてるのを見て嬉しくなった。デリラも姉さんの方を見てるのに気付いたが、何もなかったように出発しましょうと言われた。
行先は去年と同じ領内を見晴らせる丘まで。馬で駆けて感じる風が気持ちいい。高い視点で進むたびに変わっていく景色が目を楽しませる。嬉しいことに今日の天気は晴れて完璧だった。時々隊列を変えて、お互いを確認し合うのも楽しい。それぞれに持ち味の違うことが良く分かる。
「去年は落ち着いて見れなかったけど、こうやって見るといい景色ね。」
丘に辿り着くと開口一番、エルダ姉さんが言った。確かに去年はそれどころではなかった。僕にとっても去年は複雑な思い出だ。
「景色だけでも丘を見つけたデリラには感謝しないとね。」
姉さんは軽く、そうねとだけ言う。
「アレン兄さん、食事の準備ができましたよ。」
デリラが手招きしながら声を掛ける。
食事は去年より豪華だった。主に運べる容量が去年と異なるためだ。去年は使わなかった収納魔術を使って、一週間以上前から準備しては保存していたらしい。
じっくり煮込んだスープに始まり、柔らかいパンで作った色々な種類のサンドイッチ(肉・野菜・卵・フルーツなどで6種)、チーズとナッツとドライフルーツの盛り合わせ、デリラの生まれ年のワインという構成だった。
サンドイッチなのは去年の思い出もあるし、この方が雰囲気が出るかららしい。食器も旅先で使いやすい木製の物を使って何時もとは違う雰囲気を演出していた。実際、とても美味しく楽しい穏やかな時間を過ごせた。
デリラが料理を頻繁にするようになったのは、転生貴族として覚醒してからなので、それだけは文句なしに嬉しい出来事だった。
食後に甘めの香りに少しスパイシーな風味のハーブティーを淹れて、デザートにチェリーをたっぷり敷き詰めて使い、クリームには風味と爽やかさ出るようにヨーグルトを混ぜ込んでいるタルトが準備されていた。デザートの時間を楽しみながら、本題が切り出される。
「そろそろ、転生者に会いに行ってもいいかと思うの。」
エルダ姉さんが、口元にタルト生地のクズを付けたまま話始める。僕が拭ってあげると恥ずかしげに笑う。
「かなり力を取り戻せましたし、アレン兄さんも基本が身についてきたので、安全な既知の人物との接触を始めるのは賛成します。」
「勿論、相手は慎重に選ぶ必要があるわ。とりあえず、お互いに1名ずつ選定して、近い内に会いに行きましょう。誕生日だし良い区切りね。」
「素通りするのもどうかと思うし、ついでに旅先の諸侯にも挨拶に行くのはどうかな。」
「そうですね。良いアイデアだと思います。ちょっとした旅行と考えて、季節に一度くらい企画するのも良いですね。」
「領政を手放すから父上には悪いけど、その代わりに名代としての外交くらいは多少やろうと思う。」
「その際に各地の魔獣も適当に間引いておきましょうか。素材収集に加えて、各領地への恩も売れるでしょう。」
おやおやっ、ひょっとして旅行プランモードに入ってしまったのではないだろうか。あっデリラの口元にクリームが付いている、拭ってあげよう。
晩に催された13歳の誕生日の宴は、例年と同じように3人共同で開催され、平穏で楽しい宴になった。
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