転生貴族と平民
転生しなければ叶わぬほどの願いと聞いて、僕は一歩踏み込んで話をしようと思った。
「エルダ姉さんとデリラの二人にとってそれは何だったの?」
「前から話に出ているように私にとっては人を導くこと。才能と能力を引き出して、どこまでも進んでいくこと。
かつては私も導かれて、その経験を還元するのが私の使命となったの。」
エルダ姉さんは、ふと遠い昔を懐かしむかのように思いを馳せた表情をする。エルダ姉さんが導かれる側だったのは想像できない。
でも、そういう時期があってもおかしくないのは頭ではわかる。
「以前からのお話のように共に歩むことです。対等のパートナーとして歩み、一人一人が自分で選んだ未来を選びとっていくことが望みなのです。
私もかつてそうでした。」
デリラは過去の自分を自嘲するかのように微笑む。デリラには支えてもらってばかりだが、支えられる側だったということだった。
思い出を慈しんでいる表情は幾分かの複雑さがあり、二人にとって優しいばかりではないが大事な思い出なんだろう。
「ついでに言えば導きの派閥の方が成果が出ていているのは明白な事実だから、アレンもこっちに来なさい。」
憤慨してデリラが鼻息荒く対抗する。
「活動の質でいうなら介添えの派閥の方が優秀です。より多様性のある未来をつかみ取っています。
一面的な成果に騙されないで、こちらを選ぶべきですよ。アレン兄さん」
二人が視線を合わせて火花を散らし始めた。譲れないことがあるのは仕方ないかもしれないけど、天空闘技場を再開させないでくれ。
「周辺諸国の貴族にも導きの派閥の所属や影響を受けている者は多いのよ。
だから、三ヶ国で爵位を保持しているという成果につながる。」
「数を誇り成果主義に陥るのが導きの派閥の度し難いところですね。
介添えの派閥は決して取り残すような真似は致しません。」
周辺諸国で宮廷への影響力がある背景というか理由が大体分かったけど、この話題を続けるのは危険な匂いしかしない。
緊急で軌道修正しなければ身がもたないから、無理やりにでも介入しないと。
「まあまあ、転生者の話に戻ろうよ。
それで他の転生者にはどんな人がいるの?知らない僕にも分かるように教えてよ。」
「転生貴族の例で誤解されているけど、意外と多いのは研究者タイプね。
自分の研究テーマの追求と行く末を確認したい願望の持ち主が進む道よ。」
「そうですね。研究に限らず求道者は確かに多いですね。
他は世間では夢想家と評価されかねない夢を追う人達でしょうか。」
「ただし、時代に左右される願望はあまり転生者向きじゃないのよねえ。」
「時流や状況に流されると転生者になっても次の転生を迎えられない可能性は高いですね。」
転生者になる動機の強さと転生者でい続けることが違うということか。
「具体的には、どういうこと。」
「例えば物凄く恨んで転生すると成人した時に相手はもう寿命で死んでたりするとかありがちなのよ。
一族根絶やしくらい考えてたら、まだ大丈夫なんだけど。」
エルダ姉さんは、ぼそりと私はそういう奴を選ばないけどねと付け加える。
「他にも最強の騎士になるという願望の方は、一度目の転生で転生者以外は相手にならなくなるので、次の転生のモチベーションが続かなかったりします。
何せ覚醒してから一生の間、相対出来るような敵がいない可能性が高いです。戦闘向きで好んで戦いに応じる転生者もそうそういないですから、順番にドラゴンを狩っていく位が関の山でしょうか。」
デリラが小さく、ドラゴン戦の戦術を誤り人間の限界を感じて折れた人がいました。
「そういった諸々の内容を含めて転生者の限界と呼ばれています。
一つは今のお話のようにモチベーションが切れて転生できなくなること。
もう一つの限界がありまして、5回程度の転生で成長の限界を感じること。」
「これは重要なことよ。転生者の成長は常人を超えるが限界はある。
この限界を感じると大抵は転生を選ばなくなる。どちらにせよ、限界を感じやすい願望は転生者向きじゃない。
十分理解しておかないといけない点ね。」
転生者にも限界があるという話は、想像もしていなかった意外な事実だった。
「なるほど。確かに普通の人生のスケールを超えるから、時代を超えられるくらいの願望が必要なわけだ。
それでも辿り着ける限界があるってことか。」
「そういう相手を見た経験があれば、秘儀を授ける相手を選ぶ前に色々考えるようになるのよ。」
「ですが、中には想像を超える厄介な結果を出す相手もいます。」
僕は話が本題に入ってきたのを感じ、唾を飲み込み深く呼吸をする。心を落ち着かせてから切り出した。
「つまり、危険な願望の転生者もいるってことだね。」
「そうとも言えるけど、それだけではないのよ。
願望を聞いただけでは、危険度の判断はできない相手が多いということ。」
「分かりやすい危険な思想では、普通は転生者の候補として選ばないのですが、危険を承知で又は狙って選ぶ指導者が存在したり、自力で転生者となる存在も稀にいます。
例外の可能性を除いたとしても、危険性に気付かずに崖に向かって集団で走っていくような結果をもたらすことがあるのです。」
二人の表情は明らかに冴えない。たぶん、転生者による大きな被害に直面したことがあるのだろう。
僕の眉間にも幾分か力が入っていく。
「私の転生貴族としての活動にそういった存在がいないか確認するというのがあるわ。」
「私の方も同じような活動をしていました。
しかし、確認する相手のリストは異なっていたのではないでしょうか。」
「その活動に僕も参加するって考えてたらいいんだよね。」
二人ともが頷く。表情はいつになく真剣だ。
「でも、その前に調子を戻さないといけない。
だって、下手すれば転生者同士の戦いになるのよ。ドラゴン倒して喜んでいるのとはわけが違うわ。」
なんか酷くない。世間的には英雄扱いなんだよね、僕。
「そういうわけで対転生者を睨んだ集団戦の訓練を提案いたします。」
「チームで戦うノウハウに関しては、まだ経験がないからレベル上げと共に戦術を磨くことも必要だね。」
「並の転生者相手なら今でも3人揃ってれば問題はないのけど、状況を選べるとは限らないから一対一でも耐えられる実力が理想なのよ。
しばらくはみっちりとレベル上げと行きましょう。」
「その間にも色々な転生者の話をいたします。過去の良い話も悲劇的な話も戦いに関しても。そうして少しづつお互いを知って高め合いましょう。」
二人がそれぞれの思いで、これからを楽しそうに思い描いているのが分かる。
僕は領地経営の補助と教育の比重が上がってきているから、大変な未来なだという思いがある。それでも二人といることに僕は幸福を感じていた。
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