03 転生貴族の務め

ドラゴンの後に

 お披露目が終わって脱力した日常が戻ってきた。

 とはいえ今まで通りの訓練に加えて、新しいアーティファクトのドラゴンベルトやドラゴンナイフに関しての使い方を覚える訓練はしていた。強さは一朝一夕では得られないし、道具は使いこなさないと結果が得られないのだ。

 ちなみにカップやディッシュは姉妹の秘蔵品をその日に合わせて使うことが暗黙の了解になっている。


 今日はデリラの焼いたアップルバイだ。甘酸っぱく煮たリンゴに少しのシナモン、サクサクのパイに包まれ、上にはアプリコットジャムが塗られて美味しそうな照りをしている。

 飲み物には王室から貰った紅茶で香りよりも深い色味と味わいを重視した品種で、アップルバイの相手として申し分ない。


「ねえ、ちょっと気になったんだけど。ドラゴンが居なくなった砂漠や山は元に戻っていくのかな。」

 ふと手に取ったドラゴン素材のアーティファクトを見て考えた。

「あーある意味ではね。」

 エルダ姉さんが何とも歯切れの悪い返事を返す。

「そのうち元通りにドラゴンが居座る場所になるわ。」

「えっどういうこと?」

 元に戻るという内容が、妙な意味で違う返事に驚く。

「アレン兄さん。もう少し説明しますね。ドラゴンを討伐しても時を経て、いつの間にか同じようなドラゴンが住むようになるのです。」

デリラが補足するが、まだ良く分からない。

「何処かからか別のドラゴンが来るってことかな?」

「うーん、調査をしたことはないので多分違うと思うのですが、そこまでは分からないのです。

 ドラゴン達は自然現象のような存在で再発生するという考えがあります。そうであれば通常の意味で生物と言い難いかもしれません。」

「ドラゴンが局所的な異界を生成するのか、それとも局所的な異界がドラゴンを生み出すのかって議論があったわね。

 あれは精霊とかと同じような存在だと思うのよね。関連話の面白い研究だと局所的な気象条件を生かして、植物を育てたりするのを考えていた人もいたわね。」

 超常存在のレベルが想像を超えていた。あれを自然現象とするなら、随分はた迷惑な自然現象だな。


 基本的に籠っているものの、時折周辺に被害が出ることもあると聞いたことがある。

「迷惑な化け物か、便利な自然現象か、貴重な資源か良く分からない奴だね。」

「ドラゴンは年を経るごとに強力になりますから、周辺への影響もその分大きくなります。討伐後にかなり弱体化しますので、定期的な討伐が推奨されています。」

 英雄といえばドラゴンスレイヤーってイメージはあるし、ドラゴンスレイヤーの伝説が各地の各時代に色々ある理由はその辺りにあるのだろう。

「ああ、それでドラゴンの居場所を知っていたんだ。大体どのくらい生きているのかも知ってたってこと?」

 ブルードラゴンの方が格上なのは、最初から知ってたということなんだろう。

「まあね。ブルードラゴンの方が長く生きていたこと自体は知ってたけど、エレメンタルドラゴンは予想通りにはいかないわね。

 それを討ち取ったんだから、中々素晴らしい成果だったわ。流石、私の見込んだアレンね。」

 全く悪びれた様子もなく、エルダ姉さんは大体知ってたことを認める。褒められて嬉しい気持ちもあるが、なんかこのまま話を続けると次のドラゴンを狩りに行く話になりそうだから話題を変えよう。


 余談だけど、父上と母上にもドラゴン素材の装飾品を贈ったら、随分喜んでもらえた。討伐の話をした時にエルダ姉さんとデリラが幻術で再現するものだから、母上は卒倒しそうな顔をしてた。

 その時の話では、レッドとかブルーとかのドラゴンはエレメンタルドラゴン又は真のドラゴンと呼ばれる種で、世間的には大型トカゲに近い亜竜をドラゴンと呼ぶことが多いそうだ。

 騙されたというか、転生貴族との価値観のギャップを感じる。


「前から聞きたかったことがあるんだけど、転生貴族について教えてよ。」

 ドラゴンに関しては単純な興味だったが、こっちは知っておかないといけない話だ。

「転生貴族というよりも転生者について本質的な説明が必要ね。」

 何処から話を切り出すか考える素振りをして、エルダ姉さんは話を続ける。

「転生者の中には単に記憶を部分的に引き継ぐ者から、私達のようにほぼ完全な記憶と幾分かの能力を引き継ぐレベルの者がいるのよ。

 転生貴族は後者。そうでなければ貴族に封じるほど、転生者を恐れる必要はないでしょう。

 転生者の中で転生貴族になるものは、そういないわ。そのあたりは実力というより目的の問題ね。」

 転生貴族が人の中で最強と恐れられる理由の一つが、能力を引き継ぐことができるため、成人時には通常の限界を凌駕しているからなのだろう。

「転生後は成長することがあるの?」

「転生前の力を全て引き継ぐことはできないの。けれど、成長によってかつての力を取り戻し、やがては超えて行くことができる。」

 現状でも強力な存在である姉妹が、まだ本調子ですらないということに驚愕しつつ、さらにその先があるということだ。これを恐れないわけがない。国王達の態度も納得がいく。


「転生の根幹である転生の秘儀は、遥か古代の英雄から引き継がれたとの伝承があります。その秘儀を受け継ぐ転生者から、さらに受け継いだ者だけが通常は転生者となります。

 しかし、稀に不完全ながら自身の才能のみで転生者となるものもいます。」

 デリラの話を聞いていると転生者というのは、世間で目立たないだけで、もっといるのではないだろうか。

 しかし、転生者の話などそうは聞かない。何故だ。

「もっと世の中には転生者がいても良い筈なのに話を聞かないということは、秘儀を引き継ぐだけでは完全な転生者になれない。

 なにか特殊な才能が必要ということかな。」

「そう、ある意味で才能が重要です。

 転生するためには強い意志が必要なのです。一代で叶えることができないほどの思いに身を焦がす。それ程の強い思いが必要なのです。」

 僕はまだ目の前の二人しか転生者について知らないが、転生者の願いによっては危険な存在が世の中にいるのかもしれない。そうした転生者に出会った時のことを考える必要はあるだろう。

 何故なら僕たち三人の情報は近隣諸国に知れ渡ってしまったのだから。

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