ドラゴン狩りの訓練 教えてエルダせんせー

 エルダ姉さんの訓練場は馬でひとっ走りした所にある、岩が転がる丘を加工した場所になった。因みに加工したのは姉さんだ。

「それじゃ最初に基礎訓練として、剣のことからね。とりあえず抜いて。」

 姉さんが剣を抜いて前に突き出し刃を上にして構えると僕もそれに倣って構える。

「刃の上すれすれに沿って魔力を展開して動かす。それが鋭刃化の基礎よ。

 魔力の動かし方のパターンは幾つかあるけど、まずは刃の上にキッチリ展開させること動かしてブレないことを訓練しなさい。

 短時間でいいから、ゆっくり丁寧に朝昼晩の三回はやること。」

「はい。」

 と返事をしてやってみるとこれが中々難しい。刃の上に沿って細く長く展開するつもりがヨレるし、太さが安定しない。刃先を睨みながらやっていると止められた。

「はい、止めて。集中力が続かなくなってきているから、これくらいにしましょう。」

 思った以上に集中して時間が経っていたみたいだ。


「アレンの剣には強度上昇やバランスの補正に軽度損傷の修復が掛けられているの。

 他にもこの鋭刃化の補助と何回かの発動ができるようになっているのよ。

 でも、基礎ができていればより高い精度で自在に扱えるから、この訓練が重要なわけ。今は剣を眠らせている状態だから機能していないけどね。」

 僕の誕生日に言われた台詞の意味がようやく明かされた。

「エルダ姉さん。やっぱり、剣に何か仕込んでたんだね。」

 姉さんはニッコリ笑って堂々と言う。

「そうよ、誕生日に間に合わせるのは大変だったんだから。

 さて、次の訓練は私が止めるまでこの丘を走りなさい。その際に使える魔術を教えるわ。」


 まず足を踏み出す面を不整地から整地へと変える技法。これは速度が命で踏み出す前の判断ができていないと間に合わない。

 次に踏み出す面を突出させて階段のように使う技法。先ほどの延長だが、更に単純難度が上がるのは言うまでもない。

 氷結解除は単純に火炎攻撃を地面にするだけなのだけど、スポット又は、ある程度の範囲を対象とするかの使い分けが必要で、対象が広すぎると効果のわりに消耗が激しいことになる。

 最後に風を足場にするのは相当に高度な制御が必要な技法だ。風の圧とそれを蹴る力関係で、次の一歩で進む先が変わってしまうため、身体も魔術も完全に制御できていないと次に行く場所がブレてしまう。戦闘中ならバランスを崩すだけで、隙だらけの状態になってしまうかもしれないリスクがある。


 一連の技法を訓練した後で実践することになり、岩や石が転がっている最悪の足場の丘を駆け回るだろうと思ったけど、やっぱりだ。

 暫く走って休憩した後に演武をしてから姉さんと剣を合わせた。

「どう、足場が悪いと実力を発揮できないでしょう。足場が悪くても対応できる体の動きと魔術の使い方、常に周囲を把握することに慣れなさい。

 動きを考え直して復習したら終わりにしましょう。」

 長時間というわけでもないのに身体がガタガタになった。魔術回復によって訓練を継続しても結果が得られにくいらしいので、回復後に動きのイメージを作り直して、足場の制限で崩れないように動きを組み立てなおしていく。

「それじゃ、間に武器と身体の加速に関して話すわね。

 衝破と呼ばれるこの魔術技法は瞬間的な身体強化と外から武器を後押しする魔力や風、それから空間の制御まで含めた総合的なもので意外と複雑な構成をしているの。

 定型術式を体験してから魔術を解析すると比較的容易に身につくわ。」

「鋭刃化と同じように訓練すればいいんだよね。」

「これも剣に魔術を付与してあるから、大体同じように訓練できるわ。

 むしろ気を付けないといけないのは使うタイミングで、発動すると無理やりな出力が発生するから身体を痛めたり、武器を損傷する原因になりやすいのよ。

 まあ、安全な状態で日に何度か発動して使い慣れるしかないかしら。」

 この後で試したら、独楽のようにクルクル回ってしまった。完全に力に振り回された。

「あとは、これ。」

 とエルダ姉さんが魔術を発動すると巨大なドラゴンの幻影が現れる。間近で見ると圧倒的威圧感に恐怖が沸き起こり、どうやって相対していいのか思考が止まる。

「そう、巨大なだけで恐怖が沸き上がり、動きのイメージが掴めなくなるのよ。

 これも慣らしていく。その次にこれを使って演習をして戦術を考えなさい。」

 本能的に近い恐怖の克服か。中々に難しい要求だけど、やるしかないんだよね。


 初日はそれだけでクタクタだったけど、だんだん慣れてきて四日目には演習をすることになった。

 ドラゴンへの恐怖心はかなり克服したが、まだ反射的な反応が残るレベルだ。この日も通常メニューの鋭刃化と走り込みをして、演武と手合から衝破の試し打ち、その後で始まる模擬戦である。

 一旦丘を下ってからドラゴンの幻影を出現させる。流石に距離を開けると巨大さ故の恐怖はないが、逆に自発的に近付いていく別種の恐怖はある。

 踏みとどまるのと踏み込むのとはやはり違いがあるのだ。


 アレンは走り出しスタートを切ると第一関門となるブレスの兆候に気付いて、障壁を展開する。ブレスの冷気が障壁に流されていく。

 撃ち下しの状況では高所側の視界が広いのもあって二回目のブレスが吐き出されるが、これも問題なく障壁で防ぐ。足場の悪さも苦になっていない。

 丘を駆け上がるといよいよドラゴンとの直接対決が始まる。近付く毎に恐怖心がせりあがってくるが、それを抑え込みながら足を踏み出す。

 爪による攻撃は間合いを見誤り掠めてしまう。実践なら致命打といっていいだろう。

 何とか踏みとどまっても急所へ近付くすべが見つからずに結局蹂躙されてしまった。

 初回は全くの惨敗であった。


「ブレスに関しては幻影よりも本番の方が、魔力の流れや様々な予兆で見切りやすいから、この訓練で対応できれば問題ないわね。

 恐怖や不慣れによる硬直は、今後どんどん良くなっていくから気にしないで。

 今回一番悪い点は、接近以外のことが全く考えられていなかったこと。白兵に入ってからの場当たり的な動きで、ミスを積み重ねていることよ。

 その場の閃きは否定しないけど、今の時点での失敗というのは負けることではなくて、予定通りの行動ができなかったことなの。

 戦術に関するイメージをもっと明確にしなさい。」

 完全にエルダ姉さんの言うとおりだった。接近した後の白兵戦に関して対人戦の技術しかないくせに場当たり的な考えしかなかった。

 訓練はここからが本番なんだろう。基礎や訓練での底上げも巨大生物と戦う戦略もここからだ。

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