ドラゴン対策会議

「それじゃあ、レッドドラゴン戦のおさらいから始めましょう。」


 今日はブランデーに漬け込んだドライフルーツをたっぷり混ぜ込んだパウンドケーキが用意されている。横でデリラがカップに紅茶を注いでいる。

 覚醒してからこっち、デリラは僕の周辺ではメイドがするようなことを進んでするようになった。そんな変化にもだいぶ慣れてきたなぁ。


「まず基本的な作戦として私が前衛で致命打を与える役目、デリラが後衛でそれをサポートする役目を担当。何故この作戦になったか分かる?」

「たぶん、遠距離から致命打を与えるのが難しいから。」

「他には?」

「デリラが後衛向きだったから。」

「ほんとは前衛もできるから不正解ね。」

「役割分担した方が効率的だった?」

「そうでもあるけど、本質じゃないわ。」

「じゃあ、僕が狩りをする時の手本を見せたかったの?」

「そうよ。ちゃんと手本見せる気で作戦組んだのよ。出来るだけ、綺麗な素材を回収したいのもあったんだけどね。」

 後半は台無し感があるけど、少し意外だが釈然とする話でもある。


「アレンが戦う時でも白兵戦に持ち込むことが、確実な攻撃力が望める白兵での決着がいいでしょうね。

 そのための課題として遠中距離のドラゴンブレスへの対策。移動と足場への対処。白兵戦での回避手段。急所への攻撃手段。最後に止めを刺せるだけの攻撃力。こんなところかしら。」

 なるほど、色々な課題があるのは分かった。デリラが次の話題を引き継ぐ。

「初めにドラゴンブレスの対策ですが、接敵までに最低一回は凌ぐ必要があります。場合によっては複数回です。範囲を巻き込むドラゴンブレスは特殊な手段以外では回避できないので、障壁を作るのが基本になります。

 今回のブルードラゴンの凍てつく吐息はかなり回避困難です。ブレスから身を守る際の障壁は積層したものが効果的で、一層毎にブレスが流されて、自分には当たらないようにする構造です。

 相殺したり完全に打ち消して防ぐ場合には使えないので、集団戦向きではありません。ちなみに一撃が重い場合などは複数の特性の障壁を複合することが望ましいです。」

 デリラが展開していた障壁はかなり高度で複雑な代物だった。


「この間の積層障壁の魔術を直ぐに習得するのは、難しいんじゃないかな。」

「そうですね。お披露目までに同じ精度で展開するのは難しいと思います。

 ですが、そこでアレン兄さんの盾です。盾に予め障壁を付与して、魔術で補強する態勢であれば難度はかなり解消されます。」

 デリラが頑張りました、どうですかと言わんがばかりだ。

「そっか伊達に盾押しじゃなかったんだね。」


 次はエルダ姉さんが引き継ぐ。

「移動と足場に関してね。さっきの話の通り、もたついてたらブレスを何回も食らう可能性があるわ。今度のブルードラゴンは山岳だから坂と岩場、更に凍結などにも対策が必要ね。これは白兵に持ち込んでも重要よ。

 坂や岩場という不安定さに関しては、訓練である程度は慣らして対応して、レッドドラゴンの時に私が使ったみたいな足場を自分で作る魔術も習得させたいわ。

 風で足場を作るのが一番万能だけど難しいから、滑らないように地面を作り替えたり、隆起させて段を作ったり、凍結対策なら炎でも良いかもね。この辺りを使えるようになりなさい。」

 何だか学ぶことがだいぶ増えてきた。

「そうだ。エルダ姉さんの使っていた光弾も教えてよ。」

「あれは便利だけど難しいわよ。中距離くらいまでは牽制として視界を防げるし、ダメージも与えることができる。

 あの時はダメージ目当てじゃなくて、ブレス前の時間稼ぎと幻影を配置した時に特定ができないようにする目くらまし。さらに着弾点はマーキングして後で局所防御力の弱体が目的だったから。かなり複雑な魔術になるわ。

 まあ、簡単にさらってモノになりそうだったら使いなさい。」

 甘く見てた。単純に見えてかなり複雑な使い方してた。

「白兵戦での回避は幻術による幻影との併用が推奨だけど、仕掛けるタイミングと精度が重要よ。

 単純に避けてもいいけど、ヒット&アウェイだと長期戦になりやすいのよね。今回のドラゴン狩りに関して、長期戦はデメリットが多いから出来れば距離をとるような避け方はしない方がいいわね。

 具体的な戦術は実地で訓練しながら詰めていきましょう。」


 もう一回デリラへと説明が回ってくる。

「ドラゴンの急所は他の生物と同じように頭か心臓です。ただし、断ち切るには頭や首は強固ですし、心臓を貫くにはかなり深い場所にあります。

 剣は傷が浅くなりやすく、槍は深く刺さると抜くのが難しく、急所までどうやって辿り着くかという巨大生物を相手にすると避け難い問題も併せて考える必要があります。

 この間は前肢を両方崩して、無理やり降りてきてもらいました。」

 うん、頭なら剣だと遠いし、心臓なら槍でも懐は遠いという二択か。心臓を狙うより頭の方が僕の選択としては良いのかも知れない。

 エルダ姉さんのように槍からスイッチするのも悪くなさそうだ。

「アレン、最後の攻撃力はあんまり心配いらないわよ。魔力の刃を重ねるのと振りぬく時の加速は予め付与できるし、たぶん習得は貴方にも難しくないから。」

 少しだけ楽できそうだ。

「課題をまとめると障壁、移動と足場、幻術、あと白兵時の戦術だね。」


「そうそう、もう一つ大事な話があったのよ。」

「えっ、何?エルダ姉さん。」

「レッドドラゴンの素材の前処理を始めているんだけど、ブルードラゴンの素材が揃ってから何を作るかよ。」

「それは、最重要課題ですね。」

 デリラが今日一番の真剣な表情で答える。この課題は二人に任せて僕は早々に退散した。

 それにしても最重要って。

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