ドラゴン狩り観戦

 その翌日、よりにもよって翌日だ。

 僕らはドラゴン狩りに出た。正確には姉妹の方が行って、僕は観戦のためについていくだけだ。

 馬で南方に駆けていくと急に植物が減り、やがて砂丘が姿を現す。まだ灌木が残っているあたりで馬を残して徒歩へと切り替える。

 砂丘に入るとハッキリと気温が上昇して、砂地の細かさに足がとられていくのが分かる。あまり考えていなかったけれど、足場が不自由になるのは中々厄介だ。

「だいぶ近付いてきたわね。」

「もうそろそろなのでアレン兄さんは私達から距離をとってください。」

 僕はうんと返事をして二人が進むに任せて、距離をとってからついていく。エルダ姉さんが振り返って、楽しそうに手を振ってくる。僕の心はゲッソリして、すぐにでも帰れないかと思っている。帰れるはずはないのだが。

「暑さ対策と足場対策がこんなに必要だとは思わなかったな。」

 来る前に暑さ対策の冷却の護符と砂地でも動きやすいブーツへの加護を付与してもらい対策をしているが、それでもいつもと違う状況に違和感を覚える。このあたりの的確な対策に関して、流石に二人は熟達しているということだろう。

 途中、オアシスがあって休憩をしたが恐らくここが最後の補給地点だと二人が言って進んだ先にレッドドラゴンはいた。


 砂漠の中に巨大な岩盤があり、その上にドラゴンは寝そべっていた。岩盤からは陽炎が立ち上り、その姿を歪ませて僕らに届けている。周囲には植物は全く生えていなくて、体から立ち上る熱気で全ての生き物を拒絶していることが分かる。ふいに僕はなんて孤独な生き物だろうと危機感のない思いが頭によぎった。

「アレン、よく見てなさい。」

「アレン兄さん、安全な距離で見てて下さい。」

 僕の姉妹達はなんて勇敢なのだろう。自分の身体が恐怖と緊張でカチコチに固まっているのを感じる。どうか無事に帰ってきてほしい。それだけが僕の願いだ。

 エルダ姉さんが前衛として前に出る。手に持つ獲物は槍で、普段の姉さんがあまり使わない獲物だが覚醒後の姉さんに苦手武器はない。対してエルダは、穂先の作りが装飾的な槍とも杖ともつかない武器を手にその場で魔術の構成を練っている。

 どちらの槍も意匠を凝らした造りで恐らくは強力なアーティファクトなのだろう。

 対するドラゴンは二人の気配にいきり立ち、身体を立てて威嚇の構えをとる。


 エルダ姉さんは身体強化の魔術を使い、狙いを絞らせない目くらましを兼ねた牽制の光弾を投擲する。光弾の幾つかは命中するが、有効打を与えているように見えない。

 ドラゴンは光弾をしのぐと深く息を吸い込み終わっているのが見て取れる。素人の僕でもわかるが、あれはレッドドラゴンの攻撃の中で最も危険な攻撃、火炎の吐息-ドラゴンブレスを吐く準備が整っている証だ。

 次の瞬間にその口から恐るべき火炎が溢れ出す。白熱した火炎が一瞬にして辺りを業火で焼き尽くした。灼熱の熱風を感じたかと思ったが、エルダ姉さんの前には何重もの魔力の殻が展開していた。デリラを見ると強力な魔術を発動した形跡が見て取れ、防御効果に満足している様子が見て取れる。

「展開させる角度と隙間を開けて積層させることが、ブレスのような流されやすい攻撃を対処するコツです。」

 さらりと攻撃特性に対処するアドバイスを言ってくれる。あれだけの魔術構築自体が容易ではないし、予めドラゴンの情報を熟知していなければ即断できないだろうに。

 ドラゴンブレスによる灼熱の火炎は、綺麗に僕らの周りを迂回するように周辺を焼き尽くしていた。火炎の熱は砂漠の砂の一部をガラスのように溶かしている。

「大抵のドラゴンは遠距離で仕留めるより、白兵戦に持ち込んだ方が相手しやすいわ。でも、近付く前のブレス対策は必須ね。」

 レッドドラゴンに近付きながら、エルダ姉さんが魔術を使って僕に声を飛ばす。そんな真似ができるということは、ドラゴン相手に余裕があるんだろう。


 凄まじい速度であっという間に距離を詰めた姉さんの前に巨大なレッドドラゴンがそびえ立つ。一本一本が剣の様に長く鋭い爪を振りかぶって、姉さんを薙ぎ払おうとする。

 距離があって巨大だから遅いように錯覚するが、かなり素早い攻撃で範囲を巻き込む爪だ。受けてしまっては勢いに身体ごと持っていかれてしまうだろう危険な爪はエルダ姉さんの上半身を薙ぎ払うが、何故か攻撃がすり抜けると少し離れた別の角度からいきなり姉さんが出現する。光弾と連携して幻影を配置していたのだろうか。

 エルダ姉さんが飛びあがるとレッドドラゴンの左腕の関節にある鱗が光っている。その光っている鱗を姉さんの槍が関節の向こう側まで完全に貫く。

 姉さんは槍から手を離し、着地しながら剣を抜き少し距離をとる。

「固い部位を狙う必要がある時には局所的な弱体化が有効。」

 泣き叫ぶレッドドラゴンだが右腕が健在でバランスは崩れていない。そこにデリラが手に持つ槍から魔術を発動させて光の槍を放つが、外れたのか右腕の下にある岩盤に突き刺さってしまう。

 光の槍の刺さった岩盤が砂になって崩れると今度こそレッドドラゴンは前のめりに倒れ伏し、首を無防備に晒すことになった。

「巨大生物は末端を狙っても決着をつけるのに時間がかかるので、確実に止めを刺せる急所を狙う必要があります。」


 無防備になったレッドドラゴンを前にエルダ姉さんの対応は早かった。崩れ落ち無防備になった次の瞬間には大きく飛び上がり、魔術を付与した輝く剣で首に切り掛かる。

 剣が鱗を割り首に食い込んだ瞬間、さらに追い打ちで魔力によって剣を押し込むように加速して信じられない勢いがつく。固い鱗に守られ強靭な筋肉と強固な骨でつながれた首が両断され、レッドドラゴンの首が宙を舞う。

 姉さんは風だと思われる魔術を使って空中に足場を作り、それを蹴ってレッドドラゴンから離れて着地する。見事な空中回避で首から上がる血飛沫からも逃れた。

「確実な止めは必要だけど、あんまり綺麗なのを狙いすぎない方がいいわよ。」

 あっさりとレッドドラゴンを狩ってしまった。

「うん、凄く良く分かったよ。」

 僕には同じことはできないことがね。

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