見えない生きもの

 天然の菌を使う醸造ものって、すごくハードルが高い気がするんです……

 菌って見えないから、ちゃんとした種類のやつが居ついてくれてるかどうかわからなくて。

 だけど最大のメリットは、ただだということ。

 お腹壊すとただではすみませんが。


 田舎の人が蕗や三つ葉や芹を金出して買うのが信じられないのと同じ感覚で、イーストごときに金を払うのが嫌で天然酵母を捕まえてパン焼いたりしています。


 水に砂糖をジュース程度の甘さになるよう溶かして、りんごや柿をざくざくに切って浸けておくと、三日~一週間で酵母の発酵が始まって細かい泡が出てきます。

 その汁が、天然酵母パンの種になります。

 でも、酵母の生息数とか細菌叢の構成菌種とか、そのときの条件でまちまちなので、発酵にはものすごく時間がかかったり、変なのが出来てしまったりします。

 ものによっては、土臭かったりします。

 まあ、変なのが出来ても食べますけども。


 自分で捕まえた酵母でも市販の天然酵母顆粒でもあまり変わらないんですが、パンから発酵臭がするんですよね。

 ビールっぽいような?ちょっと癖のある臭い。

 なので、市販のイーストやお店の天然酵母パンとは違い、某北欧家具店が経営するカフェテリア形式レストランのパンみたいな味になります。 


 酵母はいろんなところに住んでいるので、果物やらなんやらを砂糖液にどんどんつけると面白いのですが、最大の失敗はどんぐりから獲った酵母。

 臭いです。

 パンは結構膨らみますが、これはダメでした。 


 そして天然酵母で醸したやつで最近のヒットは、パンではなく柿酢。

 以前柿をたくさんいただいたのですが、食べきれず熟しすぎて柔らかくなってしまいました。

 それを洗わずへたも取らず適当にその辺の梅酒などを漬けるガラス容器に詰め、密閉しないように、でも虫は入らないように蓋をしてそのまま常温放置。

 下手すると虫が湧くので、虫対策は厳重に!

 しばらくすると柿は黒くなって溶けて、汁が出てきます。

 買って来たまま忘れてビニール袋の中で腐ってしまった柿そのもので、普通の人はこの辺で捨ててしまいます。


 さらにほうっておくと、その汁の中ででっかい泡がぼこぼこ出てきます。

 怪しいゼリー状のものや白っぽい何かが発生したりもして、ほんとグロテスクで食欲を失くします。

 しかし見なかったふりをして放置します。


 気がつけば一年くらい経って、泡はもう出なくなっています。

 あまりにもグロかったので手を付ける気にならず、さらに1年放置しておいたのですが、先日いつも使っている銘柄の酢を切らしてしまい、仕方なくこの柿酢を使ってみることにしました。

 まずざるにキッチンペーパーを敷いて、怪しい物体をぼたぼたっとその中にあけて濾します。


 すると驚きました。


 下に溜まったのは、澄んだ液体。

 ちょっと舐めてみると、普通の酢です。

 市販の穀物酢より甘味が少なく、酢臭さもありません。

 以前よそでちょっと味見させていただいた柿酢は少し甘味があってまろやかだったような気がするのですが、2年寝かしたので、糖分が完全に酸味に変わってしまったのでしょう。

 ワインビネガーに似ていますが、ワインの匂いを完全に抜いたような感じで、外連味のない素直な味です。

 どんな料理にも合いそうです。

 ドレッシング作ってみましたが普通に旨い!

 日本中でどれだけ食べきれなかった熟柿が無駄に捨てられているかを想像してみると、みんな柿酢作ってみるといいのにという感想を持つに至りました。


 最終的に、柿約1kgで酢350cc位が取れました。

 今年も柿の季節が来たら、作ってみようと思います。


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