七話 親友の発言力が弱くなってる気がする。なぜだろう。
※
デストラとゴーシュと別れ、アルッサム城に戻ってきた頃にはすっかり日が暮れていた。堕天使の襲撃はなかったらしく、特に変わった様子はない。
双子の悪魔のことは迷ったものの、何人かには教えておいた方がいい気がしたので、夕食と今日の報告のために人を集めることにした。
食堂に集ったのはキャンディスを抜いたミイク火山遺跡調査組、ラスターとゲオル、アレンスとマリアン、それから部屋に引きこもっていたシズナだ。
キャンディスは城内を改めて調べてくると言って、止める間もなく行ってしまった。無理をしないか気がかりではあるが、この面子ならばフィアのことや俺の目のことを気にせず話せるので、このまま続けることにする。
「はあ!? また悪魔と取り引きしただなんて……ヴァリシュ、お前何考えてんだ!」
ラスターが椅子から立ち上がって喚き立てる。ちなみに、今日のメニューはおにぎりと卵焼きと豚汁である。
「別に契約したわけじゃないんだから、そんなに騒ぐ必要ないだろ」
「食べながら大声出さないでくださいよ、勇者。お米が飛び散ってバッチイです」
「そうだよ、ラスターくん。ほら、座って。ちゃんとヴァリシュくんのお話聞かないとだめだよー」
「ぐぬぬ……!」
……フィアはまだしも、リアーヌまで辛辣だ。まだ怒っているらしい。
渋々と椅子に座るラスターを尻目に、ゲオルがこっちを見る。
「オジサンはヴァリシュちゃんの判断を信じるよ。悪魔のことなら、この中の誰よりも詳しいだろうしねぇ」
「なんだか、含みのある言い方に聞こえますね」
詳しくなりたくて、なったわけではない。あちらから勝手に寄ってきては、付き纏われているだけなのだが。
そうだ、シズナに双子のことを一応聞いておくか。
「シズナ、お前はデストラとゴーシュという双子の悪魔について、何か知っていることはないのか? お前より少し年下くらいなんだが」
「そ、その名前は知らないけど……黄緑色の髪に派手な格好の双子悪魔なら、学校で見たことある」
「本当か?」
「陽気な姉に、陰気な弟……目障りなのは見た目だけで、あとは特に目立ったところはなかった気がするわ」
「ふむふむ。シズナさんがそう言うのなら、やっぱりあの二人はザコで確定ですよ。ザーコ!」
隣で卵焼きを頬張りながらザコザコと繰り返すフィアの頭を、ぺしっと叩く。
臆病なシズナまでこう言うのなら、あの二人の実力は把握した通りのものなのだろう。ひとまず置いておこう。
「とにかく、デストラとゴーシュは協力者だ。裏切る徴候がなければ、手を出したりしないように。特にラスター、いいな?」
「……わかった。でも、少しでも怪しい様子を見せたら、その時は容赦しないからな」
むすっと顔をしかめてはいるが、ラスターも納得してくれた。
双子のことが一段落したので、次は地獄の門のことだが。こちらは正直手詰まり状態だ。
「地獄の門ねえ……キャンディスちゃんたちが知らないなら、調べようがないんじゃない?」
ゲオルの言葉はもっともである。双子はこの城にあると言っていたが、住んでいる者が知らないのだ。
この件は後回しにしよう、と思っていたのだが。
「あの、ヴァリシュ様。その地獄の門、とやらに関係する話かどうかはわからないのですが。この城に関して、気になったことがあるんです」
恐る恐る言ったのはアレンスだ。意外な人物の発言に、皆の視線が集まる。
「アレンス、今は少しでも情報が欲しい。遠慮せずなんでも教えてくれ」
「では、お言葉に甘えて。今日、マリアンと共にエントランスに飾られていた美術品を片付けるのを手伝っていたんです。今後の戦いで邪魔になるかもしれないということだったので。ただ、マリアンが銅像の一つをうっかり倒してしまいまして」
「おいマリアン、何をしてくれたんだ」
「す、すすすすみません! 一応、その場に居たフロウト王子には謝罪をして許して貰ったのですが……もちろん、陛下にも報告済みです!」
何がもちろん、なのか。銅像にも床にも損傷はなかったらしいので、大きな問題にはなっらなかったらしい。
なので、問題はそれではなく。
「銅像が倒れた時、床から妙な音がしたと言いますか……やけに音が響いたように感じたんです。なので、もしかしたらエントランスの下に大きな空間があるのではないのかと思いまして」
「エントランスの下、か。言われてみれば、今では使われていない通路とか空間って、わりとどこの城にもあるしな」
「でも、そういうのがあるのなら、キャンディスたちが知ってるんじゃねぇの?」
アレンスの情報に俺は納得しかけたが、ラスターは首を傾げるだけ。彼の言うことにも一理ある。
反論したのはカガリだ。
「この城はかなり古くからあり、増築や補修を何度も繰り返してきた形跡が至るところにあります。今の王族たちが知らない通路や空間があったとしても、おかしくはないでしょう。ただ、カガリも気になる場所をヘビたちで調査していたのに、エントランスの地下には気づきませんでした……不覚です」
「あそこは人通りも多いし、美術品とかも置いてあったからね。ゆっくり調べる時間もなかったから、カガリちゃんが気づかなくても仕方ないと思うよー?」
肩を落とすカガリを、リアーヌが慰める。
なんにせよ、マリアンの失態のおかげというか。怪我の功名と言うやつだろう。
「あとでキャンディス姫に話してみよう。他に何か気になることがある者は居るか?」
「気になることってわけじゃないんだけど。明日はアタシたち、採取に行ってもいい? 色々足りなくなってきちゃった」
豚汁を食べ終えてから、リネットが手を上げた。昼間、遺跡で山程採取していたようだが、あれでは足りないのだと言う。
「わかった。明るい内に同行出来るよう調整するから、少し待っていてくれるか?」
「ヴァリシュが一緒に来てくれるのなら嬉しいけど、シズナと一緒に行くから大丈夫よ」
「い、行くなんて言ってないのに……!」
「しかし、流石に二人で行かせるのは不安だな」
シズナが居れば問題ないとは思うが、万が一と言うこともある。堕天使のことを考えれば尚更だ。
「じゃあ、わたしが一緒に行くよー。これでもやる時はやる聖女だからね」
「カガリも同行します。護衛でも荷物持ちでも、なんでもお申し付けください」
「げえ!」
「本当!? それは心強いわ!」
結局、リアーヌとカガリが採取に同行することで話は纏まった。シズナは凄い顔をしているが、彼女たちが一緒に行くのなら大丈夫だろう。
「というわけで、明日はヴァリシュくんはお城で休んでね。結構疲れてると思うから」
「いやでも、こんな時に休んでいる暇はないんだが」
「聖女殿の言うとおりです、ヴァリシュ様。陛下も心配しておりますので、多少は陛下の目に届くところに居た方がいいと思います」
「む……そう言われるとな」
リアーヌの提案に、アレンスが追い打ちの一言を放った。確かに、今日も遺跡での調査報告をしただけで、陛下とはまともに話せていない。
……こんな状況だからこそ、一度話をしておくべきか。今後のために準備が必要なこともあるし、なにより後継ぎのこともふわふわしたままだしな。
「わかった。城内の調査に関しても、準備が必要だとキャンディスが言っていたしな。明日の午前中は俺が陛下の護衛につく。アレンス、ランベールとレジェスにその時間は休むように言っておいてくれ」
「わかりました」
こうして不安は残るものの、この日は特に問題なく穏やかに過ぎていくのであった。
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