二話 クールを装ってはいるが内心ビクビクだった
「えっと、話を戻し……いや、もはやどこに戻せばいいのか。とにかく、仕切り直させていただきます。それでは本日より五大国会議改め、アルッサム防衛会議とさせていただきます。本会議の間は国の代表だけでなく、騎士や文官など、身分や役職関係なく意見することを許可します。皆様、よろしいでしょうか」
「もちろんですとも」
「構いませぬぞ」
「合理的だな」
「むしろ、その方がありがたいです」
キャンディスの提案に、国王たちが頷く。確かに五大国会議でないならば、そして今のような緊急事態ならば、その方が都合がいい。
……俺も少しは発言しやすくなるしな。
「ではまず、敵が何者で、何が目的であるかを少しでも明確にしたいと思います。勇者殿、先ほどの続きです。昨日、貴殿が目撃した悪魔のことを改めて教えていただけませんか?」
「あ、ああ……」
キャンディスの言葉に、ラスターが一度咳払いをしてから話を始める。
「その、オレたちが見たのは悪魔で間違いないと思う。数は二体。なんていうか、二体で一組って感じだった」
「その悪魔たちが、これだけのことをしたのでしょうか? 大悪魔ならば理解出来ますが、それよりも下位の悪魔の仕業だとは考え難いですね」
「ま、まままさか、大悪魔の中に生き残りが居たとか!?」
「それはない! 七大悪魔は確かに倒したんだ! ……大体」
「大体!? 大体ってなんですか! まだ生き延びている大悪魔が居るんですか!?」
ぴええ、とホタルが頭を抱えて震え始める。まあ確かに七大悪魔の一人は今でも生き延びて、今もベッドでゴロゴロと二度寝をキメてるだろうけど。
ラスターの阿呆め、変なところで正直者を出すな!
「強欲の大悪魔は、勇者殿ではなくヴァリシュ殿が倒したとのことですからね。そういう例外はあれど、大悪魔はすでに存在しない。勇者殿、そういう意味ですよね?」
「そ、そうそう! そういう意味だ!」
キャンディスの助け船に、ラスターがあっさり乗った。そうだ、アスファのことを忘れていた。
……あいつ、初めて役に立ったな。
「キャンディスちゃん。オジサンも発言していい?」
「ちゃん、は止めて頂きたいのですが……どうぞ、ゲオル殿」
「どうも。先に言っておくけど、七大悪魔はちゃんと倒したよ。それに、あの悪魔コンビはそこまで強力な悪魔じゃないと思う。精々中級くらいじゃないか?」
「カガリも発言します。悪魔コンビは人間でいうと十代半ばくらいで、黄緑色の髪が特徴的な少年少女でした。姉弟かもしれません。魔物をある程度誘導しているようにも見えましたが、実力の詳細は不明です」
「わたしたちが距離を詰めようとしたら、ぴゃーっと逃げちゃったんだよね」
不甲斐ないラスターに代わって、ゲオルとカガリ、リアーヌが発言する。流石は勇者一行、優秀だ。
それにしても、黄緑色の髪の少年少女の中級悪魔か……思い当たる悪魔は居ないな。
「とても目立つ二人なので、テンロウの忍者であれば居場所を探ることが出来ると思います。ホタル様、お願い出来ますか?」
「わかりました、カガリ。皆にはその二人組の悪魔とやらを探すよう指示します」
ホタルが耳打ちした忍者が、瞬きの内に姿を消した。無駄のない芸当に、おお! と他国から感嘆の声が上がる。
流石忍者、格好良いじゃないか。
「二人組の悪魔については、アルッサムの騎士たちにも情報を集めるよう指示しておきます。それから……カスティーラをさらったのは、勇者殿が追っていた悪魔たちとは別の敵です」
「おや、そうなのですか。詳しく聞かせていただけますか?」
キャンディスの発言に、ウィルフレドが先を促す。キャンディスがラスターを、そして俺の方を見て、一度深呼吸をしてから口を開いた。
「わたくしたち姉妹が見たのは、黒いローブを目深に被った銀髪の男です。勇者殿の話から、ヤツは悪魔ではなく、堕天使と呼ばれる存在であることが判明しました」
キャンディスはここに居る全員に、昨日のことを説明した。流石に誰もが想定外だったからか、興味深そうに前のめりになったり、顔を真っ青にさせたりしていた。
堕天使のことは、この会議が始まる前に皆に説明しようとキャンディスやラスターと打ち合わせをして決めていた。情報を少しでも集めるためには、手段を選んでいられないと思ったからだ。
ただ、スティリナのことや、ラスターが太刀打ち出来なかったことはあえて伏せた。この状況で、勇者の評判に泥を塗る必要はないだろう。自分から泥を被りに行きそうではあるが。
興味深そうに顎を撫でながら、ウィルフレドが俺に目を向ける。
「ヴァリシュ殿も、その堕天使とやらを目撃したのですか?」
「はい。敵の力は凄まじいものでした。堕天使がその気になっていたら、この命を落としていたかと思います」
もちろん、俺だけが堕天使に傷を負わせたことも秘密だ。
「ふむ……大悪魔を倒したヴァリシュ殿がそう仰っしゃるなら、堕天使のことは勇者殿に任せるのが良さそうですな」
「うぐっ」
「デルフィリードの騎士は精鋭揃いですが、不相応な勝負には出ませんとも。我々はアルッサムの騎士団の不足分を補うよう動きましょう」
昨日は中々の暴走っぷりだったが、一応はわきまえているらしい。流石は大国の王、そのまま大人しくしておいてくれ。
「皆様にお願いがあります。堕天使について、まだまだ情報が足りません。少しでもご存知のことがあれば、教えて頂きたいのです」
「とは言っても、流石に堕天使などという存在を初めて知りましたからね。レンノ殿はどうですか?」
「ふん、お手上げだ。しかしとても興味深くはあるので、一度自国の書庫を洗い直したい。ルアミになら、何かしらの情報があるはずだ」
「今日のところは、このまま話していても悪魔や堕天使の情報は出てこなさそうですな。先に各々の役割を決めておいた方がいいでしょう」
結局、この日の会議は城壁や街の修復、見回りや警備の再配備、怪我人を他国へ移送する方針などを話し合って昼前に終了した。
悪魔と堕天使に関しては、大した情報を得られなかった。いや、悪魔に関してはフィアやシズナに聞けば、何か知っているかもしれない。堕天使のことも、続報を待つしかないか。
「ヴァリシュ殿」
会議が終わり、各国の王たちが退出した後。キャンディスが歩み寄ってきて、声をかけてきた。
……なんだか勇者一行の視線が突き刺さっている気がするが、知らないフリをしよう。
「キャンディス殿、どうされました?」
「昨日の、地獄の門のことですが……思い当たる場所がありました。調査に行きたいので、時間があるようならご一緒していただけませんか?」
「え、俺ですか?」
意外な誘いだった。ラスターならまだわかるが……いや、二人の様子を見ている限り、俺の方がマシってことだろうか。
「わかりました。それでは昼食の後、十四時頃でいいですか?」
「ええ、問題ありません。では、時間になったら迎えに行きます。他に同行したい方が居るようであれば、ヴァリシュ殿の方から声をかけていただけますか?」
「わかりました」
そう言って、キャンディスも会場から出て行った。どうやって彼女を懐柔させたのかと纏わり付いてくるラスターたちを引き剥がし、昼食がてら今日の会議で決まったことを班長たちに伝える。
約束の時間は、あっという間にやってきた。
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