【第三部】十二章
旅だ! でも仕事だ!
一話 謳歌する平和は本物か、それとも……
堕天使との戦いから、早くも四か月が経過していた。
そしてこの四か月で、世界がどうなったかというと。
「……平和だな、今日も」
特にこれといったことは、何もなかった。
魔物に城壁の一部を壊されたり、詐欺師集団を摘発したり、嵐で家屋が崩壊した住人たちを助けたりと忙しい日々ではあったが。どれもこれもが堕天使とは関係がない事件ばかりだ。
今日もすでに昼過ぎ。オルディーネ王国は今日も平和なまま、穏やかに夜を迎えよるのだろう。
もうすぐ春になるからだろうか、少しずつ日が長くなってきたように思える。
「いいですよねー、平和。私、平和好きですよ。退屈ではありますが、お腹いっぱいにヴァリシュさんのお料理やお菓子を食べて、夜になったら朝までぐっすり寝るんです。血も臓物も流れない日々がこんなに快適だなんて思いませんでしたよー」
執務室のソファに寝転がり、これでもかとくつろぐフィアを眺める。今は俺たち以外誰も居ないので、鳩ではなく悪魔の姿だ。
……人間の国で悪魔がごろごろ出来るのも、平和の証なのかもしれない。
「やっぱり堕天使さんはあの時に死んじゃったんですよー。もう二度と、私たちの前には現れませんよ。この平和はずっと続くんですー」
「……それなら、いいんだけどな」
暢気なフィアはそっとしておくとして。俺は手元のノートに視線を戻し、ペンを持って頭の中を整理するようにメモをとる。
フィアの言うことも、一理ある。堕天使は今回は大人しく消えると言っていたが、あれも捨て台詞だった可能性があるからだ。
この四か月、ラスターとリネットが世界中を飛び回って堕天使の痕跡や情報などを調べていた。
それこそ、あれだけ嫌悪していたノーヴェ大神殿を含めて、あらゆる場所を探した。堕天使の『だ』の文字も見逃さないように。
でも、なんの成果もなかった。何もないのなら、それでいい。
しかし、もしもあの男が再び現れた時に、何もしないままでいるわけにはいかない。
相手が悪魔だったら、勇者であるラスターに任せておけばいいのだが。あの時の様子を見るに、今の状況ではラスターが堕天使に勝つことは無理だ。
ただ、ラスターが弱いというわけではない。あいつは強い、俺よりも。それはこの世界で揺るがない真実だ。
「でも、なんであの時のラスターは手も足も出せなかったんだろうな」
俺は考える。あの時、堕天使は俺のことを邪魔者だと言った。つまり、堕天使の目的を阻止できるのはラスターではなく、俺なのだ。
どうして俺なのか、わからない。だが、俺には皆とは違う点が一つだけある。
前世の記憶……この世界が『デーモンブレス』というゲームと同じだという記憶だ。
俺が闇落ちフラグを回避出来たように、堕天使を倒すための手掛かりも必ずこの記憶にある筈だ。
でも、この半年間ずっと考えていたが、結局何も思い浮かばない。
そして俺には、この件ばかりに構っている暇はなかった。
「ヴァリシュさん、ヴァリシュさーん」
「なんだ。まだ腹が減ってるのか? 小遣いやるから外で屋台巡りでもして来い」
「確かにおやつの時間ですが、三時過ぎましたよ? 三時から打ち合わせがあるって言ってなかったでしたっけ?」
「え……うわ⁉ しまった、忘れていた!」
勢いよく立ち上がったせいで倒れそうになる椅子を慌てて掴みつつ、必要な書類や筆記用具を持って執務室から飛び出した。
そう、俺には大仕事が控えているのだ。いつまでも堕天使なんかに構っているわけにはいかない。
「ちょ、ちょっとお⁉ ヴァリシュさん、私にお小遣いを渡すのを忘れてますよ!!」
フィアが何か喚いた気がするが、それにも構っている余裕はなかった。
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