六話 魔法は反則? むしろ俺に魔法を使わせたことを誇って欲しい
フィアが言うには、対悪魔用の武器として、魔力を吸い取る性質のある鉱石を用いて作られるものが存在するのだそう。
鉱石自体が希少であり、加工も難しいため、そんなに多くは出回っていないらしいが。
そんな希少な双剣を手に入れるとは、流石お貴族様……なんて言ってる場合じゃない。
「おいフィア、この場合どうすればいいんだ?」
「私に聞かないでくださいよっ。とりあえず、これ以上長引くのは危険だと思います」
「そうだな、俺もそう思う」
ならば。向かってきた双剣を思いっきり振り払い、ランベールが体勢を崩した隙に距離をとる。
せっかく魔法が使えるようになったのだから、銃魔法以外にも便利に格好良く利用したいと思っていたのだ。
丁度いい、試してみるとしよう。
「全力で来るがいい、ランベール。次の一撃で終わらせてやる」
「ひえっ、ヴァリシュ様格好いい! ぜひ受け止めてください、おれの熱い思い!」
それは死んでも嫌だ! という言葉はひとまず飲み込み、ランベールの動きを見極める。今まで無駄に打ち合っていたわけじゃない。ランベールの癖を見極めようとしていたのだ。
双剣特有の手数の多さで惑わされていたが、彼の動きにはパターンがある。そういう相手は、本気を出すときに必ず一番得意なパターンで来る筈だ。実戦経験が少ないなら猶更。
さらに、俺の身体を流れる魔力の存在に集中する。普段は気にならないが、意識するとわかる。じんわりと左目から全身に巡る熱が。銃魔法の時は外に放出するイメージだが、今回は違う。
目を閉じる。地を駆ける為の足と、剣を振るうための両手に魔力を集中させる。余計な思考は追い出す。時間の流れがやけにゆっくりに感じる。
ランベールが剣を振り上げる。目を開ける。
――今だ!
「え……」
ランベールが間抜けな声を上げる頃には、全部終わっていた。円を描くようにして、宙を舞い上がる一対の剣。
彼がそれを把握すると同時に、剣が地面に突き刺さる。
「よくやった、と褒めてやろう。ランベール」
ランベールの喉元に切っ先を突き付けて、俺は勝利を宣言した。彼も、周りも俺が勝ったことをようやく理解したようだ。
「……メネガット隊長は見えましたか、今の」
「い、いや……全然、追えなかった」
「まるで疾風のようです、なんて速さだ……」
唖然とする野次馬。少々やり過ぎたか、しかしこれくらいしなければランベールには勝てなかった。
残りの魔力を全て足と腕に注ぎ込んで、力を強化した。ゲームでよくある身体強化というやつだ。
限界を超える速度でもって、ランベールの隙を縫うように駆け抜け双剣を弾き飛ばした。
我ながら、自分の才能が怖い。イメージだけで実行出来るとは。頭に鳩が居なければもっと速く動けたかもしれない。
「す、凄い……流石です、ヴァリシュ様!」
「…………」
「あ、あれ? ヴァリシュ、様?」
「う……き、きもちわる……」
だが、代償が大きかった。魔力が尽きかけていたせいもあるかもしれない。
視界が歪む。なんか、前にも似たようなことがあったような……。
「げ、ヴァリシュさん、魔力が空っぽですよ⁉ 大丈夫ですか⁉」
「だ、大丈夫じゃない……きもち、わるい……」
その場で膝をついて、立ち上がれなくなってしまう。そうだ、確かアスファを倒した直後にも気を失ったんだったか。
でも、あの時とは違う妙な安心感。完全に意識を失っていないからか、それとも。
「きゃー!! ヴァリシュさん、しっかりしてくださいぃ!」
頭の上にうるさいのが居るせいか。そう考える自分に、俺は力なく笑うしかなかった。
※
俺の意見をガン無視した騎士達に城の医務室に運び込まれてから、数時間。無理矢理ベッドに押し込まれた俺は、医者と騎士達から絶対安静を言い渡されてしまった。
「まったく、アスファの時を思い出して肝を冷やしましたぞ」
「最近忙しかったのはわかりますが、具合が悪かったのなら言ってください!」
「とにかく休息を。後は我々にお任せください」
有無を言わせない勢いで、去っていく隊長達。倒れた原因がわからず、「過労でしょうな」などと適当なことを言うしかなかった医者のせいだ。
まあ、魔力不足なんて人間の医者には診断できないだろうが。
「うう、申し訳ありませんヴァリシュ様……体調が悪いのに、おれの根性を叩き直すために相手をしてくれたなんて。でも、ヴァリシュ様のおかげで迷いが消えました。おれ、騎士になります! ヴァリシュ様と共に戦えるように!」
そう言って、ランベールが気持ちを新たに訓練へと戻っていった。俺に勝つことは出来なかったものの、彼の実力の高さを騎士達に示すことが出来た。
すぐに、とはいかないが。彼に第四部隊を任せるのも時間の問題だろう。ちなみに双剣の呪いは俺の剣で完全に霧散したようなので、そのまま使って貰うことにした。
魔力を吸い取る性質は健在だが、それは俺以外には無害だし、なんなら有用に働くこともありそうだしな。
そして、あと一つ残っていた問題だが。これも解決した。
「わたくし、決めました。騎士になるのは諦めます」
ベッドの脇に立つユスティーナ。少し送れて駆け付けてきた彼女は既に鎧を脱いでおり、シンプルなワンピース姿だった。
「よろしいのですか? あれだけ頑張られていたのに」
「自分ではとっくにわかっていたんです。今までロクに運動なんかしてこなかったくせに、騎士になるのなんか無理だって。意地になっていただけです。でも、今回のことでわかりました。わたくしには、わたくしに出来ることをしようって。何より、医学を勉強していたのに、ヴァリシュ様の体調を見抜けなかったことが、剣で負けるよりも悔しいのです」
元々体調は悪くなかったし、倒れたのは魔力がなくなったせいなのでユスティーナがわからなかったのも無理はない。
でもまあ、ようやく騎士を諦める気になってくれたので何も言わないでおく。丁度医者も不足気味だったので、そちらの方を目指してくれるなら万々歳だ。
「そうですか。ユスティーナ様が決められたことなら、俺がとやかく言うことではありませんね。応援しています」
「ありがとうございます。医者の方も最初は見習いからですが、いつか必ずヴァリシュ様専属の医者になってみせますので!」
「え、そういう役職は無いんですけど――」
「騎士見習いとしての日々を無駄にしないよう、これからは医者として精進して参りますので。今までありがとうございました、そして今後も末永くよろしくお願いしますね!」
深々と頭を下げてから、医務室を出て行くユスティーナを呆然と見送る。
これはこれで、面倒なことになったような……。まあいいか。
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