第十章
騎士団入団試験本番!
一話 イケメンは写真でも映える
入団試験にかかる日数は二週間にも及ぶ。最初の一週間で面接、筆記、実技を済ませる。
それらをクリアした者のみが残りの一週間を仮入団として過ごしてみて、最終的な合否が出るのだ。
今日は試験の初日。場所は説明会を行った場所と同じ大広間で、これから来るであろう希望者を迎える為の準備で皆忙しそうだ。
そして俺は受付の椅子に座らせられた状態で、リネットが作ったカメラでなぜか遊ばれていた。
「す、凄いですリネットさん! ヴァリシュ様のお顔が綺麗に写っていて、まるで鏡みたいです!」
「ふっふーん、そうでしょ。今はまだこの一台しかないけど、既に貴族達からの注文が相次いでるのよ。ねえヴァリシュ、このカメラっていう発明品、アタシのアトリエの目玉商品にして良いわよね?」
カメラを構えながら、リネットがニンマリと笑う。彼女が作り上げたのはいわゆるポロライドカメラのようなもので、細かい仕組みは違うのだろうが、俺が知っているのと同じくらい鮮明な写真を撮ることが可能だ。
流石に解像度はデジタルカメラに遠く及ばないものの、ちゃんとカラーで撮れているのが助かる。
この世界の人間はカラフルだからな、俺含めて。
「ああ。騎士団には一台あれば十分だからな……って、一体何枚撮る気だ」
試し撮りと称して、パシャパシャと何度もシャッターを押すリネット。その度に手のひら大の写真がペラペラと排出されている。
被写体は全部俺だけどな!
「貴族達に商売する為には見本が必要でしょ? こういう暇潰し道具って、旦那さまよりも時間を持て余した奥さまの方が興味を持って貰えるのよ。それにアナタと友達だって証拠があれば、ミラージェス家みたいな事件になることもないでしょ?」
「なるほど。俺はてっきりアイドルのブロマイドのように高値で売買されるのかと思ったぞ」
「なるほど、それでも良いわね! アナタの写真ならユスティーナみたいなお嬢様に高値で売れそうだわ」
墓穴を掘ったとはこのことか。モテることは決して悪くないが、自分の写真が知らない場所で良いようにされるのはあまり良い気分ではない。
「ま、とりあえず三十枚あれば十分ね。それで、このカメラはどうすれば良いの?」
「これから希望者が必要書類を持ってくるから、その時にマリアンが希望者の顔写真を撮影する手はずになっている。リネット、マリアンにカメラの使い方を教えてやってくれ」
「わかったわ、任せて」
「よ、よろしくお願いします!」
リネットがマリアンの前に歩み寄って、カメラの使い方を教え始める。そして今度はマリアンが試し撮りしようとカメラを構えるなり、リネットが俺の隣に寄ってきて密着してきた。
なんだ、と言おうとしたところでパシャリとシャッター音。
「あはは! 上手じゃない、マリアン。すっごく良い写真が撮れたわ、これは持ち帰って工房に飾ろーっと」
「……おい待てやめろ。俺が物凄く間抜けな顔をしてるじゃないか」
「それが良いんじゃない、ふふ。マリアンもどう? 撮ってあげるわよ」
「え、ええ? でも、自分はその……仕事中ですし……」
「別に良いじゃない、アタシだって仕事中だし!」
なんか、二人がわちゃわちゃし始めた。もう間もなく時間なのだが。どうしたものかと迷っていると、視界から黒い塊がリネット目掛けて飛び出して行った。
「ちょっと! 私がちょっとお昼寝してる間に、何をしてるんですか!」
「うわっ! 何よフィア、離れなさいよ!」
何事かと思えば、今まで長テーブルの上ですぴすぴと寝息を立てていた
両方の翼を器用に使ってしがみつく姿は、お世辞にも鳩っぽいとは言えない。かなり不気味である。
「くんくんくんくん! なんだかイヤらしい匂いがしますよこれ、私は色欲の悪魔なのでイヤらしさには敏感なんです!」
「忘れた頃にその設定持ち出してくるのやめなさいよ!」
「設定じゃないですー! 事実ですぅ!」
「……あの、ヴァリシュ様。どうしましょう、これ」
「放っておけ。もうそろそろ時間だろう、希望者を中に入れてくれ」
「わ、わかりました!」
マリアンがアレンス達に伝言を伝えに行き、会場の扉が開かれる。すぐに入団希望者達が続々と会場へ入って来た。
大胆な改革に不安はあったが、多少もたつくことはあれ大きな混乱は起きず、面接試験への誘導も問題ない。肝心の面接官は、数日前に行った試験で無事に合格点を獲得した頼れる部隊長達に任せている。最初の篩としては十分だろう。
ちなみに俺は何をしているのかというと、入団希望者から必要書類を受け取り、適度に激励するという騎士団長として重要な仕事を担っている。
本当は面接官をやるべきかと思ったが、面倒……じゃなくて、色々とアレだったので泣く泣くここで受付係をやることになったのだ。
ついでに
今のところ、何も問題ない。
「ごきげんよう、ヴァリシュ様。お約束通り、入団試験を受けに参りましたわ!」
「ヴァリシュ様、こんにちは! ユスティーナ様と同じく、不肖ながらランベール・シェルヴェン、入団試験を受ける為に参上しました!」
「あー……よ、ようこそ。お二人とも」
前言撤回、問題が駆け足でやって来た。周りからジロジロとした視線を集めながら、ユスティーナとランベールからそれぞれ書類を受け取る。
不備は見られないので、マリアンに写真を撮るよう指示をする。シャッターのタイミングが悪かったのか、ユスティーナの写真が半目になってしまってちょっとおもしろ可愛い感じになってしまった。本人には秘密にしておこう。
「では、お二人はこれからメネガット隊長との面接に行って貰います。ヴァリシュ様、自分がお二人をご案内します」
「ああ、頼んだぞアレンス」
「いよいよですね、ユスティーナ様!」
「ええ、ランベール。お互いに合格出来るよう頑張りましょう」
アレンスの案内で、ユスティーナとランベールがメネガットが待つ部屋へと向かった。面接は受付した順で空いている部屋へと案内される。
二人はメネガット隊長との面接になってしまったか。運がない。
「あらら、あのセレブ二人は強面隊長さんとの面接なんですね。かわいそー。女騎士さんもそう思いますよね? 前にメチャクチャいじめられてたじゃないですか」
「ええ!? い、いえ。あれは指導ですから。メネガット隊長は騎士という仕事に誇りを持っている為に、誰よりも厳しいだけですし」
「そう? メネガット隊長さんって結構優しいし、ノリもいいと思うんだけど。何より、お腹空いたって言うとお小遣いくれるから、アタシは好きよ」
「おいリネット、隊長相手にたかるんじゃない」
全く悪びれのないリネットに呆れつつ、二人が向かった部屋の方を見やる。フィアとマリアンの言うように、初対面のメネガットは怖い。身体も大きいし、強面で性格も厳格だからな。
現に、メネガット隊長との面接を終えた者は総じて顔がどんよりと疲れ果てている。圧迫面接とまではいかないだろうが、面接という機会が滅多にないこの世界の人達には物凄いプレッシャーだったようだ。
流石に同情する。俺は胸の中だけで手を合わせた。が、それは束の間だった。
「はっはっは! ヴァリシュ様のお知り合いだという貴族のお二人、なかなか肝が据わっていて見どころがありますぞ。最近の若者にしては図太いので、これからどんどん伸びるでしょう。鍛えがいがありますな!」
なんて、面接を終えたメネガットが満足そうな笑顔で言うものだから。俺は「そ、そうだろうそうだろう。俺の目は正しいのだ、ふふん」と空返事をするしかなかった。
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