六話 謎解きは食べながらでも出来る


 結局、俺だけが真相に辿り着けぬまま今日は城に帰ることになった。リネット達は引き続き伯爵の屋敷に残ることになったので、帰路に着いたのは俺とフィアだけ。

 時刻は夕方、このまま仕事を終えて夕食の支度に取り掛かっても良いかと思っていたところで、門のところで待っていたアレンスに呼び止められた。


「ヴァリシュ様、陛下がお呼びですよ。久し振りにお食事を一緒に、とのことです」

「む、わかった」

「ちゃんとお伝えしましたから、忘れないでくださいね」


 念を押してから立ち去るアレンスに、俺は思わず苦笑を漏らした。それにしても、このタイミングでの呼び出しとは。不貞腐れるフィアには小遣いを渡して機嫌を取りつつ、俺は陛下が待つ王専用の食堂へと急いだ。

 食堂は中心に大きな長方形のテーブルが置かれ、椅子がいくつも並んでいるというファンタジーではよくある景色だ。あまり詳しくはないが、役職や身分で座る席が決まっていると思うのだが。


「おお、ヴァリシュ。急に呼び出して悪かったのう」

「いえ、陛下。お誘い頂き光栄です」

「ふん、随分忙しそうではないか。錬金術工房の問題とやらは解決したのか?」


 給仕のメイドに促され、俺は用意された席へと着く。大臣の向かいで、陛下はいわゆる議長席である。

 騎士団長とはいえ、普段は口に出来ないような手の混んだ高級料理の数々。しかし、喜んでばかりもいられない。大臣と向かい合わせで食事をしなければいけない、という圧迫感もあるが、問題はそこではない。

 謁見ではなく、食事の席への呼び出し。じっくり時間をかけて話がしたい、ということだろう。


「その件に関しては現在調査中です」

「ふん、そうか。貴族の、それもクレメンテ・ミラージェス伯爵に殺人未遂事件とは。この件について、今のところ極秘扱いにしているが……場合によっては大変な騒ぎになる。早急に解決するように」


 大臣が念を押すように言いながら、食事を進める。相変わらず小煩い男だが、前ほどネチネチと言ってくることはなくなった。

 だとしても、今後も出来るだけ大臣と食事は共にしたくはないな。味は美味しいのに、イマイチ食べている気にならない。この牛フィレ肉のパイ包み焼きなんて自分では作れないし、絶対に美味しいだろうに。


「これ、エルランド。仕事の話は止さぬか。ヴァリシュよ、今夜呼び出したのはお主に話があるからじゃ。実は、お主に縁談の申し込みが殺到しておる」

「なるほど、縁談ですか……は? え、縁談って」

「国内だけではなく、国外からも凄いことになっているぞ。お前も有名になったものだな」


 全く想像していなかった話題に、思わず食事の手を止めてしまった。縁談、つまり結婚の申し込みってことか!?


「浮かれてばかりもおれぬぞ。これらの多くはお主と縁を結び、オルディーネの権力を得たいと考えている者達の策略によるものじゃ。お主が気に入った相手ならば良いが、そうでない縁談は全て断る。ラスターもお主もワシの可愛い息子じゃ。政略結婚などさせるつもりはないぞ」

「特にお前のような人間は、興味の無い相手と結婚したところで破綻するのがオチだからな。それこそオルディーネの汚点になる。手紙はこちらで処理出来るが、直接お前に接触してくる者も居るかもしれん。お前のオルディーネにおける影響力は、少し前よりも遥かに大きくなっている。今後は立ち振る舞いに注意するようにな」


 つまり、俺がただモテているというだけの問題ではない。勇者ラスターを育てた国として、オルディーネは世界中でも大きな権力を得た。更には七大悪魔のアスファを退けた功績で俺の名前も売れた。

 俺の妻になれば当人はもちろん、他国であっても血族が大きな力を得ることになる。だからこそ、俺に少しでも近づけるよう縁談の申し込みが殺到している状況らしい。

 それにしても、まさか俺に縁談だなんて。イケメンってやっぱり強いんだな。いや、これまで積み重ねてきたものの成果と考えておこう。

 ……しかし、何か引っ掛かる。


「政略結婚、か……」


 そういえば、伯爵はやけに娘のユスティーナを自慢していたな。親馬鹿なだけかもしれないが、身体を張ってまで自慢したいのだろうか。

 あの行動には、他にも何か狙いがあったのでなないだろうか。


「……もしかして」


 伯爵は言っていた。二人の娘は既に嫁ぎ、残るは末娘のユスティーナだけ。ということは、ミラージェス家を継ぐ者はユスティーナもしくは彼女の婿になる男だろう。

 そして、もしも俺がミラージェス家に婿入りしたらどうなるか。伯爵家の権力は今よりも更に強力なものになり、下手すればこの国を操れる立場にもなり得る。

 驚くくらいに、すべての情報が綺麗に合致した。


「聞いておるのかヴァリシュ!」

「全然聞いていませんでした、何でしょう?」

「こ、こいつ……! 最近は人間的に丸くなったかと思えば、他人の話を聞かないところは全く直っていないではないか!」

「ま、まあ落ち着けエルランド」


 ぎゃんぎゃんと吼えるブルドックみたいだな、と思いつつ。顔面を何とかクールに維持しながら、湧き上がる高揚感に内心でガッツポーズした。やはり俺は優秀だ。これで女性陣に馬鹿にされずに済む。

 俺は勝利を確信し、グラスのワインを一気飲みした。

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