56

 初めの数日が嘘の様に道中何も無かった。獣にも魔物に出会わずにただただ歩くのみだった。

「もうすぐだよー」

 森を進んでいるとカーミラが終着が近い事を知らせてくれる。

「敵と鉢合わせたら即殲滅」

「はーい。誰もいないといいねー」

「いや、多分それはないだろうな」

 なんといっても大陸移動の要だ。こちらがその存在を知っている可能性は低いと言っても、最低限の警備はおくはずだ。それに――

「そういえば、前の町のおっさんが人が集まってるって言ってたな」

 そう、まだダークスから移動してきている奴らがいるのだ。油断は命取りだ。

「カーミラ、死角になりそうな所があったか覚えてねーか?」

「うーんとねー死角ばっかりだよー目立たない様にしてるからー」

「お、そりゃーいいな」

「ライト何を――」

「大丈夫だ。何人いてもお前らは向こうに行かせてやる」

 ライトが笑いながら俺の肩を叩いてくるけど、嫌な予感がする。

「もちろん、ライトも一緒」

「はぁ? 当たり前だろ」

 そうだ、俺達は仲間なのだ。全員でダークスに行く。不安になっていたのかもしれないと気付いて嫌な考えを振り払う。

「だね。それじゃ――」気を引き締めて行こう。

 そう言おうとしたら、小さな手が俺の口を塞ぐ。カーミラが口に指を当てて黙る様に指示してくる。そのまま前の方を指す。

 それを見てライトと頷く。どうやら、森の終着のようで、寂れた砦が建っている。そこに刻まれたエンブレムは見覚えがあった。ロクカドにもあったからだ。

 砦のくたびれた感じを考えると、千年前の戦争時に使われた砦かもしれない。それが今になって敵に使われるとは皮肉なものだ。

 関係のない事を考えていると、カーミラが小声で話始める。

「あの砦の裏側にー転移の陣があるの」

 今見える範囲で敵がいない。こっそり行けば見つからないんじゃないか。

「たぶん皆は砦に入ってるから、陣までは楽に行けるかもー」

 今がチャンスとばかりに砦の囲い沿いを進んでいく――だけど、順調だったのはそこまでだった。

「やっぱりいるか」

 魔法陣を守る様に二人の男が立っている。カーミラの言った様にあちらこちらに木や崩れそうな建物があって死角だらけだ。ただ、誰かが来ないとも限らないから、いつまでもこのままでいるのは無理だ。

「相手は二人。突撃する」

 俺が決断したが、ライトが小声で静止してくる。

「待て俺に考えがある」

 隣の森を指差して、そこに袋に入った火薬を投げる。結構奥まで飛んだので音は聞こえない。

「アレに向かって炎魔法を撃ってくれ」

 ライトの意図がわかったから、すぐに頷く。

 手のひらに炎をだして打ち出すと、火薬が激しく燃えて辺りの木を燃やし始める。

 もちろん、警備の二人はその異常事態に気付き、一直線に森に向かって行く。

「なんだ! 敵襲か!」

「わからん! そんな事より先に鎮火だ!」

 二人の兵士が砦の方に走って行くのが見える。

「よっしゃ! 今だ!」

 その姿が見えなくなった瞬間に飛び出し、魔法陣に駆け込んだ。

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