42
さらに2体のロックリザードを倒して、ようやく頂上に着く。
「嫌な予感はしてたんだよ」
岩陰に隠れて小声で文句を言うライト。
「そう言っても、いるだから仕方ない」
頂上が見え始めた頃から上空にドラゴンの姿が見えなくなっていた事には気づいていたのだ。ただ、願望でここでは無いだろう勝手に決めつけていた。
「最悪の結果じゃねーかよ」
目を覆うライトだけど、俺も楽観していた。行く手を塞ぐように眠るドラゴンは思った以上にデカかった。冷静に考えるとそれはそうだろう。上空にいる時で姿が分かったぐらいだ、デカく無い訳が無い。
「寝てるしー。こっそり通れば行けるよー」
「どう考えても無理だろ」
「うん。それには同意」
本気でどうするかと悩んでいたけど、俺は立ち上がる。
「お、おい」
「ちょっと話してくる」
「馬鹿! お前、話してくるって――」
「はいはいー、私もドラゴンと話したい」
「ああ、一緒に行こ」
「やった♪」
ライトは驚き戸惑っているけど、とりあえずは大丈夫だという確信があった。
「知らねーからな」
そう言いながらついてくるライトはやっぱりイイヤツだ。目の前に行くとさらに圧迫感がある。
「ドラゴンさーん。こんにちはー」
ドラゴンは片目を開けて、間の抜けた声を上げるカーミラに見る――が、何も答えてはくれ無い。
「申し訳ございません。貴方の支配する山に勝手に踏み入れた事をお詫びします。私達の無礼、お許しいただけますか」
「ほぅ。少しは話の出来る小童がいる様だ。だが残念な事だ。出来ん相談だな」
ライトが小声でやっぱり、と呟いている。感覚が麻痺ってしまったのか既に恐怖は通り越しているみたいだ。
「どうすればー許してくれるのー」
ありがたい事にカーミラのペースは変わらない。
「面白い小娘だ。許す許さない、そういう権限は我には無い。この山は我の持ち物では無いからな」
「そうなんだー。それじゃー、ここ通っていいー」
「好きにするが良い。我は少し休息しているだけだ」
「休息?」
「何らや不穏な空気が出ておるのでな、その原因を探っているのだ」
それでずっと飛んでいたのか。
「原因はわかりそうですか」
「いや、まだわからぬ。千年前と同じ気配なのでな。早めに手をうちたい」
千年前――戦争があった時期だ。
「ドラゴン様、実はもう敵は攻め込んで来ているのです。我々も、それを終わらせる為に動いています」
「やはりそうか。ならば今は力を溜めるとしよう。この国が再び炎に呑まれる前に」
「我々も尽くしますが、その時はお願いします」
「うむ。お主らも死ぬで無いぞ――そうだな、折角だ。これをやろう」
ドラゴンは大きな手を器用に使い、自分の背中を摘むとそのまま俺達の方に持ってくる。その指先には俺達の顔ぐらいのサイズで半透明の美しい鱗が摘まれていた。
「売れば一生暮らせる程の金額になり、素材にして武具を作れば強力なモノが出来るはずだ。活用するがよい」
三枚の鱗を貰うと、カーミラが行儀よく頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「有効に活用させて貰います」
「うむ。助けが必要な時はまた来なさい。我は巣に戻り力を蓄える」
それだけ言い残して飛び去っていった。
「ドラゴンさんイイ人――良いドラゴンだったねー」
「案外なんとかなる」
唯一反対していたライトは大きく息を吐いている。そういえば、全然喋って無かった。
「ライト気付いてる?」
「何がだ」
その様子だと気付いてないな。
「スキル。増えてるよ」
「増えるって、お前じゃないん――マジかよ」
――王者の祝福
「これがどんな効果かは分からないけど、ライトのおかげだね」
「別に何もしてねーだろ」
「このルートはライトの案だからねー、ライトお手柄ー」
鱗をしまいながら、ニシシと笑うカーミラ。
「うるせーな、早くいこうぜ。こんな山とっととおさらばだ」
ずんずんと進んで行くライト。その照れくさそうな背中を追って山を下りていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます