37
目覚めると周りは真っ白だった。カーミラとベッドに入ったはずだが、彼女の姿が無い。
「よかった。コイツの言う通り、最後に会えた」
今朝まで聞いていた声のはずなのに懐かしくて泣きそうになる。
そうか、夢か
呟いてみたけど、夢にしては意識がはっきりしている。
「不思議な感覚でしょ。ここはミュートの意識の狭間なんだって」
どこか楽しそうなその表情に憎しみや恨みは無い。俺は助けてやれなかったのに。
「気にしなくてもいいよ。仕方無かったんだ。僕は多分この後の戦争に参加してもどこかで死んでたんだよ。僕は弱いから」
そんな事は無い。俺が回復なんてさせたから狙われてしまったのだ。
「そうかも知れないけど、あの状況だと的確だったよ。隠したままだったらアタルさんが来る前に全滅してた」
それでも俺は――
「なんだよ。ミュートって案外女々しい奴だったんだね。死ぬ前に知っときたかったよ――そんな事はいいや。そろそろ本題に入ろう」
本題?
「そう、僕はこれを渡す為にここにいるんだ」
差し出されたのは見覚えのあるブレスレットだ。これは契約のアクセサリーのはずだ。
「そう。君は他人からこれを貰える能力を持ってるんだって。そいつが教えてくれた」
その視線を追った先、俺の肩に4枚羽を持つ小さな人がいた。
「よう。やっと俺様に気付いたか。俺様はルバレ、お前に加護を与える妖精だ」
イタズラ小僧の様な妖精は俺の肩で不敵に笑っている。
こいつのおかげでアクセサリーが貰える。その意味が良く分からない。
「俺様の与えるスキルは"背負う十字架"ってな互いに仲間だと認識していた奴の加護を貰い受ける事が――いや、言い方が綺麗過ぎるな。死んだ仲間の妖精を俺が食らって加護を奪うんだ」
ウッシシと笑う姿に悪意は無さそうだけど、悪でしか無い。
「そんな事無いよ。死んでしまった僕にはスキルや加護なんて必要ないんだから、誰かに渡せるなら渡したい。それがミュートなら尚さらいいじゃないか」
そうか。俺は背負って生くのか。
「だから、受け取って」
頷いて差し出されたそれを受け取ると、形を変え俺のピアスに吸い込まれる。
「これでミュートは起きた時には鑑定と治癒魔法が使える様になってるはずだよ」
嬉しそうに言う表情は晴れ晴れとしていた。
「短い間だったけど、皆に会えて良かった」
ああ、俺も会えて良かった。楽しかったよ。
「それじゃあ皆によろしく。君達は死んじゃ駄目だよ」
ぼんやりしていく意識の中でロンは笑顔で俺を送り出してくれた。
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