33
「それじゃあ、あんた達も帰っていいよぉ」
姫さんは後の二人にサラッと言う。
「そんな訳には行きません! ここは敵地のど真ん中ですよ!」
「えー、でも君達邪魔なんだよねぇ正直。お父様の命令だからっていつまで私に引っついてるのよ」
「カーミラ様を国に返すまでです」
困った顔の男だが、眉間がピクピクしている。
「あははは、そんな真面目に答えないでよ。あっ、そうだ。じゃあさ、二人は私が極上の男捕まえたからって報告しに帰ってよ」
「そんな事は出来ません。それに、あの馬車もまだ出ていません」
「大丈夫だよ。あのクラスだと、後三人連れて来ないと私には勝てないから――って言わなくても分かってるよね」
そうこう言っている内に馬車が走り走り出す。
「ほらぁ、向こうも分かってるよ。そんな事」
「追わなくていいのか、お姫様」
「えっ、だって約束したでしょ、あの人達と。それと私は姫様じゃなくてカーミラって呼んでね」
カーミラは当たり前の事の様に言うと同時に、馬車から何かが転がり落ちる。ゴロゴロと転がって止まると、こちらに向かって来る。
「おいおい。ミュート連れねーな、おい」
「ライトこそ何してるんだ」
敵意は無いと両手を上げながらこちらに向かってくる。護衛二人は身構えているけど、カーミラは楽しそうに口元を緩ませている。
「お前が一人で残るのもなんだと思ったから付き合ってやろうと思ってな」
「それ無駄になりそうだよ。俺も別に殺されそうな訳じゃ無いし」
「雰囲気で大体分かるよ」
警戒を解く様子無い護衛を尻目にカーミラが手を叩く。
「よし! これで私の護衛が二人になったから、ヒャゴとメルは帰っていいよ」
「そいつらは敵です!」
「さっきまではね」
しれっと言い放つカーミラに頭を抑える男。
「ヒャゴは本当に頭堅いよね。そんなんだから彼女も出来無いんだよ」
「それとこれとは話が別で……」
「ほらぁ、そういう所なんだよね。メルからも何とか言ってあげなよ」
急に振られた女も困ったようにゴニョゴニョしている。男が上司なのか、何か言いにくそうにしている。
「そういう事だから、早くパパの所に帰ってよ」
おそらく、いつもこんな感じなのだろう。
「ですがカーミラ様――」
「あーもう。今回は、流石に、いい加減にしないと、こ・ろ・す・よ♪」
全身の毛が逆立つぐらいの殺気が一瞬で辺りを覆い尽くす。苦しさを覚えて息を大きく吸った瞬間にそれ霧散する。
「わかりました。それでは無理なされないように」
「メル! お前――」
「先輩、私はまだ死にたくないです。ああなった姫様を止める事は不可能です。止めるなら一人でお願いします。誰も報告出来なくなるのも困りますので」
諦めたかのように淡々と理由を述べていく女にライトも同情している。
「まあ、あの殺気見せられたらな。自殺願望者じゃ無い限り諦めた方がいいだろ」
それは男も分かっているのだろう、悔しそうに背を向ける。
「わかりました。それでも、王には報告させていただきますからね」
「だーかーら。報告しに帰りなって言ってるじゃん」
プンスカと怒るカーミラから逃げるように二人は去っていった。
「ふぅ。とりあえず、現状を教えてくれ」
ライトが疲れた面持ちで聞いてくるけど、俺にも分からないので肩をすくめる。
「カーミラさん。とりあえず、目的を教えて貰ってもいいかな」
「そうだねぇー。その辺り色々と話しときたいよね。とりあえず、少し離れた所でテントでも張ろっか」
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