23
「随分と早かったのね」
エメラルダさんに袋を渡すと驚かれた。
「ミュートがいい仕事をしてくれてな。そのおかげだ」
褒めてくれるのは嬉しいけど、それがお世辞なのは俺が一番良く分かっている。
「それじゃあ、中身も問題なく確認できたみたいだし報酬を渡すわ」
手のひらサイズの小袋が軽い音を立てて机に置かれる。
あれだけの魔物を倒したんだし金貨1枚と銀貨数枚はあるのだろう。
「ありがとうエメラルダ――よし、それじゃあ飯食いに行くか」
先輩が小袋を掴んでギルドを出る。向かった先は大衆酒場だった。
「よーし、ミュート。好きなモンを好きなだけ頼め」
特に好きなモノないけど、食べたかったのでフィッシュフライとステーキを頼む。飲み物は水で。他のメンバーも色々頼んでいて、料理が揃った時には6人掛けのテーブルは皿で埋め尽くされていた。
食べ始めるとお腹が空いていたのか手が止まらない。何より味付けが好みだった。
お腹も膨れて満足した所で先輩がさっきの小袋を出して中身をひっくり返して綺麗に並べる。
「よし。それじゃあ分配だ」
驚いた事にそこに並んでいるのは金貨9枚と銀貨9枚だった。
先輩は金貨を2枚ずつ摘み各々に配っていき、皆それを当たり前の様に受け取っている。
「ほら、ミュートも」
同じように金貨を渡されるが、受け取って良いのか悩む。金貨一枚あれば普通の家族なら3ヶ月は生活出来る額だ。
「俺はそんなに活躍して無いし、それに先輩の取り分が――」
「いいんだよ。ここの飯は俺の奢りだからな、素直に受け取れ」
そう言って俺の前に金貨を積むが、中々手を伸ばせ無い。
「よーし、分かった。それじゃあ、こうしよう。俺が今から良い所に連れて行ってやるから受け取ってくれ」
「良い所ですか」
「おお、そうだ。特別会員制で金がかかる所だ。この町はその手の優良店が多くてな」
「でも……」
そんな言い回しだと買うものは1つしか無い。
「あら、いいわね。是非行ってらっしゃい」
まさかコリンさんからも勧められた。こうなったら断りにくい。
「わかりました。それじゃあ遠慮なく貰っておきます」
金貨を受け取って店を出る。
「私はミラが帰って来るの待ってるから、ここで失礼するわね」
コリンさんはひらりと手を振っておしゃれなカフェに吸い込まれ行く。
「僕は砦に帰ります」
フリードさんは一人で帰り
「俺は行く方向が同じだ」
トールさんは俺たちについてくる。町の大通りを少し外れると明らかにきらびやかな一角が見えてくる。
「それじゃあ、俺はこっちだから」
トールさんがテンションを上げてその通りにウキウキと進んで行く。
「今のは――」
「ああ、この町の歓楽街は昼から開いてるからな。あいつは討伐の後は決まってああだ。なんだ、ミュートも行きたいか」
俺はてっきりこっちが目的地だと思っていたので誤魔化す。
「先輩こそ、こういう所は――」
「いやいや。俺にはコリンがいるんだ。こんな所は必要ないさ」
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