22
一通り説明を聞き終わって、トールさんに掲示板で依頼の種類を教えて貰っていると、鈴の音の様な綺麗な声が後から聞こえる。
「皆お待たせ――って貴方は確かにあの時の」
「そうミュートだ。今日は初めての部隊での討伐だ」
「よろしくお願いします」
「そう。困ったら何でもかんでも聞いてね。クリスに」
「俺かよ!」
「当たり前じゃない。私の初めての時だってちゃんと教えてくれたんだら大丈夫でしょ」
「そうですよ。クリスさんはこう見えて面倒見はいいんですから」
「一言余計だな、お前らは……ったく、さてじゃあ行くぞー」
再び受付まで行くと、今度は一枚の紙を貰う。
「いいな、この依頼。それじゃあ、これで頼む」
クリスさんがさくっと目を通して即決するけど、他のメンバーは何も言わない。それだけ信頼関係があるのだろう。
街を出て向かった先は薄暗い洞窟だった。
「どうやら、ここに魔物が住み着いたらしい。鉱石が取りに行けなくて困っているんだとよ」
「魔物の種類は?」
「二足歩行の牛って情報だから、おそらくミノタウロスだろ」
普段から魔物と戦っているからか、ミノタウロスがあまり強く無い魔物だからか、パーティーは落ち着いている。
「まあ、さくっと片付けて帰りますか」
クリス先輩に続いてぞろぞろと洞窟に入っていく。
進むとすぐに暗くなって来たから、コリンさんが魔法で辺りを照らす。
「魔法って便利ですね」
「そうね。でも、このくらいなら適正が無くても使える様になるわよ。実際、私も光魔法のスキル持って無いし」
「えっ、そんな事出来るんですか」
「当たり前じゃない。調理のスキルが無くても料理は作れるし、裁縫のスキルが無くても雑巾くらいは縫えるわ」
「確かに」
「スキルなんて持ってる持って無いの違いなんだから、スキルが無くても覚えたいモノは覚えればいいの。上手く出来るかは別問題だけど」
パチリと片目を閉じて先頭のクリス先輩の所に小走りに去っていった。
「大人だ」
なんだか分からないが、そんな感想だけが残った。
分かれ道をいくつか進み、目撃されたポイント付近までやって来たようだ。先輩が無言でハンドサインをくれる。
気配があるのかそれぞれが武器を構えた。
初めに飛び出したのは槍を持ったクリス先輩だった。
それに続いてフリードさんとトールさん、そしてコリンさんを残して俺も突撃する。
少し開けた空間に出ると、巨大な斧を持ったミノタウロスが先輩と睨みあっていた。
そのサイズは縦にも横にも先輩の倍はあるのだが、左肩からは血が流れている。先輩に先制攻撃が炸裂して、相手も警戒しているのだろう。
その隙をついて、トールさん達が左右から切り込んでいる。
ミノタウロスはそれに対応するように斧を構え直すが、それを好機と見た瞬間に先輩がまた一閃をいれて足を突き刺す。
「ミュートはそいつの背後に回って、ダメージを与えてくれ」
先輩からの指示通りに動くと、その背中は常に隙だらけだった。
一心不乱にその背中を斬りつけまくるけど、思った以上に皮膚と筋肉が硬くてダメージが入っている手応えが無い。
ミノタウロスも俺の攻撃なんて気にしていないのか、他の3人しか攻撃していない。
攻撃を続けて数分経った頃、ようやくミノタウロスの視線が俺に向く。鬱陶しくなったのか塵も積もったダメージが入ってきたのかは分からないが、こちらに向かって斧を振り上げる。
「よし! ミュート良くやった!」
先輩の声が聞こえたと思った瞬間、ミノタウロスの動きが止まる。
俺の方を向いたと言うことは、今まで正面にいたクリス先輩に背を向けると言う事だ。それはミノタウロスにとって致命的だった。
そのまま俺の方に倒れて来たミノタウロスの背中、心臓部分に槍が深く刺さっていた。
「いい感じに刻まれてたから、槍が貫けたぜ」
その死体は手早く収納棚袋に入れられて、俺達はギルドに戻った。
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