17
「くわぁー! マジでどうなる事かと思ったぜ」
茂みから出てきたライトがげんなりした様子で自分の顔を揉んでいる。
「ライトがいなかったらと思うとぞっとする」
ウルフの頭を突き抜けた剣を抜きながら、一番の功労者を褒め称える。あの射撃の精度が無かったら俺達は全滅していた。
「いやいや、ダリルの立ち回りもなかなかだったぜ。それにロンも案外肝が据わってやがったが、一番体張ったのはミュートだな」
「……一番ボロボロ」
「そうだよ。無茶しすぎだよ」
そうだ、この戦いで良くわかった事がある。
――俺は弱い
おそらく、塔にいる人達は俺なんかより強いだろう。ライトの射撃の腕は抜群だったし、ダリルの立ち回りも凄かった。ロンも判断が早くきっちり後援をこなした。あの塔で一番弱いのは俺かも知れない。
「私、何にも役に立ちませんでしたわ」
驚いた事にミステルがそんな事を言い始めた。
「はぁ? 何言ってんだお前。確かに実働は何もしてねぇーけど――」
「いえ、いいんですの。そんな……自分で一番分かってますわ。この無能さは」
「いやいや。だから、何言ってんだよお前。この戦いで一番役立ったのは間違いなくお前のスキル"導く天使"ってやつだろ」
「はい? 今なんとおっしゃいましたか」
「……もしかして、気付いて無い」
「多分、気付いて無いね」
全員で顔を見合わせて大きく溜息をつく。
「俺のスキルは射撃しか無いはずだけど、この森に入るぐらいから増えた」
「そうそう、天使の導きっていうのが増えたよね」
「なんだよ。お前自分のスキル知らなかったのか」
「ああ、アタルさんがスキルの説明って言ってたから、こういうスキルもあるって事を学ばせる為のモノだと思ってた」
ポカンとしているミステルだが、気付いた様に髪飾りに手をあてる。
「仲間のスキルランクを1段階上げる」
何かに取り憑かれたかの様に呟くミステルはようやく自分スキルの恐ろしさを知ったらしい。
「……正直、その能力おかしいから」
「だな。まあ、そのスキルのおかげで助かったんだけどな」
「そ、そもそも、それが無かったらこのウルフと戦ってすら無かったよ」
戦い前に俺達がやたらと自信満々だったのはこういう事だったんだけど、本人は全く気付いて無かったようだ。
「まあ、おっちょこちょいをイジメるのはこの辺にして、ウルフを回収してさっさと帰ろうぜ」
「ああ、そうだな」
袋にウルフを押し込んで元来た道を戻る俺達の足取りは軽かった。
日が沈むまでとは言われたが、俺達の帰還はアタルさん達が思っていたよりも早かったらしい。二人揃って驚いていた。
「もう少しかかるかと思っていましたが――しかも、このサイズのウッドウルフとは驚きましたね」
「ホントだよ。あんたらの総合力を考えるとタックルボアの子供ぐらいを狩ってくるかと思ってたけどね」
絶賛する二人に一連の流れと、エステルのスキルを説明するとさらに驚いていた。
「天使と付くスキルは仲間を助ける効果が多いので期待はしていましたが、そこまでとは」
どうやら、こういった特殊スキルは発動するまで分からない事が多いらしい。その上、同じモノがある事はごく稀だそうだ。
「それでは、今日はここまでにしましょうか。あとは自由時間とします。体を休めるなり、トレーニングするなり、自由に過ごして下さい。明日は朝食を食べたら朝と同じ会議塔の部屋に集まって下さい」
そう言って中央塔に向かっていくアタルさんを見送ると、急に疲れが押し寄せてきた。
「……ミュート。今日こそ風呂行こう」
「ああ、行こう」
「お、いいね。俺もクタクタだわ、行こうぜ」
「それじゃあ、皆で行こうよ」
「皆さん仲がいいですのね。羨ましいですわ」
「なんならミステルも一緒に行くか」
「気持ちだけ置いて行きますわ。私も部屋に戻りますので、この辺で失礼しますわ」
絆を深めた俺達の二日目は実に有意義な一日に終わった。
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